18 / 34
第二章 私はあなたの姉で、恋人ではありません
勘違い
しおりを挟む
オーランドが店を出た後、ロンも帰ろうとしたけど、ジョンソンさんに懇願され、店に残った。窓際の特等席に案内され、メニューを渡される。
ロンはやっぱり少し怒った顔をしていて、居た堪れない。
ジョンソンさんもそうらしく、注文が決まったら呼んでくださいといなくなってしまった。
って言うか、引き止めたんでしょう?ならちょっと会話~。
沈黙に耐えられず、結局私が先に口を開く。
「ロン。どうしたの?」
気を利かせてくれたのか、周りには誰もいなくて、小声で聞いてみる。
「僕は、オーランドが許せないのです。姉上は知ってますか?いえ、馬鹿なことを聞きました。忘れてください」
「気になる。何のこと?」
なんだろう。
オーランドが許せないって?
ロンは答えず、ただ不機嫌なままだ。
「ロン。教えてちょうだい。なぜあなたはそんなに怒っているの?」
彼の不機嫌な理由が聞きたくて、雇用関係であるという枠を超え、マリーの気持ちのまま尋ねた。
ロンは眉を顰め、口をつぐんでいたが、溜息をつくと私を見た。
空色の瞳が真剣で、目が離せない。
かつての私の瞳と同じ、空色の瞳。暗い陰が落ちて、惹き込まれそうになる。
「オーランドは姉上を裏切ったのです」
「は?」
思わぬことを言われ、声を上げてしまった。
周りを見渡してみたが、注目はされておらずほっとして声を落とす。
「裏切った?何を?」
「オーランドは姉上に愛を誓い、婚約をしていた。なのに、警備兵団に入団して、四年もたたず別の人と結婚してしまった。僕は許せないのです」
「ロン。それは間違いよ」
ロンの怒りが意外なもので驚いた。
っていうか、私とオーランドは愛なんて誓いあってないし。たまたま親同士が決めた婚約だったはず。
まあ、嫌いじゃないなかったけど。愛っていうものはなかった気がする。あえて例えるなら友愛かな。
「勘違い?姉上は怒らないのですか?」
「全然。オーランドが結婚したのは正しいことよ。結局離婚しちゃったみたいだけど、年頃であれば結婚すべきでしょう?マリーは死んじゃったし、仕方ないじゃない」
「仕方ないって。姉上!」
「しっ、静かに」
ロンが声を荒げたので、私は慌てて彼に注意する。
それはとてもおかしな様子だったとその時は気づけなかった。
十六歳、しかも使用人の私が雇用主、二十九歳の旦那様に注意をする。けれども、この時はマリーの意識が強く出ていて違和感など感じることもなかった。
「ロン。オーランドを怒るのはおかしいわ。彼は彼の人生を歩むべきなの。ロン、それはあなたにも言えることよ。マリーは死んだ存在なの。忘れて前を向くべきよ」
「姉上。そんなこと言わないでください。僕は、いつまでたっても姉上をお慕いしております」
「ロン。お願い。もうマリーのことは忘れて。彼女は過去の存在よ」
「嫌です。絶対に」
「ロン……」
彼の瞳が潤み始め、泣き出しそうに見えた。けれども彼は目を閉じてそれを堪えたように思えた。
「姉上。どうか、僕があなたを思い続けることを許してください。それが僕にとっても贖罪でもあるのです。あなたは僕のために死んでしまった。本当は、僕もあなたと一緒に死んでしまいたかった」
「ロン。お願い。そんなこと言わないで。私はあなたを庇えてよかったわ。あなたを救えて、本当に嬉しいの。成長したあなたを見て嬉しいし。ね。だから贖罪なんて言わないで」「姉上」
ロンはじっと私を見つめていた。
「姉上。あなたに触れてもいいですか?」
「は、え?」
戸惑う私に構わず、彼が私の頬に触れた。
ちょっと、えっと。
「あなたは戻ってきた。僕は嬉しい」
え、いや。
戻ってきたと言えばそうだけど、私は今はジャネットだし。
ロンは微笑みながら私の頬を撫で続ける。
「ちょっとロン。いえ、旦那様」
頬を撫でられる感触に、私はやっと今の自分を思い出す。いや、我に返った。
「姉上」
「旦那様。注文しましょう。ここではちょっとまずいです」
なんだか注目されてる気がする。
席は離れているけど、行動は店内のどこからでも丸見えで、ちらちらと見られている気がする~~。
「じゃあ、屋敷に戻ったらまた触っていいですか?」
「だめ、です」
なんでそこで笑うのよ。ロン。
さっきまで沈んでいた様子が嘘のように、彼は嬉しそうに笑っていた。
もう、訳がわからないわ。
っていうか、これ噂になるよね。きっと
ロンはやっぱり少し怒った顔をしていて、居た堪れない。
ジョンソンさんもそうらしく、注文が決まったら呼んでくださいといなくなってしまった。
って言うか、引き止めたんでしょう?ならちょっと会話~。
沈黙に耐えられず、結局私が先に口を開く。
「ロン。どうしたの?」
気を利かせてくれたのか、周りには誰もいなくて、小声で聞いてみる。
「僕は、オーランドが許せないのです。姉上は知ってますか?いえ、馬鹿なことを聞きました。忘れてください」
「気になる。何のこと?」
なんだろう。
オーランドが許せないって?
ロンは答えず、ただ不機嫌なままだ。
「ロン。教えてちょうだい。なぜあなたはそんなに怒っているの?」
彼の不機嫌な理由が聞きたくて、雇用関係であるという枠を超え、マリーの気持ちのまま尋ねた。
ロンは眉を顰め、口をつぐんでいたが、溜息をつくと私を見た。
空色の瞳が真剣で、目が離せない。
かつての私の瞳と同じ、空色の瞳。暗い陰が落ちて、惹き込まれそうになる。
「オーランドは姉上を裏切ったのです」
「は?」
思わぬことを言われ、声を上げてしまった。
周りを見渡してみたが、注目はされておらずほっとして声を落とす。
「裏切った?何を?」
「オーランドは姉上に愛を誓い、婚約をしていた。なのに、警備兵団に入団して、四年もたたず別の人と結婚してしまった。僕は許せないのです」
「ロン。それは間違いよ」
ロンの怒りが意外なもので驚いた。
っていうか、私とオーランドは愛なんて誓いあってないし。たまたま親同士が決めた婚約だったはず。
まあ、嫌いじゃないなかったけど。愛っていうものはなかった気がする。あえて例えるなら友愛かな。
「勘違い?姉上は怒らないのですか?」
「全然。オーランドが結婚したのは正しいことよ。結局離婚しちゃったみたいだけど、年頃であれば結婚すべきでしょう?マリーは死んじゃったし、仕方ないじゃない」
「仕方ないって。姉上!」
「しっ、静かに」
ロンが声を荒げたので、私は慌てて彼に注意する。
それはとてもおかしな様子だったとその時は気づけなかった。
十六歳、しかも使用人の私が雇用主、二十九歳の旦那様に注意をする。けれども、この時はマリーの意識が強く出ていて違和感など感じることもなかった。
「ロン。オーランドを怒るのはおかしいわ。彼は彼の人生を歩むべきなの。ロン、それはあなたにも言えることよ。マリーは死んだ存在なの。忘れて前を向くべきよ」
「姉上。そんなこと言わないでください。僕は、いつまでたっても姉上をお慕いしております」
「ロン。お願い。もうマリーのことは忘れて。彼女は過去の存在よ」
「嫌です。絶対に」
「ロン……」
彼の瞳が潤み始め、泣き出しそうに見えた。けれども彼は目を閉じてそれを堪えたように思えた。
「姉上。どうか、僕があなたを思い続けることを許してください。それが僕にとっても贖罪でもあるのです。あなたは僕のために死んでしまった。本当は、僕もあなたと一緒に死んでしまいたかった」
「ロン。お願い。そんなこと言わないで。私はあなたを庇えてよかったわ。あなたを救えて、本当に嬉しいの。成長したあなたを見て嬉しいし。ね。だから贖罪なんて言わないで」「姉上」
ロンはじっと私を見つめていた。
「姉上。あなたに触れてもいいですか?」
「は、え?」
戸惑う私に構わず、彼が私の頬に触れた。
ちょっと、えっと。
「あなたは戻ってきた。僕は嬉しい」
え、いや。
戻ってきたと言えばそうだけど、私は今はジャネットだし。
ロンは微笑みながら私の頬を撫で続ける。
「ちょっとロン。いえ、旦那様」
頬を撫でられる感触に、私はやっと今の自分を思い出す。いや、我に返った。
「姉上」
「旦那様。注文しましょう。ここではちょっとまずいです」
なんだか注目されてる気がする。
席は離れているけど、行動は店内のどこからでも丸見えで、ちらちらと見られている気がする~~。
「じゃあ、屋敷に戻ったらまた触っていいですか?」
「だめ、です」
なんでそこで笑うのよ。ロン。
さっきまで沈んでいた様子が嘘のように、彼は嬉しそうに笑っていた。
もう、訳がわからないわ。
っていうか、これ噂になるよね。きっと
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
シェリーさんと(表情筋が)鋼鉄の旦那様
もなか
恋愛
北の令嬢シェリーは(表情筋が)鋼鉄な旦那様とゆっくりと歩み寄っていく。その恋はやがて愛へと昇華する。
*本編完結済み
*番外編完結
ご愛読ありがとうございました!
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
【完結】《今世は、彼と出会わない》何度死んでも愛してる
のんびり歩く
恋愛
私には、三度の人生の記憶がある。
最初は巫女としての人生。
二度目は、農家の娘としての人生。
そして三度目は、町で暮らす平民の娘としての人生。
どの人生でも私は彼と出会い、多くの者達を不幸にして死ぬ。それでも私は幸せだった。けれど彼はどうだったのだろう。私の為に大切な人達を手放した彼は・・・だから今世は、彼と出会わない。そう決めて引きこもっていたのに、何で??どうしてこうなったの???
【完結】全力告白女子は、今日も変わらず愛を叫ぶ
たまこ
恋愛
素直で元気が取り柄のジュディスは、無口で武骨な陶芸家ダンフォースへ、毎日飽きもせず愛を叫ぶが、ダンフォースはいつだってつれない態度。それでも一緒にいてくれることを喜んでいたけれど、ある日ダンフォースが、見たことのない笑顔を見せる綺麗な女性が現れて・・・。
捨てら令嬢。はずれギフト『キノコ』を理由に家族から追放されましたが、菌の力とおばあちゃん力で快適生活始めます
渡里あずま
恋愛
ゲルダは不幸だった。
伯爵令嬢として生まれたが母を亡くし、七歳になったばかりのゲルダを守る筈の父は母が死んでまもなく、愛人とその娘を引き取った。そして、彼女を使用人としてこき使った。
しかしそれがマシだと知ったのは、ゲルダが十五歳になる年の『天祐の儀』の時だった。成人の年に、神から与えられるギフトを教えて貰うのだけれど。
「あなたのギフトは『キノコ』です」
「…………え?」
『聞いたことのない』加護を家族ははずれギフトとみなし、家の役に立たないから森番になって引きこもれと言われて、家を追い出されて森番になれと言われて、捨てられるように一人、置いていかれる。
空腹と絶望で、ゲルダはその場で気絶――しそうになった瞬間、前世の、そしてこの世界に『生まれ変わる時』女神とした会話を思い出す。
※※※
理不尽にこき使われてきた主人公が、最恐の守護者に溺愛されて幸せになる話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。
朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。
しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。
向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。
終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。
虐げられた仮面の姫は破滅王の秘密を知る
涼月
恋愛
ナジュム王国の塔の中には、呪われた姫が囚われていた。
だが、真実は王位を奪った弟が、兄王の娘ティアナ姫を監禁していたのだった。
ナジュム王国の隣国、アルタイル帝国は強大な兵力を持って次々と隣国を支配下に治めていた。
次は自国の番かもしれないと恐れたナジュム王は、縁戚関係を結ぶべく、ティアナ姫を破滅王と噂されるアルタイル帝国現王、エクレール王へ嫁がせることにした。
最初はティアナsideで進みますが、途中からエクレールsideと交互に進みます。
ラストのほうで、ほんのり程度の性描写があります。本当にほんのりですが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる