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第3話  パニックと「あ~ん」 1

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 若葉高校に静かなパニックが起きている。

「ぐぬぬぬ」

 呻きともつかない声で机に突っ伏す者。

「ウソだ、ウソだと言ってくれ」

 ワナワナと呟く者。

 泣く者、怒る者、見なかったことにする者、弁当を急に食べ出す者。ネコ動画に心を逃がす者。

 静かなパニックは広がる一方だ。

 瞬は心の中でため息をつきながら、休み時間の度に顔を見に来る天音を見つめ直す。

「ふふふ。瞬が見てくれてる」

 ニヘラッと笑う顔は、普段の美女ぶりよりも「可愛らしい」に振り切っている。

 そんな笑顔を正面から受け止める瞬の目の端に呪詛を吐く連中が映っている。

『それにしても、マジかよ。こんなに可愛いのに彼氏が初めてって』

 カレカノとなってわかった。告白されたことはたくさんあっても「だって、みんな子どもっぽくって」お断りし続けてきたらしい。

「自分から好きになったのは初めてだったんだよ?」

 パッチリした瞳をクリンとさせて、そんなことを言われたら、たまらない。

「気がついたら瞬のことばかり見るようになってたの」

 お目めがハートマーク、というのはこのことをいうのだろう。美少女は初めてできた「彼氏」に底が抜けてしまったような、だらしない表情を見せている。

 恋は盲目という。恐らく「初めての彼氏」という意識が天音を突き動かしているのだろう。

 休み時間ごとに瞬のところにやってくる。

 当然、座る席などないのだが、美女とはワガママが簡単に通ってしまうらしい。現在、天音の座っている席は卓球部の吉岡の席だ。最初に天音が「座らせてもらってもいい?」と笑顔で聞いた瞬間から、休み時間の所有権が移ってしまった。

「吉岡君って、すごく優しい。ありがと」

 その一言で、吉岡は休み時間の度に自分から席を立って廊下でスマホゲームに勤しんでいる。

 すまん、と性格の良い卓球部員に心の中で頭を下げる瞬だ。

「ところで、さ、大切な話があるの」
「なに? 改まって」

 昨日も遅くまでチャットアプリを酷使して、あげくは通話に切り替えての長話だ。さんざん話はしたはずだ。

 もちろん話すことに異存はないが、わざわざ「大切な話」と言われると不思議だったのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
まだまだ、長い物語です
できればお気に入りに入れて
じっくりとお読みください。
ハートマークも押していただけると嬉しいです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 
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