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第33話 暗闇に蠢くもの 2

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 仮にもと言いふらしているのは天音ではないか。それなのになぜ一言も、たとえ言葉だけでも触れてこないのか、それほどにオレは空気なのかと思うと居ても立ってもいられなかった。

 中身のない、空しいメッセがブチッと切られた夜8時。すぐに家を出た。自転車で15分。何をどうするつもりも目論見もなかったのは事実。だが、とにかくやり場の無い怒りの捨て場がなかったのだ。

 思わず力が入ってしまうのだろう。ペダルをこぐ左膝が痛む。しかし膝よりも心が痛い。何をするつもりでもなかった。ただ「彼女の家を見るだけでも」と、道のりの大半は片足こぎでたどり着いた。

 天音の部屋に灯りがついていた。

 「ん?」

 ベランダを超える影が見えた。とっさに身構えた。けれども、慣れた手つきで窓を開けると、当たり前のように入っていった。

 顔までは見えなかったけれど、背の高いシルエットが健であるのは間違いない。隣に住んでいることは知っていた。

 迎え入れた天音の姿はシルエットだけ。だが瞬の中では、満面の笑みで再現されている。

 茫然と立ち尽くしていた。どれほどの時間見上げていただろうか。

 しばらくしてから、二人の影が一つになったのが見えた。

 瞬は、あの日絶望を知った。わかってはいたつもりであっても「それ」を目の当たりにすれば、心は壊れるのだ。

「……と、まあ、それが顛末てんまつさ」

 陽菜があまりにも真っ直ぐに受け止めてくれたから、余計に瞬の心はすさむ。言葉が止まらない。

「それでね、後日談があるんだよ」
「ごじつだん、ですか?」

 陽菜の心は、もはや壊れかけているのかもしれない。しかし瞬はヘラヘラッと笑いが収まらず、言葉を止められなかったのだ。

「2月のね、14日だったよ。うん。菅野さん。くれたよね。ありがとう」

 手作りクッキーだった。みんなに渡していた包み紙は一緒だが、瞬のにだけ「ありがとうございます」とメッセージが書いてあった。心が温かくなった。

 その記憶をちょっと遠い目で思い出してから、口元だけで笑って見せる瞬。

「あの日はね、松永さんからももらったよ。ハイって。みんなと同じチョコ。それとプレゼント。いったいどういう冗談だったのか、オレにはいまだにわからないけど。ひょっとしたら誕生日とバレンタインをまとめて祝ってくれたのかもね」

 ケケケと笑いがこぼれてしまう。

 瞬の心も壊れてる。そのままを後輩に伝えていいのか迷っていたはずなのに勝手に口が喋っている。

「二階堂と松永さんは、今でも毎晩のように行き来していると思うよ。そして、二人は部屋の中でくっついているってわけ」

 頬に意地の悪い笑みが浮かんでいたのは自分に対するものだったのだが、陽菜はわかったのだろうか?

 そして言うべきでもないし、言いたくもない事実は他にもいくらでもあった。雛の目を見てしまうと、なぜか瞬は言葉が止められなかった。
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