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第17話 合宿  〜天音〜 1

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 合宿で使った宿には寝泊まりする棟から歩いて20秒の所に離れがある。

 ミーティングやストレッチに使う広間になっている場所だが、言うまでもなく、消灯した後に来るべき場所ではない。そもそも普段は鍵が掛かっているところだ。

 そして、消灯時間を過ぎてしまうと、激しい疲れがたまった最終日だけに、部員達もすぐに寝てしまった。修学旅行とは違って、寝る時間が恋しいのだ。寝ていい時間になったら、さっさと布団に入ってしまうのが運動部の合宿だった。

 天音は、健に呼び出されたのだ。

 みんなが寝静まった後、誰も来ない場所で二人きり。離れになっているだけに、こんな時間に誰かが来ることはないのはわかっていること。

 そもそも、普段は鍵が掛けられているだけに、来てみようと思う人間すらいないだろう。

 この時間、この場所に、呼び出されてノコノコ応じる女子などいるわけがない。定番の「告白」であっても、さすがに、これでは危険すぎる。

 しかし、天音にとって「相手は健だ」となれば話が違う。しかも「大事な相談がある」と言われれば、多少の無理をするのは、二人の関係からして当然のこと。

 女の子として身の危険を感じるのかといえば「健に限ってありえない」というのが天音の中では確かなことだったからだ。

『キャプテンだから、ここのカギを持っていたんだよね』

 カギを悪用したカタチだが、今の天音にとって問題は「そこ」ではない。

 もちろん、相手が健だから、怖い思いなどしてないが、ひたすら困惑していたのだ。

『困ったなぁ。どうやってなだめたら良いの?』

 暗い部屋の中でふたりきりになって、突然、大きな身体に正面から抱きしめられていた。

 彼氏でもない男にされているのだ。普通なら怖い。逃げようとするだろう。大声を上げるかもしれない。しかし、相手が相手《幼なじみ》だけに、天音は全く怖さを感じてはいなかった。

 危険は感じないし、逃げる必要なんて感じない。

 ただひたすらに困っている。

「今さらと思うかも知れないけど好きだ。天音」

『ここで告白するとか、ないよ~ 健ってば、いったいどうしちゃったの?』

 返事の内容の前に、なんで、こんな時に告白してるのか、それが分からない。

「好きなんだ。ずっと好きだった」

 しかし、天音をかき口説く声に必死さがある。健を嫌う気持ちなんてない上に、傷付けたくないという気持ちが上に来る。

 これでは振りほどけない。冗談だと誤解するフリもできなかった。

 なんとか健を傷付けずに、この状況を変えたい。ただ、それだけ。

 だから困惑していたのだ。
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