3 / 48
恋なんて関係ない。
1-3 手紙
しおりを挟むファリエス様の訪問から二週間後、突然手紙が届いた。
それはナイゼル・カランという輩からだった。
知らない男だった。
そもそも男から手紙など、父上以外からもらったことがない。
そんなことはどうでもいいのだが、書いている内容がめちゃくちゃだった。
なんでもナイゼル・カランの妹を私が誑かしている。
そしてカサンドラ騎士団の入団試験を無理やり受けさせようとしている。
略してみるならそんな内容だった。
ナイゼル・カラン。
カランといえば……
ファリエス様の従姉妹で、入団試験を受けようとしているのが確か、エリー・カランだったな。
確か本人がかなりやる気だといっていたような……。
勘違い?
誰のだ?
とりあえずファリエス様に確かめるのは面倒、いやいやお手を煩わせるのもなんなので、ナイゼル・カランに直接返事を書いた。
ナイゼル・カラン様
あなたは何か勘違いしている。
あなたの従姉妹のファリエス様は確か、妹君本人が入団希望と言っていた。
私はあなたの妹君にも会ったことがないので、誑かすなど意味がわからない。
真相は妹君自身に確かめてくれ。
以上。
ジュネ・ネスマン
親愛なるとか、愛を込めてなど通常の手紙にはつけるべきなのだが、省いた。
こいつとは知り合いでもない。
しかもこいつの手紙も似たようなものだった。
返事は三日後にきた。
ネスマン殿
すまなかった。
しかし、頼みがある。
妹を説得してくれ。
カサンドラ騎士団に入るために、毎日修行をしているようで、手に豆ができているようだ。
頼む。
以上。
ナイゼル・カラン
……なんなのだろうか。
これは世にいうあれ、だろうか。
小さな子供ではないのだから。
自分の道は自分で決めるべきだ。
やりたいならやらせるのが一番だろう。
そう思って私は無視をした。
するとまた手紙が来た。
ネスマン殿
妹を説得されたし。
明日、正午。
狐亭で待つ。
以上。
ナイゼル・カラン
……待ち合わせ……か。
ナイゼル・カラン……。
突然明日なんて、いったい何のつもりだ。
そんなに妹のことが心配なのか。
行くべきか、行かざるべきか。
その日私は手紙をもったまま、団長室をうろうろしてしまった。
手紙を届けたものが不信がっていたが、そんなことはどうでもいい。
待つと書かれているのだから行くべきだろう。
しかし、何か緊張してしまう。
男と二人で会うということか、いやいやそんなことはない。
けしてない。
そうして心が決まらないまま、翌日の朝を迎えてしまった。
「おはようございます!」
部屋を出て、食堂に向かって歩いていると、二番隊の隊長のカリナ・ヘッセに朝の挨拶を受ける。
背は小柄なほうだ。しかし小柄な体を生かした攻撃がなかなかの強者だ。
ファリエス様に次ぐ、速さを持つ騎士だった。
そういう彼女は団の中では一番可愛い。
私はそう思っている。
くるくると巻かれた髪が彼女の愛くるしい顔に似合っている。
彼女に男がいると聞いて、やはりなと思った。
カサンドラ城は女性を守る城であり、男子禁制であるが、男女交際は奨励している。
カサンドラ騎士団の団員は、各々の意思で入団試験を受ける。その中で男性不信で入団したものも少なくない。けれどもカリナのように普通に男性に関心がある女性もいる。
また団員には様々趣向の人間もいて……。
ま、そのことは置いといて、今日のカリナはいつもに増して可愛かった。
身にまとっているドレスは、派手さはなく、襟元のレースが彼女の清楚さを表していて、可憐な感じだ。
ファリエス様とは正反対だな。
「団長?」
「あ、おはよう」
なんだか考えことをしていて、挨拶を返すのを忘れていた。
「団長。どうしました?顔色が悪いですよ」
じっとカリナに見つめられ、私は誤魔化し笑いをする。
……昨日は結局よく寝れなかった。
あれしきの手紙で。
しかも、よく考えれば果たし状みたいなものじゃないか。
それを私は。
私は寝不足など悟られないように、極力爽やかな朝の団長を演じてみる。
あの手紙のせいで眠れぬ夜を過ごしたなどと、決して知られてはいけない。
私はカサンドラ騎士団の団長なのだ。
カサンドラ城の女性たちを守る義務がある。
しっかりせねば。
「団長。今日は確かお休みでしたよね。どこか行かれるのですか?」
「……よ、予定はない」
そう、予定はない。
ないのだ。
あれは一方的にきた手紙。
行くとは返事していない。
「そうなのですか?じゃあ、一緒に街に行きませんか?」
にこにことカリナの笑顔は可愛い。
そうか、二番隊は今日は休日だった。
だから可愛いドレスにうっすら化粧もしているのか。
「団長?」
「えっと、お前は確かか、恋人がいるな?」
「はあ」
カリナの頬が急に赤くなり、女の子はこういうものだと納得する。
「そいつとは予定はないのか?」
「ええ。今日彼は仕事なので」
「そうか。それなら私が付き合おう。どこに行くのだ?」
「梟の店です」
――梟の店。
女性が欲しがる美しい銀細工が売っている店だった。
ファリエス様に付き合って何度が行ったことがある。
狐亭の向かいに位置している。
向かいだ。
行くべきではない。
心はそう言っていた。
しかし、口から出たのは肯定の返事だった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる