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第二章 私はあなたの姉で、恋人ではありません

勘違い

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オーランドが店を出た後、ロンも帰ろうとしたけど、ジョンソンさんに懇願され、店に残った。窓際の特等席に案内され、メニューを渡される。
 ロンはやっぱり少し怒った顔をしていて、居た堪れない。 
 ジョンソンさんもそうらしく、注文が決まったら呼んでくださいといなくなってしまった。
 って言うか、引き止めたんでしょう?ならちょっと会話~。
 沈黙に耐えられず、結局私が先に口を開く。

「ロン。どうしたの?」

 気を利かせてくれたのか、周りには誰もいなくて、小声で聞いてみる。

「僕は、オーランドが許せないのです。姉上は知ってますか?いえ、馬鹿なことを聞きました。忘れてください」
「気になる。何のこと?」

 なんだろう。
 オーランドが許せないって?

 ロンは答えず、ただ不機嫌なままだ。
 
「ロン。教えてちょうだい。なぜあなたはそんなに怒っているの?」

 彼の不機嫌な理由が聞きたくて、雇用関係であるという枠を超え、マリーの気持ちのまま尋ねた。
 ロンは眉を顰め、口をつぐんでいたが、溜息をつくと私を見た。
 空色の瞳が真剣で、目が離せない。
 かつての私の瞳と同じ、空色の瞳。暗い陰が落ちて、惹き込まれそうになる。

「オーランドは姉上を裏切ったのです」
「は?」

 思わぬことを言われ、声を上げてしまった。
 周りを見渡してみたが、注目はされておらずほっとして声を落とす。

「裏切った?何を?」
「オーランドは姉上に愛を誓い、婚約をしていた。なのに、警備兵団に入団して、四年もたたず別の人と結婚してしまった。僕は許せないのです」
「ロン。それは間違いよ」

 ロンの怒りが意外なもので驚いた。
 っていうか、私とオーランドは愛なんて誓いあってないし。たまたま親同士が決めた婚約だったはず。
 まあ、嫌いじゃないなかったけど。愛っていうものはなかった気がする。あえて例えるなら友愛かな。
 
「勘違い?姉上は怒らないのですか?」
「全然。オーランドが結婚したのは正しいことよ。結局離婚しちゃったみたいだけど、年頃であれば結婚すべきでしょう?マリーは死んじゃったし、仕方ないじゃない」
「仕方ないって。姉上!」
「しっ、静かに」

 ロンが声を荒げたので、私は慌てて彼に注意する。
 それはとてもおかしな様子だったとその時は気づけなかった。
 十六歳、しかも使用人の私が雇用主、二十九歳の旦那様に注意をする。けれども、この時はマリーの意識が強く出ていて違和感など感じることもなかった。

「ロン。オーランドを怒るのはおかしいわ。彼は彼の人生を歩むべきなの。ロン、それはあなたにも言えることよ。マリーは死んだ存在なの。忘れて前を向くべきよ」
「姉上。そんなこと言わないでください。僕は、いつまでたっても姉上をお慕いしております」
「ロン。お願い。もうマリーのことは忘れて。彼女は過去の存在よ」
「嫌です。絶対に」
「ロン……」

 彼の瞳が潤み始め、泣き出しそうに見えた。けれども彼は目を閉じてそれを堪えたように思えた。

「姉上。どうか、僕があなたを思い続けることを許してください。それが僕にとっても贖罪でもあるのです。あなたは僕のために死んでしまった。本当は、僕もあなたと一緒に死んでしまいたかった」
「ロン。お願い。そんなこと言わないで。私はあなたを庇えてよかったわ。あなたを救えて、本当に嬉しいの。成長したあなたを見て嬉しいし。ね。だから贖罪なんて言わないで」「姉上」

 ロンはじっと私を見つめていた。

「姉上。あなたに触れてもいいですか?」
「は、え?」

 戸惑う私に構わず、彼が私の頬に触れた。
 ちょっと、えっと。

「あなたは戻ってきた。僕は嬉しい」

 え、いや。
 戻ってきたと言えばそうだけど、私は今はジャネットだし。
 ロンは微笑みながら私の頬を撫で続ける。

「ちょっとロン。いえ、旦那様」

 頬を撫でられる感触に、私はやっと今の自分を思い出す。いや、我に返った。

「姉上」
「旦那様。注文しましょう。ここではちょっとまずいです」

 なんだか注目されてる気がする。
 席は離れているけど、行動は店内のどこからでも丸見えで、ちらちらと見られている気がする~~。

 「じゃあ、屋敷に戻ったらまた触っていいですか?」
 「だめ、です」

  なんでそこで笑うのよ。ロン。
  さっきまで沈んでいた様子が嘘のように、彼は嬉しそうに笑っていた。
  もう、訳がわからないわ。
  っていうか、これ噂になるよね。きっと
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