辛かったけど真の彼女ができました

第３１話 花言葉は「初恋」 １

　可愛いなぁ、この子は。

　ヒマワリの花のように背筋を真っ直ぐにして生きてるのだと瞬は思った。

　あの事故が起きた日に、多分、瞬はそういった種類の「真っ直ぐ」を路上に置き忘れてきたのだと自覚している。

　だからこそ、ここでヒマワリの背中を丸めさせてはいけないと、ことさらに皮肉っぽい声を作った。

「正確に言うと、これは浮気なんかじゃないと思うんだ」

　ことさら「浮気」と言う言葉にアクセントをつけてみせる。

「でも！」

　陽菜は声を震わせて瞬の言葉に反応すると、すぐに続けた。

「だって付き合ってるんですよね？　いっつも天音先輩は大竹先輩が彼氏だって言ってましたよ。それなのに！　これは絶対に浮気です！」

　正論だと思う。

　あまりにも眩しく感じる正論だ。

『トラックにぶつかる前に自転車を止めなきゃって、反射的に動くのと同じレベルの正論だよなぁ』

　陽菜の素直な怒りが眩しかった。そして羨ましくもあったのだ。

　しかし、だからといって、陽菜を辛い目に遭わせて良い理由にもならない。部全体をかき回してもダメだ。瞬なりに部の練習全体を向上させてきた自覚はある。

　人それぞれ、瞬との関係はあるけれども、誰もが部活に一生懸命だったのは事実だ。

　最後の最後で、自分がメチャメチャにしていいわけがない。

『オレだけでたくさんだ』

　瞬は、わざと右の口角を上げて「ニコッ」という擬音を演出した。

　その雰囲気を察してくれたのだろう。陽菜は黙った。そこに向かって瞬は口を開く。

「そうだなぁ……　一年前になるかな？　彼女から付き合って欲しいって言われたのは事実だよ」

　付き合い始めた日も覚えている。天音が果たして覚えているのだろうかと思いかけた瞬は、そんな未練を唇の先からフッと吐き捨てた。

『まあ、それはないよなぁ』

　告白してきた、あの日の天音の顔が不意に浮かんでしまった。なんだかひどく懐かしいと感じるのはなぜなんだろうかと思う。

『おっと、こりゃ不審だよね』

　思わず口元が緩んだところを、ジッと陽菜が見つめていた。その視線が痛くて、いや、怖くて目の前にある紫のライラックに目を向けた。