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第二天 報われない想い(勇視点)

害虫再び現れる。

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 俺の仕事はセールス。製品を使ってもらっている業者の反応を聞くために訪問したり、新規のお客さんを開拓するのが主な仕事。
 そのためには色々調べたりしないといけないわけだが……
 
 そうだ。今日はひさびさに村田さんのところへ行こうか。村田さんの会社は俺が受け持っている会社で一番大きい。ちょっと遠いけど、ついでに王さんに街案内でもしてみよう。
 俺はそう決めると、村田さんの会社リエックに電話をする。そして今日午後のアポを取り付けた。

「王さん、じゃ、まず始めに会社を案内しますね」
 基本から始めた方がいいと思い、俺は隣に座る王さんに話しかける。
「はい、よろしくお願いします」
 王さんは極上スマイルを浮かべると頷き、俺はまたしても囚われてしまった。

 ああ、やっぱり俺、担当降りたいな。
 このままじゃ俺、変態街道まっしぐらかも。

 心の中で溜息つきながらも、俺は王さんと連れだって部署を出る。女子社員の視線が気になったがあえて無視をした。
 会社のビル全体は結構大きい。本社内には工場はなく、別の場所に作られている。そうだ、明日は工場見学かな。
 俺はとりあえず、一階から案内することにした。

 王さんが通るたびにすれ違う人は振り返る。
 それは男女とも一緒だ。
 そうだよな。俺もそうだし。

 俺は好奇な視線を感じながらも、とりあえず淡々と1階から5階まで案内しきった。全部署を回ることはほとんどないので、結構疲れるもんだと思った。
「王さん、大丈夫ですか?」
「はい。色々な部署があって勉強になります」
 王さんはそう生真面目に答える。

 本当、真面目な人だよな。
 だから、こうやって出張にきたのかな。

「実田くん、王さん。今夜は王さんの歓迎会だから。スケジュールあけておいてね」
 部署に戻ると先ほど俺を取り囲んだ女子社員の一人、一番年下の三木本さんがそう声をかけてきた。その顔には意味深な笑みが浮かんでおり、俺は困惑する。
 王さんも同様らしく、俺達は顔を見合わせた。

「王さん宛てに、お電話です」
 パソコンを開き、彼に会社の仕組みなどを教えていると電話がかかってきた。
 今日始めて出社したばかりの王さんに誰が電話をかけてくるんだろうと思ったが、王さんに電話の取り方を教えた。
なださん?」
 灘?
 電話をとった王さんがそうつぶやき、俺は頭痛を覚える。

 何の用なんだよ。
 灘め!

「お昼ですか?」
 王さんは俺を見ながらそう応対している。
 駄目に決まっている。
 そんなの。
「えっと、もうそこまで来ているのですか?」
 彼の言葉と同時に受付から電話がかかってきた。俺は手を伸ばして電話に出る。
「すずた製作所の灘様が来てらっしゃいます。王さんを探しているのですが…?」
 あいつ、やりやがった!
 すずた製作所はお客さんの一人だ。会わないわけにはいかない。もちろん、お昼も誘われれば行くべきだ。
「今から行きます。待ってもらってください」
 俺は溜息交じりに電話を切る。
 王さんがどうしましょうと俺を見ていた。
「係長。すずた製作所の方が来ているので王さんと一緒に昼食をとってきます」
「そうか、わかった。昼からアポも入っているだろう?そのまま行ってもいいぞ」
「あ、ありがとうございます」
 俺はぺこりと係長に頭を下げる。
 珍しいな、係長が。王さん効果?
 ま、いいや、お言葉に甘えてそのまま、行こう。
「王さん、すみません。そのパソコン、電源落としてもらってもいいですか?リエックにもって行きますから」
「はい」
 そうして俺は昼から訪問予定のリエックへ持っていく書類を慌ててまとめる。
「あ、これは私が持っていきます」
 電源が落ちたパソコンを鞄に詰めると王さんが立ち上がる。すらりとした体はやはり華奢で、なんだか胸がきゅっとなる。

 いやいや、きゅっとかやってる場合じゃないから。

「王さん、パソコン、俺が持ちますから」
「いいえ、私が持ちます」
 がんと答えられ、俺はしゅんとなりながらもそうですかと納得した。
 軽量パソコンだから、大丈夫だよな。

 書類を鞄に詰め、出かけようと腰あげると、携帯電話が鳴る。

『お前は来なくていいからな』
 確認すると奴からそんなメッセが入っているのがわかった。

 すでに予想ずみか。でも駄目駄目。無視だな。
 俺はそう決めると返事をすることなく鞄を持ちあげる。隣に立つ王さんが行きましょうかと魅惑の微笑みを浮かべていた。

 いやいや、魅惑とか思ってたらいかんでしょ。
 俺は心の中でそう突っ込みを入れ、係長に挨拶するために表情を引き締める。

「係長、行ってきます!」
「行っています」
 俺に続き王さんが爽やかにそう言い、係長の表情が和らぐ。男でもやはり綺麗どころに言われると違うのかと、俺はその笑顔に見送られながらそんなことを思った。

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