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第三天 俺はまともでいたい(勇視点)

慰めること3

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「大丈夫ですか?」
 王さんは俺の肩を掴み、階段を昇る。
 彼とお店で食べていると、なんだか彼の仕草、視線にドキドキしてしまい、妙な気持になった。その気持ちを打ち消そうとお酒をぐいぐい飲んでいると、完全に酔い潰れてしまった。
「ははは。王さん。本当に力あるんですね。俺よりあるかも」
 肩を貸してくれる彼に俺は、はははと笑う。 
 素面(しらふ)の俺なら、王さんに肩を借りるなんてとんでもなかった。でも今の俺はどうでもよくて、ただ彼と一緒にいるのが楽しかった。
「実田さん、鍵を貸して下さい」
「はい」
 俺はポケットの中を探り鍵を取り出す。王さんは鍵を使って扉を開け、中に入った。
「俺、自分で歩けます」
 玄関で俺は王さんにそう言い、足を踏み出す。しかし、足をもつれさせて転倒しそうになった。しかし、それを救ったのは彼で俺は目を瞬かせる。
「王さん、すごいなあ。俺、結構重いのに」
「実田さん!」
 じっと見つめる俺に王さんが珍しく苛立った声を出す。
「すみません。俺、ちょっと飲み過ぎて。本当に大丈夫ですから。這ってでも行きますか」
 俺はちょっとだけ理性を取り戻す。
「そんなこと、できるわけないでしょう。じっとしていてください」
 彼はそう言うとひょいっと俺を抱きかかえる。
「え、王さん?!」
 華奢な王さんが驚くべき行動に出たので、俺は彼の腕の中で体を強張らせた。
「何もしませんから。この方が早いので」
 王さんはさらりとそう言うと俺をベッドに運ぶ。
「お風呂は明日入ってくださいね」
 彼は俺をベッドの上に降ろすと、そう言って背を向けた。

 彼がまったく別人に思え、俺の酔いが一気に冷める。
 そして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 元気づけるつもりが、迷惑をかけてしまった。

 謝った方がいい。明日になったら、きっと遅い。

 俺はくらくらする頭を叱咤して、立ち上がると居間に向かう。
 すると着替えをしている王さんがそこにいて、俺はくるりと背を向ける。
「すみません!」
「……どうしました?気分が悪いですか?」
「いや、本当、迷惑をかけてしまって、謝ろうと思って。結局俺が酔いつぶれてしまって」
 俺は背を向けたまま、そう答える。
 後ろで彼が着替えていると思うとどきどきした。
「いいですよ。そんなこと。実田さんは酔うと本当子供みたいで可愛いですね」
「子供?!可愛い!!それって」 
 俺はちょっとムッとして振り返る。
 するとTシャツを着ようとした王さんがちょっと驚いて俺を見る。

 最悪。
 
「すみません!」

 俺は再び背を向けた。
 えっと、すみませんじゃないか。男だもんな。
 
 俺は深呼吸すると再び振り向いた。 
 Tシャツに短パン姿の王さんがそこにいて、俺は幾分ほっとする。

「実田さん、水でも飲みますか?結構飲んでいたから水分補給したほうがいいですよ」
 さらりとそう言われ、俺はただ頷いた。


「俺も飲んでいいですか?」
「駄目です」
 王さんが飲み直すと言ったので俺も付き合うことにした。でも白酒に手を伸ばそうとする俺を彼はぴしゃりと断る。
「それ以上飲むと明日に支障をきたします。しかも白酒はあなたには強すぎます」
 あなたにはってどういう意味だ? 
 俺は子供みたいにむっとしてしまい、白酒の徳利を掴むと煽った。
 かあっと喉が焼けるように痛み、俺は咳き込む。
「何、してるんですか!」
 王さんは俺から白酒をもぎ取ると背中をさする。そして水の入ったグラスを俺の口に無理やり持ってきて、飲ませる。
「本当、飲むと子供みたいですね。あなたは!」 
「子供って!俺は子供じゃない。あなたが心配なんだ。だから一緒にいて慰めてあげたい」
「……慰める?あなたには無理です」
「無理じゃないです。俺は!」
 続きを言おうとする口がふさがれる。目の前に煌々と光る王さんの瞳が見えた。彼は驚く俺の頬を両手で抱くと、噛みつくように俺の唇に唇を押し付ける。一気に白酒の豊潤な香りと苦さが口の中に入り込んできた。生暖かいそれは俺に脳天がしびれるような感覚と妙な疼きを覚えさせる。しかしその感覚は長く続かず、王さんは俺を胸をどんと押す。そして俺から離れると髪をくしゃっと掻き毟る。
「すみません。でも、私にとって慰めてもらうということはこういうことなのです。わかりますか?実田さん。私はあなたが思っているような人物ではありません。貪欲で卑しい人間なのです。やはり私は自分の部屋で寝ます。おやすみなさい」
 彼は、ぺたんと畳の上に座り呆然とする俺にそう言い放つと立ち上がった。そしてくるりと方向を帰ると足早に玄関へ向かう。バタンと音がして、ドアが閉まるのがわかった。でも俺は彼を追うことができなかった。
 口の中に白酒の香りと苦さが残る。体の疼きが俺に続きを求める。

 何考えているんだ。俺……

 俺はきゅっと唇を噛むとグラスに入った水を煽る。

 キスされたのは嫌じゃなかった。
 むしろ……嬉しかった。

 でも俺はそんな自分を認めたくなかった。
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