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第十一天 我可爱的人ー私の可愛い人(秀雄視点)

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  連れてこられたところは少し高級そうな中華レストランだった。
「すみません。お待たせしました」
 個室のドアを開け、善樹(シャンシュ)が詫びを入れる。円卓のテーブルに見覚えのある初老の男が座っていた。
「いやいや。木縞くん、悪かったね。足代わりに使ってしまって」
 男―村田さんは立ち上がる善樹(シャンシュ)の肩を軽く叩く。
「!」
 するとその肩にイモリそっくりの玩具が置かれ、私は驚きで顔をひきつらせてしまった。
「ははは。村田さん、またおかしなことをして」
 驚く私に構わず、善樹(シャンシュ)はその玩具を手に取る。
「つまらんな。木縞さんには効かないか。ああ、実田くん、王さん、今日は来てくれてありがとう。いやあ、先日のお礼をしなきゃと思いつつ、ついつい遅くなってしまったよ」
 村田さんは人が良さそうな柔和な笑みを浮かべる。
「中華なんて、王さん、国に帰っても食べられるから面白くないと思ったのだが、木縞さんが薦めるから、中華にしてしまったよ。よかったかね?」
「もちろんです」
 さすが善樹(シャンシュ)。もし西洋の料理とか、別のものだったら我慢して食べないといけなかった。
「さあ、座って。始めようか」
 村田さんに言われ、私達は席に着き始める。円卓には4つの椅子、時計周りで村田さん、木縞さん、私、そして勇(ヨン)が座る。
 彼の表情が暗く、心配になる。
 理由は多分、善樹(シャンシュ)だ。彼と会う時、勇(ヨン)は大概不機嫌だ。
 私が好きなのは、愛しているのは、勇(ヨン)なのに……。
彼はなぜわかってくれないのだろう。   
 

 「ゼンサイです」
 ぎこちない日本語が聞こえ、白い鶏肉がこんもり盛られ、ゴマだれがかかった料理が小皿に分けられ、私達の前に置かれていく。
 店員の女性は学生だろうか。あどけない表情をしている。習いたてだろうか、その日本語はぎこちなく、私は善樹(シャンシュ)に会ったころの自分を思い出す。日本語が何かの役に立つからもしれないと習い始め、日本語を使いたくて日本人を探した。そうして出会ったのが善樹(シャンシュ)だ。
 紳士的だが力強い彼に私は溺れた。
「王さん、どうぞ。食べて」
「あ、はい。いただきます」
 私は村田さんににこりと微笑み、箸を手に取る。
 取り分けられた前菜は日本人が好む棒棒鶏で、村田さんも善樹(シャンシュ)も満足げに食べていた。しかし、 やはり勇(ヨン)はうかない顔をしており、私はすごく心配になる。
 村田さんも善樹(シャンシュ)も大事なお客さんだ。私事の食事会とはいえ、あまりいい印象は与えないだろう。
「実田さん。ちょっとよろしいですか?」
「?はい」
 勇(ヨン)は訝しげな顔をする。
「村田さん、木縞さん、すみません。ちょっと席をはずします」 
 私はそう言うと彼らに頭を下げる。そしてぐいっと彼の腕を掴むと部屋を出た。

「ちょっと、王さん、秀雄(シュウシュン)!」
 人通りの少ない廊下の隅に辿り着き、私は彼を解放する。
「どうしたんですか?」
 勇(ヨン)はやはり少し怒ったようにそう聞いてきた。
「……勇(ヨン)。村田さんも善樹(シャンシュ)もお客さんです。笑顔を作る必要なないですけど、不機嫌な顔をしては失礼に値しますよ」
「!……わかっています」 
 彼はきゅっと唇を噛み、俯く。
 幼い彼、子供の彼。可愛いけど、これではよくない。
「私はあなたが好きです。だから心配しないでください。善樹(シャンシュ)は過去の人なのです」
「……でも、でもあなたは、ずっと彼を気にしてる。俺にはわかります。あなたはまだ彼のことが好きなんだ」
「それは違います。過去を思い出すことはあっても、それは思い出であって、記憶にしかすぎません」
「俺は信じられない。あなたは彼を愛していた。きっと今も彼を愛している」
「勇(ヨン)」
 私は彼を抱き寄せる。そしてカーテンの陰に彼を押しこんだ。窓の外は暗く、人影も見当たらない。廊下を歩き人からも死角の場所だった。
「我爱你。为什么你不知道吗?为什么你不相信我?(愛している。どうしてわからないの?どうして信じてくれないの?)」
 私は思わず中国語でそう尋ねてしまう。
 意味がわからない彼は目を丸くして私を見る。
「愛しています。勇(ヨン)。私を信じて」
 私は彼の頬を掴むと強引に唇を重ねる。
  私の気持ちが伝わってほしい、その想いから私のキスは荒く、彼から戸惑いの想いが伝わってきた。

  私はこんなにあなたを好きなのに。
  きっとあなたはわからないだろう。

  そして、いつかあなたは私の元を離れるだろう。
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