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2『天使と悪魔』
2 第二章第八話「魔界初心者」
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カイ:
「まだ歩けるか、イデア」
イデア:
「うん、大丈夫」
カイはイデアの手を引きながら目の前に続いている一本道を歩いていた。逆に言えば他に道はなく、その一本道しか足場がない。加えて周囲は歪み澱んでおり、ここが次元の狭間であることを物語っていた。
カイ:
「……にしても皆どこに行ったんだろうな」
イデア:
「分からないけど、たぶん皆無事だと思うよ」
カイ:
「だろうな。たぶんおれ達と似た状況なんじゃないか?」
そう会話するカイとイデア。現在その空間においてカイ達は二人きりであった。
それはカイ達が付きの扉へ足を踏み入れた瞬間だった。突如闇が形を成してカイ達を襲ったのだ。その際カイは咄嗟にイデアを引き寄せたが、次の瞬間いつの間にかイデアと共にこの一本道の途中に立っていたのだった。
イデア:
「きっとダリルさんとメリルさんは一緒だよ。ダリルさんが咄嗟にメリルさんを引き寄せるのを見たから」
カイ:
「おれはミーアがダリルの方へ行くのを見たな。……てことはもしかするとヴァリウスは一人かもな」
イデア:
「カイと性格似てるからきっと寂しがって泣いてるね」
カイ:
「おれそんな泣き虫キャラだったっけ!?」
そんなこんなで歩いていると、一本道の先に光が見えてきた。ようやく終点である。
カイ:
「……光で先の様子が分かんないけど、なかなか未知なところに足を踏み出すのって緊張するよな」
その言葉通りカイが少し緊張していると、カイの手をイデアが優しく握りしめた。
イデア:
「大丈夫、わたしがいるよ」
微笑んでそう言うイデアに、カイも微笑み返す。
カイ:
「……そうだな。よし、行くか!」
そしてカイとイデアは一緒に光の中へ足を踏み入れた……はずだった。
カイとイデアの足は何も踏みしめることはなかった。空を切ったのだ。
つまり、カイとイデアはそのまま前のめりになると落下を開始していた。
カイ:
「どういうことぉ!?」
イデア:
「……っ!」
突然のことにカイは絶叫し、イデアは声にならない悲鳴を上げていた。
そして、光を抜けて遂に現状が露になる。
カイ達がいたのは空中、しかも禍々しい赤色の空の途中であった。だが、その空に太陽というものは存在せず、赤黒い雲に覆われて地上は薄暗い。
そしてカイ達の眼下には大きな国が見え、その国の最奥には大きな城のようなものが見えた。
カイ:
「これが、魔界……」
カイは人間界との違いに驚いていたが、すぐに現状を思い出した。
カイ:
「ってそんな場合じゃねえ! このままじゃ落下死する! イデア、セインを―――」
そう言ってイデアの方を向いたカイだったが、驚愕した。
イデア:
「……」
イデアは突然の落下に安らかな笑みを浮かべて気絶していたのだ。
カイ:
「ちょ、え、イデア!? ちょっと起きて! 頼むって! イデア! イデアさーん!」
必死に揺さぶるがイデアは目を覚まさない。
カイの焦りなど知らずに地面が容赦なく迫っていたのだった。
………………………………………………………………………………
ダリル:
「見ろ、全員だ」
ダリルがある方向を指差す。そこにはダリルと何ら見た目の変わらない人間が歩いていた。だが、それは決して人間ではないのである。
ダリル:
「ここが魔界であるのならば、奴らは全て悪魔族のはず。なのに見た目は全員私達と一緒だ」
そこにいる悪魔族達は全員翼も生えておらず、目も人間のそれと同じだった。髪の色も特に変わらずバラバラで、本当に人間と変わらない。
メリル:
「どういうこと? じゃあエイラとかが特別ってこと?」
ミーア:
「エイラは強いもんね。ありそう」
カイ達の予想通り、ダリルはメリル、そしてミーアと共にいた。
そしてダリル達がいる場所、そこは魔界の中心、つまりは王都アイレンゾードであった。
元々ダリル達が光を抜けた先は王都の隣国であったのだが、そこにこんな看板が立っていたのである。
『裏切り者、エイラ・フェデルは無事に捕らえられた。明後日、王都にて処刑を行う。見に来られたし』
ダリル達は困惑した。ダリル達はエイラ達のすぐ後に月の扉に入ったのだが、既にこのような情報が流れている。つまりエイラはもう王都に捕らえられており、ダリル達が例の一本道を行く間にかなりの時間が流れていたということであった。
仕組みはよく分からなかったが、処刑が明後日に迫っていると分かりダリル達は急いで王都を目指した。
だが、魔界初心者のダリル達に王都の方向が分かるわけもなく、結果迷っていた。
すると、その時ダリルの肩を何者かが叩いたのだ。
魔界においてダリルに知り合いがいるはずもない。そして何より、この魔界には悪魔族しか存在しないのだ。
ダリルは剣に手をかけながらサッと後ろを振り向くと、そこには人間と同じ見た目をした男の悪魔がいた。
その悪魔は笑顔でダリル達にこう言ったのである。
悪魔男:
「おめぇら、観光客か? 王都ならあっちだっぺ。あの道通ったら行けるどん」
そう、その悪魔は親切に道を教えてくれたのだった。
ダリル:
「あ、ありがとう」
まさか悪魔に親切にされるとは思っておらず、ダリルは驚きながら礼をする。
悪魔男:
「気にするなっぺ。世の中助け合ってこそじゃきぃ」
そう言って悪魔は去っていった。
ダリルだけでなくメリルもミーアも呆然とその悪魔の背中を見つめていた。
メリル:
「や、優しい悪魔もいるのね……」
ミーア:
「わたし達が人間って分かってないのかも」
ダリル:
「……とにかく先へ急ごう」
そうして無事に王都へ辿り着いたダリル達だったが、やはり悪魔達とすれ違っても人間だと喚かれたりすることはない。王都アイレンゾードは魔界の中心なだけあってたくさんの悪魔族がいるのだが、一人としてダリル達に気付く者はいないのだ。
ダリル:
「私達が人間とは気付いていないのか?」
メリル:
「悪魔族とか言いつつ、実は単なる人間なんじゃない?」
謎が深まるばかりであったが、悩んでいる時間がもったいない。
ミーア:
「まぁぐちぐち悩んでてもしょうがいないし、じゃあ早速エイラのところ行こっか」
ダリル:
「その前に情報収集をしよう。バレないなら余裕で聞き込みが出来るしな。……ミーア、間違っても人間だとバレるなよ」
ミーア:
「バレないよ! わたしを何だと思ってるのさ!」
ダリル:
「カイの妹」
ミーア:
「その言い方なんか嫌!」
メリル:
「ほらほら、さっさと聞き込みしに行きましょう!」
そんなこんなで、ダリル達は王都で聞き込みを行うことになったのだった。
………………………………………………………………………………
ダリル達が聞き込みを開始した頃、ヴァリウスはただ一人丘の上に佇んでいた。辺り一面真っ黒な森が広がっており、それ以外には何もない。
ヴァリウス:
「……場所が分からないんじゃ転移出来ないんだけど………」
魔界はヴァリウスも初めてである。転移は一度行ったことのある場所、あるいは座標が分かっている場所でないと不可能なのだ。
ヴァリウス:
「これからどうしよ、ここどこだよぅ……寂しい」
ヴァリウスは一人、膝を抱えて蹲っていた。
無事イデアの言う通りになっていたのであった。
………………………………………………………………………………
魔界において南西に位置する国、ジョードイン国にはある法律が定められていた。
ある年齢を超えた男性はイガ城と呼ばれる王の住む城に呼ばれ、そこで一生奴隷として働くか、それとも今ここで王を殺して王になるのか、という二択を迫られるのである。
もちろん招集を断ったら殺されるが、この法律が出来た当初は招集された男性全員が王を殺す、という選択をしたものだった。だがそれから月日が経った今、王を殺すなどと選択する者はいなくなった。全員が奴隷を選択するのである。
何故ならば、今まで王に挑んでいった者はことごとく亡き者になっているからだ。
王はそれほど強かった。どんなに力に自信があった者でも、最後は首だけ国民にさらされることになる。
よって、この国では最早その年齢を超えた男性は奴隷になる、という認識が強かった。
ではこの国を出れば万事解決なのでは、と思われるかもしれないが、国民達は全て首に首輪を装着しており、この国を離れた瞬間爆発する仕組みになっているのだ。そのためこの国から逃げることも出来ない。
誰もが王のやり方には不満を持っているが反抗は出来ない。力が全てのこの国ではそんな毎日が続いていた。
そんなジョードイン国で、城に呼ばれる年齢の一歩手前である青年ドライルは街中で二人の兵士に追われていた。
ドライル:
「はぁ……はぁ……」
兵士1:
「貴様、待て!」
ドライルは細く狭い入り組んだ道を何度も使って兵士を振り切ろうとするが、兵士もなかなかしぶとい。
そして幾度か道を曲がった時だった。
ドライル:
「っ、行き止まりか……!」
そこは袋小路だったのだ。
ドライルは急いで戻ろうとするがもう遅い。兵士が退路を断っていた。
兵士1:
「いい加減にしてもらおうか」
兵士2:
「大人しく、それを渡せ」
それ、とはドライルが右手に握りしめている古びた紙のことだ。
だが、ドライルにそれを渡すつもりは毛頭ない。
ドライル:
「(駄目だ、これは絶対に必要なものなんだ。やっと手に入れたんだ。絶対渡さない……こうなったら戦うしか……!)」
だが、そんなドライルの心を読んだのか兵士がニヤリと笑う。
兵士1:
「戦おうとするな。俺達と戦えば死刑確定だ。だが、今それを返せば奴隷にするだけにとどめておいてやろう!」
ドライル:
「っ、誰がおまえ達の奴隷なんかに……!」
覚悟を決めてドライルが飛び出そうとした時だった。
???:
「……! ……ア!」
ドライル:
「……なんだ?」
空から何やら声が聞こえてきたのだ。
ドライルも兵士達も不思議に思って視線を上にあげる。そして、その光景に目を見開いた。
カイ:
「おい、イデア! マジでピンチだから! もう地面すぐそこまで迫ってるからぁ!」
ドライル達の上空には、涙目で叫んでいるカイと笑顔で気絶しているイデアの姿があった。
イデアは、まだ起きていなかった。
「まだ歩けるか、イデア」
イデア:
「うん、大丈夫」
カイはイデアの手を引きながら目の前に続いている一本道を歩いていた。逆に言えば他に道はなく、その一本道しか足場がない。加えて周囲は歪み澱んでおり、ここが次元の狭間であることを物語っていた。
カイ:
「……にしても皆どこに行ったんだろうな」
イデア:
「分からないけど、たぶん皆無事だと思うよ」
カイ:
「だろうな。たぶんおれ達と似た状況なんじゃないか?」
そう会話するカイとイデア。現在その空間においてカイ達は二人きりであった。
それはカイ達が付きの扉へ足を踏み入れた瞬間だった。突如闇が形を成してカイ達を襲ったのだ。その際カイは咄嗟にイデアを引き寄せたが、次の瞬間いつの間にかイデアと共にこの一本道の途中に立っていたのだった。
イデア:
「きっとダリルさんとメリルさんは一緒だよ。ダリルさんが咄嗟にメリルさんを引き寄せるのを見たから」
カイ:
「おれはミーアがダリルの方へ行くのを見たな。……てことはもしかするとヴァリウスは一人かもな」
イデア:
「カイと性格似てるからきっと寂しがって泣いてるね」
カイ:
「おれそんな泣き虫キャラだったっけ!?」
そんなこんなで歩いていると、一本道の先に光が見えてきた。ようやく終点である。
カイ:
「……光で先の様子が分かんないけど、なかなか未知なところに足を踏み出すのって緊張するよな」
その言葉通りカイが少し緊張していると、カイの手をイデアが優しく握りしめた。
イデア:
「大丈夫、わたしがいるよ」
微笑んでそう言うイデアに、カイも微笑み返す。
カイ:
「……そうだな。よし、行くか!」
そしてカイとイデアは一緒に光の中へ足を踏み入れた……はずだった。
カイとイデアの足は何も踏みしめることはなかった。空を切ったのだ。
つまり、カイとイデアはそのまま前のめりになると落下を開始していた。
カイ:
「どういうことぉ!?」
イデア:
「……っ!」
突然のことにカイは絶叫し、イデアは声にならない悲鳴を上げていた。
そして、光を抜けて遂に現状が露になる。
カイ達がいたのは空中、しかも禍々しい赤色の空の途中であった。だが、その空に太陽というものは存在せず、赤黒い雲に覆われて地上は薄暗い。
そしてカイ達の眼下には大きな国が見え、その国の最奥には大きな城のようなものが見えた。
カイ:
「これが、魔界……」
カイは人間界との違いに驚いていたが、すぐに現状を思い出した。
カイ:
「ってそんな場合じゃねえ! このままじゃ落下死する! イデア、セインを―――」
そう言ってイデアの方を向いたカイだったが、驚愕した。
イデア:
「……」
イデアは突然の落下に安らかな笑みを浮かべて気絶していたのだ。
カイ:
「ちょ、え、イデア!? ちょっと起きて! 頼むって! イデア! イデアさーん!」
必死に揺さぶるがイデアは目を覚まさない。
カイの焦りなど知らずに地面が容赦なく迫っていたのだった。
………………………………………………………………………………
ダリル:
「見ろ、全員だ」
ダリルがある方向を指差す。そこにはダリルと何ら見た目の変わらない人間が歩いていた。だが、それは決して人間ではないのである。
ダリル:
「ここが魔界であるのならば、奴らは全て悪魔族のはず。なのに見た目は全員私達と一緒だ」
そこにいる悪魔族達は全員翼も生えておらず、目も人間のそれと同じだった。髪の色も特に変わらずバラバラで、本当に人間と変わらない。
メリル:
「どういうこと? じゃあエイラとかが特別ってこと?」
ミーア:
「エイラは強いもんね。ありそう」
カイ達の予想通り、ダリルはメリル、そしてミーアと共にいた。
そしてダリル達がいる場所、そこは魔界の中心、つまりは王都アイレンゾードであった。
元々ダリル達が光を抜けた先は王都の隣国であったのだが、そこにこんな看板が立っていたのである。
『裏切り者、エイラ・フェデルは無事に捕らえられた。明後日、王都にて処刑を行う。見に来られたし』
ダリル達は困惑した。ダリル達はエイラ達のすぐ後に月の扉に入ったのだが、既にこのような情報が流れている。つまりエイラはもう王都に捕らえられており、ダリル達が例の一本道を行く間にかなりの時間が流れていたということであった。
仕組みはよく分からなかったが、処刑が明後日に迫っていると分かりダリル達は急いで王都を目指した。
だが、魔界初心者のダリル達に王都の方向が分かるわけもなく、結果迷っていた。
すると、その時ダリルの肩を何者かが叩いたのだ。
魔界においてダリルに知り合いがいるはずもない。そして何より、この魔界には悪魔族しか存在しないのだ。
ダリルは剣に手をかけながらサッと後ろを振り向くと、そこには人間と同じ見た目をした男の悪魔がいた。
その悪魔は笑顔でダリル達にこう言ったのである。
悪魔男:
「おめぇら、観光客か? 王都ならあっちだっぺ。あの道通ったら行けるどん」
そう、その悪魔は親切に道を教えてくれたのだった。
ダリル:
「あ、ありがとう」
まさか悪魔に親切にされるとは思っておらず、ダリルは驚きながら礼をする。
悪魔男:
「気にするなっぺ。世の中助け合ってこそじゃきぃ」
そう言って悪魔は去っていった。
ダリルだけでなくメリルもミーアも呆然とその悪魔の背中を見つめていた。
メリル:
「や、優しい悪魔もいるのね……」
ミーア:
「わたし達が人間って分かってないのかも」
ダリル:
「……とにかく先へ急ごう」
そうして無事に王都へ辿り着いたダリル達だったが、やはり悪魔達とすれ違っても人間だと喚かれたりすることはない。王都アイレンゾードは魔界の中心なだけあってたくさんの悪魔族がいるのだが、一人としてダリル達に気付く者はいないのだ。
ダリル:
「私達が人間とは気付いていないのか?」
メリル:
「悪魔族とか言いつつ、実は単なる人間なんじゃない?」
謎が深まるばかりであったが、悩んでいる時間がもったいない。
ミーア:
「まぁぐちぐち悩んでてもしょうがいないし、じゃあ早速エイラのところ行こっか」
ダリル:
「その前に情報収集をしよう。バレないなら余裕で聞き込みが出来るしな。……ミーア、間違っても人間だとバレるなよ」
ミーア:
「バレないよ! わたしを何だと思ってるのさ!」
ダリル:
「カイの妹」
ミーア:
「その言い方なんか嫌!」
メリル:
「ほらほら、さっさと聞き込みしに行きましょう!」
そんなこんなで、ダリル達は王都で聞き込みを行うことになったのだった。
………………………………………………………………………………
ダリル達が聞き込みを開始した頃、ヴァリウスはただ一人丘の上に佇んでいた。辺り一面真っ黒な森が広がっており、それ以外には何もない。
ヴァリウス:
「……場所が分からないんじゃ転移出来ないんだけど………」
魔界はヴァリウスも初めてである。転移は一度行ったことのある場所、あるいは座標が分かっている場所でないと不可能なのだ。
ヴァリウス:
「これからどうしよ、ここどこだよぅ……寂しい」
ヴァリウスは一人、膝を抱えて蹲っていた。
無事イデアの言う通りになっていたのであった。
………………………………………………………………………………
魔界において南西に位置する国、ジョードイン国にはある法律が定められていた。
ある年齢を超えた男性はイガ城と呼ばれる王の住む城に呼ばれ、そこで一生奴隷として働くか、それとも今ここで王を殺して王になるのか、という二択を迫られるのである。
もちろん招集を断ったら殺されるが、この法律が出来た当初は招集された男性全員が王を殺す、という選択をしたものだった。だがそれから月日が経った今、王を殺すなどと選択する者はいなくなった。全員が奴隷を選択するのである。
何故ならば、今まで王に挑んでいった者はことごとく亡き者になっているからだ。
王はそれほど強かった。どんなに力に自信があった者でも、最後は首だけ国民にさらされることになる。
よって、この国では最早その年齢を超えた男性は奴隷になる、という認識が強かった。
ではこの国を出れば万事解決なのでは、と思われるかもしれないが、国民達は全て首に首輪を装着しており、この国を離れた瞬間爆発する仕組みになっているのだ。そのためこの国から逃げることも出来ない。
誰もが王のやり方には不満を持っているが反抗は出来ない。力が全てのこの国ではそんな毎日が続いていた。
そんなジョードイン国で、城に呼ばれる年齢の一歩手前である青年ドライルは街中で二人の兵士に追われていた。
ドライル:
「はぁ……はぁ……」
兵士1:
「貴様、待て!」
ドライルは細く狭い入り組んだ道を何度も使って兵士を振り切ろうとするが、兵士もなかなかしぶとい。
そして幾度か道を曲がった時だった。
ドライル:
「っ、行き止まりか……!」
そこは袋小路だったのだ。
ドライルは急いで戻ろうとするがもう遅い。兵士が退路を断っていた。
兵士1:
「いい加減にしてもらおうか」
兵士2:
「大人しく、それを渡せ」
それ、とはドライルが右手に握りしめている古びた紙のことだ。
だが、ドライルにそれを渡すつもりは毛頭ない。
ドライル:
「(駄目だ、これは絶対に必要なものなんだ。やっと手に入れたんだ。絶対渡さない……こうなったら戦うしか……!)」
だが、そんなドライルの心を読んだのか兵士がニヤリと笑う。
兵士1:
「戦おうとするな。俺達と戦えば死刑確定だ。だが、今それを返せば奴隷にするだけにとどめておいてやろう!」
ドライル:
「っ、誰がおまえ達の奴隷なんかに……!」
覚悟を決めてドライルが飛び出そうとした時だった。
???:
「……! ……ア!」
ドライル:
「……なんだ?」
空から何やら声が聞こえてきたのだ。
ドライルも兵士達も不思議に思って視線を上にあげる。そして、その光景に目を見開いた。
カイ:
「おい、イデア! マジでピンチだから! もう地面すぐそこまで迫ってるからぁ!」
ドライル達の上空には、涙目で叫んでいるカイと笑顔で気絶しているイデアの姿があった。
イデアは、まだ起きていなかった。
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