第3トンネル

にゃあ

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白い顔

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 間髪を入れずまた激しい衝撃が伝わる。
 車の後ろを蹴り上げているようだ。

 すると今度は反対側のドアを蹴り上げる音が響いた。
 その度に車体が揺れる。
 息が詰まる程の、凄まじい痛みが全身に走った。車体が衝撃で動く度に、痛みが突き刺す。
 天井に溜まった血がチャポンと滴をあげた。

 きゃははははは。きゃははははは。

 狂気を帯びた笑い声が響く。
 ひとしきり助手席側のドアを蹴り上げると、今度はこちら側のドアが蹴り上げられた。
 それは執拗に続く。
 
「やめてくれ……もう、勘弁してくれ……」

 俺は、僅かに残った力を振り絞るように哀願した。

 音が止んだ。
 不意に訪れた静寂に、虫の声だけが小さく響いている。
 
 呼吸をする度に痛みが激しくなる。それに、その呼吸もよく出来ない。
 出血は酷くなる一方だ。
 このままでは、確実に死に至るだけだ。
 そして霊がその恐怖感を煽る。
 静かに眠らせてはくれない。
 
 俺は確信していた。
 後悔の念が襲う。
 馬鹿な事をした。
 過失とは言え、何て馬鹿なことをしてしまったのだろう。

 俺は……。
 なんてことを。

 涙に滲んだ目を前に向けると、そこに少女の白い顔があった。
 砕け散ったフロントガラスの向こうで、陶器のようにのっぺりとした小さな白い顔が浮かんでいる。
 身体は見えない。
 ただ顔だけがそこにあった。
 
 その表情からは何も読み取れることが出来ない。
 絶望的な恐怖が襲う。
 このまま、気が狂えばどんなにか幸せだろうと思った。
 
 耳元で囁き声が聞こえた。
 耳鳴りでよく聞き取れない。
 俺は全身の痛みも忘れて囁き声に集中した。

 ………ぬ、の、は。 

 低くくぐもったような声が俺の耳元で囁いた。

 く、る………。
 
 目の前が掠れてくる。気が遠くなってきた。
 俺は、必死に天井に付いた腕に力を入れ、身体を持ち上げた。
 何度もやるうちに頭と身体が僅かに横に動き、少しだけ自由になる。
 そのまま手をガラスの割れたドアの縁に掛けると、掌に鋭い痛みが走るのも構わずに無理矢理身体を引き寄せた。

 ガラスが割れ、ひしゃげたドアの縁から這って外に出た。
 頭が割れそうに痛む。
 恐る恐る手を当てると、べっとりと大量の血が付いてきた。
 足に力が入らない。苦労して自分の足に目を向けると、片方の足が不自然な方向に折れ曲がっていた。
 俺は辛うじて動く腕を使って、這い進む。
 
 どん、と身体に衝撃を感じた。
 
 何かに背中の辺りを蹴られたような感触があった。
 
 再び、どん、と衝撃。

 柔らかい小さな足の裏の感触。

「……やめてくれ……お願いだから」

 俺は涙を流しながら、哀願する。

 きゃはははははは。

 笑い声がトンネル内にこだまのように尾を引いて響く。
 また背中を蹴られた。
 俺は必死に這い進んだ。
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