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二羽は木陰で羽を休める
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床の上で文生は美琳の体を覆い隠し、顔の横に両手を突いてじっと見つめる。
文生の影に入っているせいで彼女の瞳まで松明の灯は届かず、どんな感情を抱いているのか読み取れない。
だが、ただ一心に自分を見つめ返していることだけは分かった。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が流れる。
そしてその時間はなかなか終わらない。
「ウェンシェ「メイリ……あ」
二人の声が被さる。
美琳は慌てて首を振る。
「ご、ごめんなさい。文生から話して」
文生も目を泳がせる。
「いや、君こそ何か言いたかったんでしょう?先にいいよ」
「いいの、大したことじゃないから」
「でも……」
「大丈夫だから、文生の話から聞かせて?」
「そ、そんな僕の方こそ大したあれじゃ……」
「ンンッ!」
ハッと二人は床の外を見やる。
その咳払いは松明の灯っている方から聞こえた。そして明かりの下には屏風がある。
「……あ」
美琳はその存在を思い出し、文生に小声で話しかける。
「文生、あのね。あそこにジングウェン?って人がいるの。なんか記録するとかなんとか言ってたわ。なんのことなの?」
その言葉を聞いた途端、文生はカッと顔を真っ赤にする。
(そういえばそうだった……!)
文生は左手で顔を覆う。
美琳は目の前の文生の様子に狼狽える。
「何か変なこと言っちゃった?」
文生は頭を振る。
「美琳のことじゃないから安心して」
文生は深く息を吸う。そして息を吐き出すと、きゅっと唇を引き結ぶ。
「……優しくするね」
そう言うと、優しく美琳の腰帯を解いた。
はらり、と紅い牡丹が花開く。
薄暗い中、白いめしべが現れ揺れる。
その様は怯えているようにも、誘っているようにも見えた。
――――こうやってちゃんと見たのは初めて会ったとき以来だ。
文生の心に、幼い頃とは全く違った感情がこみ上がってくる。
「メ、美琳。目を閉じてくれる?」
「……?分かったわ」
美琳が瞼を閉じたのを確認すると、ゆっくりと上体を屈め、ぎこちない動きでそっと口づける。
目の前には長く豊かな睫毛がかすかに震えているのが見える。かつて、これ程間近でこの明眸を見つめたことはあっただろうか。
文生の心臓が瞬く間に跳ねる。
鼓動が激しく律動し、早く続けろと急かしてくる。
だがどこに手を持っていけばいいのか。いつ唇を離せば良いのか。
官吏から教本を見せられたから、何をすれば良いのかしっかり覚えている。
……はずなのに、頭が真っ白で何も思い出せない。
いつまで経っても文生は動かない。
美琳はそっと目を開け、栗色の瞳で文生を覗き込む。
文生は驚き体を起こす。が、美琳の両腕が首に絡みつき引き戻される。
美琳は体を密着させると、そのまま硬くなっているモノを陰部でこすり上げる。
「あッ!メ、美琳、そんなッ、しなくていいンッだよ」
文生は慣れない刺激で簡単に息が上がってしまう。
「気持ちよくない……?」
美琳は眉尻を下げる。
「そんなことッない、けど、でも……!」
ぐっと拳を握る。と、美琳も両腕に力を込める。必然、彼女の吐息が耳元に当たる。
「文生のシたいようにしていいのよ?」
囁き声が耳朶をくすぐる。
「で、でも、傷つけたくないよ」
「平気よ?文生だって知ってるでしょう?」
美琳は腕を緩めて文生と顔を合わせると、安心させるように微笑む。だが返って文生の表情は歪む。
「だって、体は平気でも、心までそうとは限らないでしょう?」
文生は今にも泣きそうな顔で、そっと美琳の顔を撫ぜる。
美琳は目を瞠る。が、それはすぐさま満面の笑みに変わった。
「文生のそういうところが好き」
「すッ……!」
文生の陰茎がヒクつく。
美琳は蕩けきった声で言葉を紡ぐ。
「文生の優しさは私が一番知ってるわ。いつだって私のことを考えてくれてる。だから、文生のすることで私が傷つくことは絶対にないの」
「……ッ!」
文生は寝間着をかなぐり捨てると、美琳の唇にかぶりつく。
手で乳房を揉みしだき、男根は陰部の上を這う。
小さく柔らかい陵丘を下ると、誘うように蠢く秘部に辿り着く。
傷つけないように丁寧に解していけば、甘い蜜を零して文生の手を引き寄せる。
文生は生唾を飲み込むと、熱く猛る怒張を彼女に突き刺す。
二つの影は一つになり、床が激しく軋む。
火照った背中に小さな手が縋りつき、かすかに嬌声が漏れ聞こえるのであった――――
文生の影に入っているせいで彼女の瞳まで松明の灯は届かず、どんな感情を抱いているのか読み取れない。
だが、ただ一心に自分を見つめ返していることだけは分かった。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が流れる。
そしてその時間はなかなか終わらない。
「ウェンシェ「メイリ……あ」
二人の声が被さる。
美琳は慌てて首を振る。
「ご、ごめんなさい。文生から話して」
文生も目を泳がせる。
「いや、君こそ何か言いたかったんでしょう?先にいいよ」
「いいの、大したことじゃないから」
「でも……」
「大丈夫だから、文生の話から聞かせて?」
「そ、そんな僕の方こそ大したあれじゃ……」
「ンンッ!」
ハッと二人は床の外を見やる。
その咳払いは松明の灯っている方から聞こえた。そして明かりの下には屏風がある。
「……あ」
美琳はその存在を思い出し、文生に小声で話しかける。
「文生、あのね。あそこにジングウェン?って人がいるの。なんか記録するとかなんとか言ってたわ。なんのことなの?」
その言葉を聞いた途端、文生はカッと顔を真っ赤にする。
(そういえばそうだった……!)
文生は左手で顔を覆う。
美琳は目の前の文生の様子に狼狽える。
「何か変なこと言っちゃった?」
文生は頭を振る。
「美琳のことじゃないから安心して」
文生は深く息を吸う。そして息を吐き出すと、きゅっと唇を引き結ぶ。
「……優しくするね」
そう言うと、優しく美琳の腰帯を解いた。
はらり、と紅い牡丹が花開く。
薄暗い中、白いめしべが現れ揺れる。
その様は怯えているようにも、誘っているようにも見えた。
――――こうやってちゃんと見たのは初めて会ったとき以来だ。
文生の心に、幼い頃とは全く違った感情がこみ上がってくる。
「メ、美琳。目を閉じてくれる?」
「……?分かったわ」
美琳が瞼を閉じたのを確認すると、ゆっくりと上体を屈め、ぎこちない動きでそっと口づける。
目の前には長く豊かな睫毛がかすかに震えているのが見える。かつて、これ程間近でこの明眸を見つめたことはあっただろうか。
文生の心臓が瞬く間に跳ねる。
鼓動が激しく律動し、早く続けろと急かしてくる。
だがどこに手を持っていけばいいのか。いつ唇を離せば良いのか。
官吏から教本を見せられたから、何をすれば良いのかしっかり覚えている。
……はずなのに、頭が真っ白で何も思い出せない。
いつまで経っても文生は動かない。
美琳はそっと目を開け、栗色の瞳で文生を覗き込む。
文生は驚き体を起こす。が、美琳の両腕が首に絡みつき引き戻される。
美琳は体を密着させると、そのまま硬くなっているモノを陰部でこすり上げる。
「あッ!メ、美琳、そんなッ、しなくていいンッだよ」
文生は慣れない刺激で簡単に息が上がってしまう。
「気持ちよくない……?」
美琳は眉尻を下げる。
「そんなことッない、けど、でも……!」
ぐっと拳を握る。と、美琳も両腕に力を込める。必然、彼女の吐息が耳元に当たる。
「文生のシたいようにしていいのよ?」
囁き声が耳朶をくすぐる。
「で、でも、傷つけたくないよ」
「平気よ?文生だって知ってるでしょう?」
美琳は腕を緩めて文生と顔を合わせると、安心させるように微笑む。だが返って文生の表情は歪む。
「だって、体は平気でも、心までそうとは限らないでしょう?」
文生は今にも泣きそうな顔で、そっと美琳の顔を撫ぜる。
美琳は目を瞠る。が、それはすぐさま満面の笑みに変わった。
「文生のそういうところが好き」
「すッ……!」
文生の陰茎がヒクつく。
美琳は蕩けきった声で言葉を紡ぐ。
「文生の優しさは私が一番知ってるわ。いつだって私のことを考えてくれてる。だから、文生のすることで私が傷つくことは絶対にないの」
「……ッ!」
文生は寝間着をかなぐり捨てると、美琳の唇にかぶりつく。
手で乳房を揉みしだき、男根は陰部の上を這う。
小さく柔らかい陵丘を下ると、誘うように蠢く秘部に辿り着く。
傷つけないように丁寧に解していけば、甘い蜜を零して文生の手を引き寄せる。
文生は生唾を飲み込むと、熱く猛る怒張を彼女に突き刺す。
二つの影は一つになり、床が激しく軋む。
火照った背中に小さな手が縋りつき、かすかに嬌声が漏れ聞こえるのであった――――
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