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誘拐

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「明日は病院行くから、学校休む」

「分かった」

「今日は無理言って、ごめんね」

「ううん、瑞希が頑張ったご褒美だから」

「今日は見送るから」

「うん、分かった。火曜日、迎えに来るよ」

「うん」

僕は軽く走り始めた。

いつも曲がるところで、振り返った。
瑞希の姿がなかった。

あれ?家に入ったのかな?でも、見送ると言っていた。瑞希なら、ここを曲がるまで待つはずだ。

僕は瑞希の家まで戻る。やはり違和感が拭い去れない。
耳に集中する。瑞希の声はない。

すると、黒いワゴン車が道に出てきた。

僕は嫌な予感がして、走り始めた。離れた大通りまでは逃げ道はない。

流石に追いつけないが、先は信号で車が停まっている。

ワゴン車は曲がった。その先は田んぼが多く一本道だ。見失うことはない。

僕も曲がる。先にワゴン車が見えた。

「マスター、また黒く手が光っています」

「よし、試してみよう」

僕は手を伸ばして、闇魔法を飛ばす。
車は闇魔法に包まれて、動きを止めた。

僕は車の脇に出る。急に扉が開き、中から人が出てきた。

どうやら、僕も捕まえる気らしい。

「オリオン、パンチ!」

僕に掴みかかろうとする腕を躱して、腹にオリオンを軽く当てる。
相手の体が1メートル浮いて、落ちた。

もう一人が扉から出てくる。同じように躱して、腹に当てた。

2人が足元にのびている。

車が動こうとしたので、扉を手で押さえる、タイヤが煙と悲鳴のような音を出す。

逆の手で、運転席めがけて闇魔法を放つ。
運転席が黒い炎に包まれる。
「うわぁ!身体が燃えるぅ!」

車輪の音が止まる。
僕は車の中に入り、
「おい、この炎は僕が解除するまで消えない。死にたくなかったら、さっきの店まで戻るんだ」

「分かった!言う通りにするから!」

僕はのびている二人を車に入れて、闇魔法を解除した。

「はあ、はぁ」運転手は荒い息をした。

「早くしろ!」

「はい!」

瑞希のそばに行き、確認する。特に変わった様子はない。寝ているだけのようだ。
体の芯からホッとした。


車は中華屋まで戻って来た。

「うわぁ!」
僕はまた運転手を黒い焔で包んだ。
「待ってろ、すぐ戻る」

瑞希をお姫様だっこして、店の中に入った。

「すいません、瑞希さん、疲れて寝ちゃって」

「あら、ごめんなさい。全くこの子ったら」

「では、明日は学校なので、今日は失礼します。明日、病院よろしくお願いします」

「うん、気を付けてね」

頭を下げて、扉を閉めた。


車に乗り込み、運転手の闇魔法を解除した。
「はぁ、はぁ」また荒い息をした。

「どこに行くつもりだったんだ。そこに俺を連れて行け!どうせ手ぶらじゃ帰れないんだろ。それとも、こうなりたいか?」

のびている一人の頭を掴んで持ち上げ、首を切った。

ドサっと身体だけが落ちた。
また切り口は凍っている。

運転手は悲鳴をあげた。

「静かにしろ!」

「わっ、わっ、わかりました」

「早く連れて行け!」と運転席を蹴る。

頭と身体を車の後ろに投げた。

運転席の後ろに、手錠が見つかった。
のびているもう一人の両手を、背中で手錠をした。

「おい!起きろ!」と頬を叩く。

「あぁ」とゆっくりと目を開けて、見開いた。

「お前は!」自分の手が背中から出てこないことに慌てている。

髪の毛を掴んで、車の後ろに頭を持っていく。

「こうなりたいか?」

「ひえぇぇぇ!」と叫ぶ。

「静かにしろ!」と助手席に投げる。

「ゴホォ」と叫ぶ。

髪を掴んで、目を見る。

「最後だ。お前も、身体とオサラバしたいか?」

勢いよく首を左右に振る。

「俺はこいつ」
運転席を蹴る。

「だけいれば問題ない。お前が俺に忠誠を誓うなら、首と体は繋がったままだ」

今度は勢いよく首を縦に振る。

「それなら、俺を怒らせないことだ。分かったな」

「はい!」

「まずは、あの子を誘拐した目的は?」

「あなたに言うことを聞かせるためです」

やっぱりそうか。マリアの忠告が現実になってしまった。
「どうして、分かったんだ?」

「詳しいことは知らされていません。しかし、高木世羅と、どっちか連れてこいという命令でした」

「本当か?」

「はい、死にたくありません」今にも泣きそうだ。

「こいつも知らないのか?」と運転席を蹴った。

「はい、私が命令を受けて、この2人と実行することにしました」

「そうか。高木世羅は無理だったということか?」

「はい、常にボディガードがついてます」

「えっ!」僕は唖然とした。

それって、この前のホテルの時もいたのか?もちろん世羅さんが知らないわけがない。あっ、初めて会った時に絡まれてたからなのか?あのとき、いれば僕の出番はないはずだ。

「くそ!」

「ひぃぃ、殺さないで」

「まだ試験は終わってない。お前達の組織は何なんだ?」

「仁政会です」

「仁政会?」

「暴力団です」

「暴力団が何故だ?」

「すいません。わかりません。ただ、最近、組の一人が不審な死に方をしたと噂がありました」

「不審な死?」

「はい!体がバラバラにされた後に、火を付けられたという噂です」

あぁ、なるほど。でも、どうやって僕がやったって、分かったんだ?こいつに聞いても分からないか。

「しょうがないな。今後、俺の身内を危険な目に合わせることは、できない。全員に死んでもらう」

「そんな!約束が!」

「安心しろ!俺は仲間は殺さない。お前達はオレの仲間だろ?」

「はい!もちろん、仲間です」

「はい!仲間です」運転手も叫ぶ。

「お前達が組を辞めても、それを咎める人間は全員オレが殺す。だから、これからは真っ当に生きろ!分かったな!」

「はい!もちろん足を洗います!でも、組には30人はいますよ」

「ふふふ、全然余裕だよ。おかわりが欲しいくらいだ。組へ急げ!お前達は、そこで解放する」

「はい!」



「マスター、この人達が少し可哀想です」

「しょうがないだろ。場所わかんないんだから。着くまでは生かしておかないと」

「それはそうなんですけど。それと、今、組にいない人はどうするんですか?」

「また組の人に聞くから」

「そうですね。偉い人を一人残せば十分でしょ」

「はい、了解しました」

「トキノ、オリオン、また楽しもう!」

宝石達は光った。

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