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第一章 私の前世はちょっとおかしな旦那様の姉上

面談

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「最後の候補者のジャネット・ソウです」

 カーネルさんはそう言うと部屋を出ていってしまった。
 空気が重いし、逃げ出したいと思ったけど、こうしてお父様たちと直接話すのもいい機会かもしれない。
 うん。

「大旦那様、大奥様、そして旦那様。ジャネット・ソウです」
「君と直接話すのは二回目だね。早々に旅行に出てしまい、ゆっくり話す機会もなかったな」
「そうね。こんなことならお土産を買ってくればよかったわ」

 お土産?
 なんでそんなことに。

 お父様とお母様がそんなことを話しているのだが、ロンは無言だ。
 じっと私を見ている。
 怖いんだけど。
 でも負けちゃいけない。
 ここは、私はマリーじゃないと主張しなければ。

「大旦那様、大奥様。今回、私が候補者なのは何か手違いなのです。私は三週間前からこちらで働かせていただいているただのメイドですし、マリー様の記憶などこれっぽちもないですから」
「おや?ロン曰く。君がマリーの生まれ変わりである可能性が高いという話だったのだが」
「いえ。まったく。ありえません」
「そうなの?」

 二人は驚いたようにして、ロンを見ている。
 ロンの表情がめっちゃ険しいんだけど。見ないようにしよう。

「それよりも、他の候補者の方に目を向けていただいたほうが。カーネルさんと一生懸命選ばせていただきました。どの候補者も相応しい方々だと思います」
 
 猫みたいに威嚇しているのは怖かったけど、まあ、結婚相手としては問題なさそうだったもんね。
 マリーとは関係ないけど。

「そうだね。君たちには頑張って選んでもらったかいがあったよ。どの候補者の熱意もすごかったな」
「ええ。ロンを引っ張っていっていきそうでしたわ。マリーもそうだったものね」
「ああ。マリーは大人しいロンを気にして、よく遊んであげてたな。木登りを教えた時はやり過ぎだと思ったがな」
「あれは、やり過ぎでしたわ。マリーが奔放すぎたせいで、ロンが大人しくなったかもしれないわね」
 
 え。
 そんな風に思われていたんだ。
 自由気ままに過ごしていたけど、やっぱり奔放すぎた?
 っていうか、ロンはそれのせいで?

 ロンを見ると、険しい表情が和らいでいた。
 にこりと微笑まれて、びっくり。
 私(マリー)のせいではないというつもりなのかな。

「オーランドを巻き込んで隠れんぼした時は、本当に冷や汗ものだったな。オーランドが青い顔してやってくるから何かと思えば、屋根の上に二人で登って降りれなくなったとか」

 ああ、そんなことあったわね。
 怯えるロンをせっついて梯子で屋根に登ったのはいいけど、降りる時に急に怖くなったのよね。
 本当、考えてみれば確かにマリーは破天荒すぎたかもしれないわ。
 
「あの時姉上は、僕をせっついて梯子を登らせたのです。だけどその後ご自身も登り切ってから急に青い顔をされて。あの時、初めて姉上が可愛いと思いました」
「可愛い?」

 そんな風に思われていたの?
 弟に。
 ちょっとそれは嫌かもしれない。

「姉上は泣きそうになってオーランドを大声で呼んで、助けを呼んできてちょうだいって言ったんですよね。僕、ちょっとおかしかったです」
「おかしいって。だってとっさにそれしか浮かばなかったもの」

 あ?
 クスクスと笑うロンに頭にきて思わず、そう言ってしまった。
 まずい、これはまずい。
 
 部屋が静まり返って、お父様とお母様が目を丸くして私を見ている。

「と、マリー様はきっと思ったはずです」

 これでどうだ!

「……ジャネット。いえ、姉上。見苦しいですよ。あなたはマリー・ハレットの生まれ変わりですよね」
「とんでもありません。お、大旦那様、生まれ変わりなんて、そんなこと信じられませんよね。ね、お、大奥様も、そう思いますよね」

 必死に私は二人に主張するが、何やら二人は困惑しており、何も答えない。
 いーや、生まれ変わりはない。ないの。

「大旦那様、大奥様。面談はこれで終了でしょうか?メイドの仕事に戻ってもよろしいでしょうか?相応しい候補者の方からゆっくり選んで、」
「マリー、お前なのか?」
「マリー、本当にあなたなの?」
「い、いえ。何を言って。生まれ変わりなんて」

 二人はなぜか泣きそうで、私も泣きたくなった。
 私がマリーの生まれ変わりです。また会えて嬉しい。って言いたい。
 だけど、だけど。

「父上、母上。ジャネットと二人っきりにさせてもらってもいいですか?」
「それは、どういう」
「ジャネットと二人で話したいことがあるのです」
「……あなた。ロンがそういうのであればそうしてあげましょう」

 え?
 ここで二人は退場。
 っていうか、ロン。なんで二人っきりになりたいの?
 出ていかないで、と泣きつきたくなったが、私はメイド。
 しかも今はマリーではないと主張しているただのメイド。
 だから、部屋を出る二人の背中を見送るしかなかった。
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