上 下
36 / 43
第二章 魔王

2-8 決戦

しおりを挟む
 それぞれが配置につく。
 ユウタはタリダスの馬に乗せてもらっている。
 前では聖剣を振るえないと、タリダスの後ろに座った。手綱を握るのはタリダスだ。
 馬上の二人の周りには、ケイスやその他第三分隊の騎士が馬に乗って控えている。

「緊張してますか?」

 耳元で囁かれて、緊張ではなく、ユウタの心臓が騒いだ。

「大丈夫」

(なんだろう)

 ドギマギしたおかげで、緊張は解ける。

 日がゆっくりと落ちていく。
 徐々に闇が広がっていき、騎士団に不安が広がっていく。
 騎士たちの不安な声が伝わってきて、聖剣の使い手としての自身の役目を思い出す。

「タリダス。僕は聖剣の使い手として、声をあげるよ」

 小さな声だが、タリダスにはしっかり聞こえたようだ。
 心得たとばかり、彼は器用に自分だけ馬から飛び降りる。ユウタが落馬しないように慎重にだが素早く行動する。
 馬が暴れないように、タリダスは手綱を握ったままだ。
 ユウタは緊張する自身を宥めながら、聖剣を鞘から取り出す。
 アルローの記憶を思い出しながら、気持ちを落ち着かせて剣を掲げた。
 切先を空に向けた聖剣から光が溢れ出す。
 闇の中に光が広がる。
 ユウタの金色の髪が光を反射して、その緑色の瞳はまるで宝石のようだった。
 騎士たちは、ユウタの幻想的な美しさに目を奪われていた。

「皆の者、聞いてほしい」

 ユウタは剣を掲げながら、静かに語りかける。

「今宵私は魔王を倒す。そしてすべての魔物を消滅させるつもりだ。そのために私に力を貸してほしい」
「我が君よ。心得ております」

 最初に答えたのはタリダスだ。

「私も微力ながら加勢いたします」

 次に口を開いたのはケイスで、騎士たちは次々に声を上げていき、騎士団全体に活気が溢れる。

 闇はどんどん濃くなり、魔物たちが暗躍し始めた。
 何か引きずるような音、唸り声が聞こえ始め、黒い奇妙な生き物たちが姿を現した。


「タリダス!」

 タリダスはユウタから声をかけられる前に、馬に飛び乗る。

「いきますか。ユータ様」
「うん」
「第三分隊、準備はいいか!」
「はっつ!」
「突撃!」

 タリダスは怒号を掛け、馬を走らせた。
 両端から魔物が一斉に飛びかかってくるのだ。
 ユウタは聖剣を使い、魔物を切り裂いていく。
 魔王がいるのは、中央か、後方のはずだった。戦闘が始まりしばらく経つがまだ魔王の片鱗すら眺められていない。
 中央は突破している。そうなると魔王は後方にいるようだった。
 そのほうが都合がいいと、タリダスはさらに馬を駆けさせる。

「進め!」

 タリダスの怒号に騎士たちが返して、死に物狂いで進む。
 騎士たちの悲鳴が聞こえ、嫌な臭いがする。しかしユウタは振り返らなかった。
 
(犠牲は無駄にできない。もうあの子を救えない時は切るしかない)

 強硬突破を決めたのはユウタだ。
 その責任を負う必要がある。
 少年を救いたい。
 しかし無意味な犠牲を出すわけにはいかなかった。

「見えた!」

 前方の黒い影が魔王だと、聖剣がユウタに教えてくれる。

「ケイス!」

 タリダスが声を張り上げて、隣で駆けているケイスに呼びかける。
 彼は胸にかけている角笛を取り出し、思いっきり吹く。
 それが合図となり、前方から第一、第二部隊が飛び出す。

「ユータ様!魔王を!」
「うん」

(聖剣、魔王を飛ばして!)

 その願いを込め、彼は聖剣を振るう。
 魔王である黒い影が聖剣から発せられた光を浴びて、後方に吹き飛ばされた。

「やったか!」
 
 騎士たちが喜びの声を上げそうになるが、そう簡単にやられるわけがなかった。
 森の奥に吹き飛んだが、起き上がろうとしているのが見える。

「タリダス!」
「はい!」

 タリダスが馬を走らせ、魔王へ向かう。
 付き添うのケイスの一騎だけだ。ほかの騎士たちは魔物に阻まれ、タリダスを追うことはできなかった。

(騎士たちの犠牲が抑えるためにも早く片を付けないと!)

 焦りながらも、ユウタはまだ少年を救うことを考えていた。

「君!名前を教えて!」

 ユウタは黒い影に呼びかける。
 立ち上がろうとしていた影の動きが鈍る。
 ゆらりと影がゆれる。
 取り込まれている少年の姿が一瞬だけユウタの目に映った。

「君はもう一人じゃない。僕が、僕が君を守ってあげる。だから、もうやめよう」

 ユウタを聖剣を鞘に納める。

「ユウタ様!」

 ケイスはユウタの狙いを知らない。
 なので驚きの声を上げる。

「タリダス。降ろして」

 情けないことに一人では降りれないユウタは背後のタリダスに願う。
 彼は自身が馬から降りた後、ユウタを降ろす。

「ユウタ様?!ヘルベン卿!正気か!」

 ケイスは馬を降りた二人のことが信じられず、叫ぶ。
 それに構わず、ユウタは影に向かって歩む。タリダスはその横にぴったりとついている。

「僕は君の友達になりたい。一緒に生きよう」

 ユウタの呼びかけを影は聞いているようだった。攻撃を仕掛ける様子はなく、影は揺れ続けている。

「シン、シンジナイ。オレ、ハ、ヒトリダ」
「一人じゃないよ。ゆっくり話しよう。ね?」
「ハナシ、オレト?」
「うん」

 影が小さくなり、少年の形を作る。

「ウソダ。ウソダ」
 
 黒色だった少年の体が本来の色に戻っていく。

「君の名前、教えて」
「オレ、ハ。アズ」
「アズ?」
「うわあああ」

 名前を呼ばれた瞬間、少年の声質が変わった。少年は叫び声をあげ、地面に転げまわる。

「嘘だ。俺なんかに」
「アズ」
「ユータ様!」

 少年を触ろうとしたユウタをタリダスは止める。

「はは。噓つき」

 少年から黒い影が離れ、ユウタを襲う。

「ユータ様!」

 タリダスがユウタの体を抱きしめる。
 ユウタの体が黒色に染まっていく。

「た、タリダス。ごめん。その子、悪くないから、保護してあげて」

 タリダスに体を預けて、ユウタは言葉を紡ぐ。
 聖剣を握っている右手が黒色に染まると、今度は聖剣が光を放ち、浄化していく。ユウタの体は元の色に戻っていく。しかし、彼自身はぐったりとして、タリダスに体を預けたままだった。
 すべての黒い影が聖剣に吸い込まれ、後方で戦っている騎士たちから歓声が上がる。

「魔物が消えていく。消えていくぞ!」

 その日、すべての魔物が消滅した。
 騎士たちは怪我を負っていたが、死亡した者はいなかった。
 一人の傷だらけの黒髪の少年が保護される。
 タリダスは気を失ったユウタを抱え、黒く染まった聖剣を保持していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍の逆鱗は最愛の為にある

由佐さつき
BL
転生と聞くと奇跡のようなイメージを浮かべるかもしれないが、この世界では当たり前のように行われていた。 地球から異世界へ、異世界から地球へ。望んだものが自由に転生の出来る世界で、永藤逸瑠は生きている。生きて、転生を望んで、そうして今は、元の世界で死んだ人間として生きていた。 公にされていない事実として、転生に失敗する場合もある。もしも失敗してしまった場合、元の生活に戻ることは出来ない。戸籍を消されてしまった者たちは、脱落者として息を潜めて生活することを余儀なくされた。 そんな中、逸瑠は一人の転生者と知り合う。水が溶けたような水色とも、陽かりを浴びて輝く銀色ともとれる長髪。凪いだ水面を連想させる瞳には様々な色が滲んでいて、その人とは呼べない美しさに誰もが息を飲んでしまう。 龍の国から転生してきたアイラ・セグウィーン。彼は転生に関する研究に協力するという名目で、逸瑠の暮らす寮にたびたび足を運ぶようになった。少しずつ話すうちにアイラがいかに優しく、穏やかな気性を持っているのかを知る。 逸瑠は純粋に懐いてくるアイラに、転生したいと思ったきっかけを話す。きっと気持ち悪がられると思っていた逸瑠の話に、アイラは自分もそうだと同意を示してくれた。 否定されないことが嬉しくて、逸瑠はアイラを信用するようになる。ころころと変わる表情に可愛いという感想を抱くようになるが、仲睦まじく育んでいた関係も、アイラのたった一言で崩壊を迎えてしまった。

糸が紡ぐ物語

ヒツジ
BL
BL大賞のためにシリーズをまとめ、一部年齢を変更したものです。 ※手脚が再生する人達が出てくるので、手を切り落とす描写などがでてきます。 苦手な方はご注意ください。 第一章【白い蜥蜴と黒い宝石】 傭兵団に属する少年、シロ。白い髪に赤い眼を持ち、手脚を切られても新しいものが生えてくるという特殊な体質の持ち主である彼は、白蜥蜴の名で戦場で恐れられていた。 彼と兄弟のように一緒に育った同い年の少年、クロ。この世界では珍しい黒髪の持ち主であり、そのために欲望の目を向けられることに苦しんでいる。子供の頃に男達に襲われそうになり、助けようとしたことでシロが自分の手脚が再生することに気づいたため、ずっと責任を感じて過ごしてきた。 ある日、2人の前にシロと同じ白い髪赤い眼の少年が現れる。シロと少年にしか見えない糸を操り、シロを圧倒する少年。その少年は自分のことを白の人と呼び、シロに白の人の里に来ないかと誘う。 だがシロはクロも一緒でないと行かないと言ったため、シロのためを考え里に同行するクロ。やがて、その里での日々でお互いへの気持ちに気づく2人。兄弟という関係を崩したくなくて気持ちを伝えられずにいるうちに、クロは敵の里の長に連れ去られてしまう。 敵の長であるシュアンから里同士の戦を終わらせたいという思いを聞いたクロは、敵の里に残り和解の道を探る。そんな中、クロの優しさに触れたシュアンは、クロに共に生きてほしいと告げる。だがクロはシロへの想いとの間で悩むのだった。 第ニ章【白き魔女と金色の王】 里同士が和解してから13年。クロに憧れる里の少年チヤは、糸の力が弱く不器用なせいでコンプレックスを抱えていた。 ある日、雨宿りに入った小屋で青年ウォンイに出会う。唯一の特技である天気を読む力や瞳をウォンイに褒められて戸惑うチヤ。そのまま小屋を飛び出してしまう。 だが再会したウォンイに誰にも言えなかった本音を話せたことで、次第に心を開いていくチヤ。里は大好きだが甘やかされている状態から抜け出したいと話すと、ウォンイは自分の妻にならないかと提案する。 王弟として子を持ちたくないウォンイは、男であるチヤを女と偽り妃として迎える。共に過ごすうちにお互いの好意に気づいていく2人。周りの後押しもあり、ついに結ばれる。 そんな中、糸が見える人間や、白の人と普通の人との混血の人間が現れる。ウォンイは白の人は人間の進化のカタチなのではないかと仮説をたて、チヤ達は白の人について調査を始めた。国王も味方となり調査を進めるチヤ達だが、王妃が懐妊したことにより高官達の思惑でチヤが魔女だという悪評を流される。 番外編【青い臆病者と白金の天然兵士】 カダとツギハのその後の話です。

ずっとふたりで

ゆのう
BL
ある日突然同じくらいの歳の弟ができたカイン。名前も年齢も何で急に弟になったのかも知らない。それでも頼れる兄になろうとして頑張っているカインと仕方なくそれを陰から支えている弟。 それから時は経ち、成人する頃に弟があからさまに好意を示しても兄はそれに気付かない。弟の思いが報われる日はいつになるのか。 ◎がついているタイトルは弟の視点になります。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

勇者召喚されて召喚先で人生終えたら、召喚前の人生に勇者能力引き継いでたんだけど!?

にゃんこ
BL
平凡で人見知りのどこにでもいる、橋本光一は、部活の試合へと向かう時に突然の光に包まれ勇者として異世界に召喚された。 世界の平和の為に魔王を倒して欲しいと頼まれて、帰ることも出来ないと知り、異世界で召喚後からの生涯を終えると……!? そこから、始まる新たな出会いと運命の交差。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

とある村の少年と、とある国の王子様のお話

志子
BL
ノリと勢いで書きました。 誤字脱字あったらすみません。

処理中です...