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第十一天 我可爱的人ー私の可愛い人(秀雄視点)
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「え、今夜ですか?」
会社に戻るとすぐに電話がかかってきた。それは勇(ヨン)宛で、彼は電話をとると素っ頓狂な声を上げた。
「少しお時間いただけますか?すぐ折り返します」
彼はそう言うと受話器を静かに元に戻す。
「しゅ、王さん。リエックの村田さんがこの間のお礼も兼ねて夕食を一緒にしたいと言っているのですが、どうですか?」
リエック、村田さん。
ああ、呂哥(吕哥ルゥガァ)と会うきっかけになった人か。
「私はいいですけど」
「じゃ、決まりですね。村田さんに電話します」
2時間後、私達は係長へ今日の工場見学の報告書を提出し、会社を定時で退社した。そして待合せの場所、会社から少し離れた駅前に来ていた。
「すまない。待たせたみたいだ」
黒のセダンが私達の前に止まり、現れたのは善樹(シャンシュ)だった。彼への気持ちはもうないはずだが、やはり彼の姿を見ると少しばかり胸が波立つ。隣の勇(ヨン)は明らかに顔色を変えて、険しい表情で彼を見ていた。
「……リエックの村田さんのお誘いでしたよね?」
大切なお客様のはずなのに、彼の問いは不躾だ。それが私への気持ちの大きさを表しているようで、嬉しい。でも反面、彼の事が心配になる。
「そうだ。今日村田さんから君たちと食事を取ると聞いたので、是非参加させてほしいと頼んだんだ。邪魔だったかな」
善樹(シャンシュ)は少し皮肉げに笑うとそう答えた。
相変わらず彼は余裕のある大人だ。勇(ヨン)とは対象的。でも今の私は子供っぽい勇(ヨン)のほうが愛しく感じる。
「邪魔です。あなたは既に過去の人で、今私が好きなのは勇(ヨン)ですから」
「日本語で言われると痛いな。でも君が元気そうでよかったよ」
「それはありがとうございます。それでは送っていってもらえますか?」
「ああ。どうぞ」
善樹(シャンシュ)は柔らかく笑うと、後部座席のドアを開ける。
「勇(ヨン)?」
車に乗ろうとしない彼に私は声をかける。
「……はい」
やはり気にしてるみたいだ。彼の表情は硬く、唇は一文字に閉じられている。
「勇(ヨン)」
彼の誤解を解きたくて、私は彼を引き寄せるとキスをする。
「!秀雄(シュウシュン)」
すると彼は顔を真っ赤にさせ、どんと私の胸を叩いて私から逃れた。
「こ、公共の場なのに!」
誤解は解けたけど、彼の逆鱗に触れてしまったみたいだ。彼は顔を赤面したまま私を睨む。
「ははは。秀雄(シュウシュン)やりすぎだ。実田さんが可哀そうだ。実田さん、心配しなくてもいい。見ていた人はいないから。それよりも急いでくれ。時間に遅れる」
善樹(シャンシュ)にそう急かされ、私達は車に乗り込む。そうして車は闇が覆い始めた街の中を走り出した。
村田さんと善樹(シャンシュ)は以前からの知り合いらしい。だからリエックの周辺で彼の姿を見かけたのだと納得する。
運転席の善樹(シャンシュ)は朗らかに勇(ヨン)に話しかけるが、彼は窓の外に視線を向け、相変わらずむっとしている。
子供だなと思う。
でもそれが彼らしくて私はきゅっと彼の手を握る。彼が驚いて私を見る。先ほどのこともあって嫌がられるのかと思ったけど、彼は赤面したまま、堅く握り返した。
体を重ねた昨日から彼は変わった気がする。距離がもっと近づいた。それはとても嬉しいことだったが、反面怖くなってしまった。
彼の人生を変えてしまったことに罪悪感が芽生え、そのうち彼が私との道を選んだことを後悔するのではないかと心配するようになってしまった。
会社に戻るとすぐに電話がかかってきた。それは勇(ヨン)宛で、彼は電話をとると素っ頓狂な声を上げた。
「少しお時間いただけますか?すぐ折り返します」
彼はそう言うと受話器を静かに元に戻す。
「しゅ、王さん。リエックの村田さんがこの間のお礼も兼ねて夕食を一緒にしたいと言っているのですが、どうですか?」
リエック、村田さん。
ああ、呂哥(吕哥ルゥガァ)と会うきっかけになった人か。
「私はいいですけど」
「じゃ、決まりですね。村田さんに電話します」
2時間後、私達は係長へ今日の工場見学の報告書を提出し、会社を定時で退社した。そして待合せの場所、会社から少し離れた駅前に来ていた。
「すまない。待たせたみたいだ」
黒のセダンが私達の前に止まり、現れたのは善樹(シャンシュ)だった。彼への気持ちはもうないはずだが、やはり彼の姿を見ると少しばかり胸が波立つ。隣の勇(ヨン)は明らかに顔色を変えて、険しい表情で彼を見ていた。
「……リエックの村田さんのお誘いでしたよね?」
大切なお客様のはずなのに、彼の問いは不躾だ。それが私への気持ちの大きさを表しているようで、嬉しい。でも反面、彼の事が心配になる。
「そうだ。今日村田さんから君たちと食事を取ると聞いたので、是非参加させてほしいと頼んだんだ。邪魔だったかな」
善樹(シャンシュ)は少し皮肉げに笑うとそう答えた。
相変わらず彼は余裕のある大人だ。勇(ヨン)とは対象的。でも今の私は子供っぽい勇(ヨン)のほうが愛しく感じる。
「邪魔です。あなたは既に過去の人で、今私が好きなのは勇(ヨン)ですから」
「日本語で言われると痛いな。でも君が元気そうでよかったよ」
「それはありがとうございます。それでは送っていってもらえますか?」
「ああ。どうぞ」
善樹(シャンシュ)は柔らかく笑うと、後部座席のドアを開ける。
「勇(ヨン)?」
車に乗ろうとしない彼に私は声をかける。
「……はい」
やはり気にしてるみたいだ。彼の表情は硬く、唇は一文字に閉じられている。
「勇(ヨン)」
彼の誤解を解きたくて、私は彼を引き寄せるとキスをする。
「!秀雄(シュウシュン)」
すると彼は顔を真っ赤にさせ、どんと私の胸を叩いて私から逃れた。
「こ、公共の場なのに!」
誤解は解けたけど、彼の逆鱗に触れてしまったみたいだ。彼は顔を赤面したまま私を睨む。
「ははは。秀雄(シュウシュン)やりすぎだ。実田さんが可哀そうだ。実田さん、心配しなくてもいい。見ていた人はいないから。それよりも急いでくれ。時間に遅れる」
善樹(シャンシュ)にそう急かされ、私達は車に乗り込む。そうして車は闇が覆い始めた街の中を走り出した。
村田さんと善樹(シャンシュ)は以前からの知り合いらしい。だからリエックの周辺で彼の姿を見かけたのだと納得する。
運転席の善樹(シャンシュ)は朗らかに勇(ヨン)に話しかけるが、彼は窓の外に視線を向け、相変わらずむっとしている。
子供だなと思う。
でもそれが彼らしくて私はきゅっと彼の手を握る。彼が驚いて私を見る。先ほどのこともあって嫌がられるのかと思ったけど、彼は赤面したまま、堅く握り返した。
体を重ねた昨日から彼は変わった気がする。距離がもっと近づいた。それはとても嬉しいことだったが、反面怖くなってしまった。
彼の人生を変えてしまったことに罪悪感が芽生え、そのうち彼が私との道を選んだことを後悔するのではないかと心配するようになってしまった。
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