呪われたもの

ありま氷炎

文字の大きさ
上 下
19 / 53
第五章 空の治世

しおりを挟む
「私はわかるんですけど、なんで呪術司の典(テン)様まで掴まるんでしょうか?」
「それは私は聞きたいくらいだ」

 愛妾お披露目の途中に、帝が姿を消した。
 疑いは愛妾である藍(ラン)に向けられた。
 帝を襲った草(ソウ)は掴まり、呪術司と戦っていた凜(リン)は草の身を案じ、自ら投降した。

 草と戦っている間に帝を失い、藍は悔恨の思いでいっぱいだった。責めを受けても仕方がないと諦めていた。しかし、師の典が牢屋に姿を見せた時、何か陰謀の匂いを感じた。

「典様の何の罪なんですか?」
「共謀罪だってさ。弟子の君を使って帝をたぶらかし、誘拐した罪だって言ってたけど」
「…おもしろいことになってますね」
「そうだね」

 師と弟子は鉄の柵越しにお互いの顔を見つめる。
 草と凜は別の場所に拘束されているようだった。

 帝が何者かによってさらわれたというのに、宮は藍達を拘束するだけで、その捜索には力をいれていないように見えた。
 
「典、藍殿」
 そうふいに声がして、男前の警備隊長が現れる。その表情は硬いものだった。
「宮がおかしいことになっている。父上…将軍が何者かに操られているようだ」
「将軍が!」
 親友の言葉に典の顔が曇る。
帝の次ぎに権力があるのが軍部の長である将軍だ。将軍は強(キョウ)の父親で帝の警備は強に任せていて、外部の軍の統一や呪術部との連携など担当していた。
 帝が消えた今、強と共にその捜索に当たっているはずなのだが……

「臨時の帝に空(クウ)様が即位した」
「?!そんなに早く?」
「ああ、そしてお前の後任は紺(コン)という呪術師だ」

「おもしろいね」
 典は目を細めて後に微笑む。
 空が帝―海(カイ)を誘拐し、宮の上層部を何らかの手を使い、操っている。
 わかりやすい話だが、危険な状態だった。
「典、藍殿。俺は表だってお前達を助けることができない。宮の上層部がおかしい。下手に動くと俺も拘束される」
「強様が?!だって警備隊長ですよ!」
「それでもだ」

 信じられない。
 
 藍は起きていることが信じられなかった。

 しかし、藍の向かいの牢に入っている典は楽しげだ。
「典?何か策があるのか?」
 危機的状況のはずなのだが、全然焦っていない、むしろ面白そうな表情を浮かべる典に強が眉を潜める。
「私と藍は警備隊長を襲い、脱走。そして帝の救出に向かうっていうのはどう?」
「帝は生きてるのか?」
「多分ね。空は帝を殺せない。だからどこかに幽閉されているはずだ」
「でもどこにいるのかわかるのか?」
「凜に聞く」
「凜?ああ、あの草と一緒に拘束されている呪術師か」
「そうだ。私と藍は君を襲った後、凛と草を連れ、宮を出る。そして帝を探す」
「俺を襲うって…」
 親友の言葉に警備隊長は苦笑する。
「だって、そうしないと君の地位があぶないだろう?君には宮でやってもらうことがあるから、拘束されたら困るんだ」
「そうだな」
「そ、そういうこと」
 典はにっこりと笑うと手に気を込める。
「待て、ちょっと心の準備と言うものが…!」
 そんな強の言葉は騒音によってかき消される。

 ドオオオン!

 音がして鉄格子が壊れ、警備隊長の体が吹き飛ぶ。
「強様?!」
 その体は向かいの藍の牢の鉄格子を壊し、牢の壁に叩きつけられる。
「何事だ?!」 
 音を聞きつけ、牢屋の番人が降りて来る。
「典様…やりすぎです」
 壁の近くで倒れこむ強が息をしていることを確認し、藍はほっとしながら師を睨む。
「そう?でもこれくらいやらないと信じてくれないだろう?」
 しかし美しき宮の呪術司は優雅に笑うだけだった。

 性格悪すぎ。
 っていうか、もし強様が死んだらどうする気なんだろう。
 この人……

「さあ、行くよ。藍」
 典がぐしゃりと曲がった鉄格子を越え、牢屋から出る。
兵士たちが集まり始めていた。
「皆さん、大人しく逃げないと怪我しますよ!」
 無駄だとわかっているが藍は兵士に向かってそう叫ぶ。
 
 空によって、宮が変わろうとしていた。
 無駄な犠牲は出したくない。

 藍はそう思いながらも、手の平に気を込める。

「藍、手加減するんだよ」
「わかってます」
 呪術司と弟子は気を高めると兵士に向かって飛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻
ファンタジー
異世界転生、レベルアップ無双……だけど、何かモヤモヤする? ゲーム三昧の末に死んでしまった俺、元・就活失敗フリーターは、女神様(元・サークルの美人先輩!)のお陰で異世界転生。 しかし、もらったジョブはなんと【商人】!? しかし俺はくじけない! ゲームの知識を駆使して、ついに寝てるだけでレベルアップするチート野郎に! 最強の力を手にした俺は、可愛い奴隷(元・魔物)を従え、お気楽無双ライフを満喫! 「よっしゃ、これで異世界ハーレムつくるぞー!」 …なんて思ってたんだけど。 ある日、街の英雄「勇者」のせいで、大切な人が窮地に陥ってしまう。 「まさか、あいつ…そんな奴だったなんて…」 街の人気者「勇者」の正体は、実は最低最悪のクズ男だったのだ! 怒りに震える俺は、勇者を倒すことを決意する。 迎えた武闘会の舞台、最強の力を持つ俺は、勇者を瞬殺! ざまぁみろ! これで一件落着。 ――――のはずだった。 勇者を倒した時、俺の心に生まれたのは達成感ではなく、言いようのない違和感だった。 「あれ? そもそも異世界ってなんなんだ?」 「魔法の仕組みって…?」 最強になった俺を待っていたのは、世界の真実に迫る、更なる冒険と戦いだった――――。 これは、最強だけどちょっとポンコツな主人公が、大切な仲間と共に、世界の謎を解き明かす、爽快異世界ファンタジー!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

無限の成長 ~虐げられし少年、貴族を蹴散らし頂点へ~

りおまる
ファンタジー
主人公アレクシスは、異世界の中でも最も冷酷な貴族社会で生まれた平民の少年。幼少の頃から、力なき者は搾取される世界で虐げられ、貴族たちにとっては単なる「道具」として扱われていた。ある日、彼は突如として『無限成長』という異世界最強のスキルに目覚める。このスキルは、どんなことにも限界なく成長できる能力であり、戦闘、魔法、知識、そして社会的な地位ですらも無限に高めることが可能だった。 貴族に抑圧され、常に見下されていたアレクシスは、この力を使って社会の底辺から抜け出し、支配層である貴族たちを打ち破ることを決意する。そして、無限の成長力で貴族たちを次々と出し抜き、復讐と成り上がりの道を歩む。やがて彼は、貴族社会の頂点に立つ。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...