上 下
22 / 54
聖女の失踪

22

しおりを挟む


「——どう、して……どういう、ことですの……?」



数秒の後、やっと漏れ出た言葉は、これだけ。


「意外だな、そんなに動揺するなんて。
事情は色んなとこから聞いてるぜ。

——正直、もっと『どうでもいい』って対応されると思ったよ」

片眉を上げて、少し皮肉げに王子は言った。
アリーからも聞いたんだろうな。
最近、アリーをすごく可愛がってるから、肩入れしているんだろう。


「そんな訳ありません。
……信じて貰えないかもしれませんが、可愛い義妹いもうとですのよ。

——何があったのです?」

私は、小刻みに身体が震えるのを自覚した。

あの子は、幸せになったはず。
もうすぐ、学院を卒業したら、エドウィンと結ばれて。
帝国は重婚可能だから、やろうと思えば、籠絡した攻略対象者達を夫としても迎えられるはず。

——あの子は、しないだろうけど。



「分からないそうだ。
いきなり、消えるように公爵邸から居なくなったんだと。

最後に聖女を見た使用人は、メグの部屋で涙を流しながら『ごめんなさい』と言っていたのを聞いているらしい。


——心当たり、あるか?
王国に、正式に『緊急案件』として問い合わせが来てる」


「———ないですわ。
あの子は、あそこに居れば幸せな筈ですもの……」


考えても考えても、あの子の行く先は、公爵邸か、皇宮、もっと言えば、攻略対象者、つまり仲良くしていた男性の家だ。

でも、当然国内の心当たりは捜索した筈。

そして、王国に問い合わせが来たということは……

私たちは、信用されていないということになる。

もっと言えば、『婚約者を取られた腹いせに、攫ったのではないか』と疑われている。

溜息が出るが、まぁ無理もない。
いくらでも調べて貰えば良いし、私たちに後ろ暗いところはない。



——それよりも、ミク。
何してるの、幸せにおなりなさいって言ったでしょう?———




しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生したけど、前世の記憶いる?

護茶丸夫
ファンタジー
ファンタジーな世界に転生したぜ、やっほう? お約束な神様にも会えず、チートもなく。文明レベルははテンプレより上ですか。 ゲームか何かの世界ですか?特に記憶に無いので、どうしたらいいんでしょうね? とりあえず家族は優しいので、のんびり暮らすことにします。 追記:投稿仕様は手探りで試しております。手際が悪くても「やれやれこれだから初心者は」と、流していただけると幸いです。 追記2:完結まで予約投稿終了しました。全12話 幼少期のみの物語です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

無責任でいいから

明日葉
恋愛
「責任?とってくださらなくて結構です」  没落伯爵家の令嬢セシリア・ノードはたまたま助けた少年から、責任を取って君と結婚する、と言われる。が。責任を取ってもらうほどの怪我でもなく、そもそも望んでいないのに責任とか、嫌がらせ、としか思えない。長年、家族から醜い容貌だと言われ続けたセシリアにしてみれば、とにかくそっとしておいて欲しくてすっぱりと断るが、すると相手の少年が絶望的な顔をする。 「わたしの容貌で責任と言われても、嫌悪感を与えるよな。すまない」  と、どこからどう見ても物語から出てきたような美しい容貌の人に謝罪されても意味がわからない。  それが、あまり表に出てこない第一王子とわかり、厳しく叱責を受けたセシリアは、そのまま家から追い出される。  一つだけ、持って出ることを許そうと言われ、ずっと近くにいてくれた侍従のアダンだけを連れて。  セシリアに仕えるばかりに、このまま家に残すことに危惧を覚えたから。アダンは喜ぶけれど、少しだけ顔を曇らせる。 「シア様がわたしだけ連れて出たと聞けば、兄上が烈火の如く荒れそうですが」 「お兄様は…そうね。でも、いつお耳に入ることか」  厄介払いを終えた伯爵家に、責任ではなく、感謝も伝えたいからと訪れた使者に「我が家への気遣いをいただけるのであれば、末娘が殿下に恋心を抱いております。どうか受け入れていただければ」と、伯爵は溺愛する娘を差し出そうとする。  そのことで、伯爵家が不興を買ったことは、もう関係のないことなので無責任と言われようと、知りません。  厄介な家からようやく解放された令嬢は、自由に生きたい。のだけど。「アダンも、わたしのことは放っておいて自由に生きていいのよ?」といえば、なぜか叱られ。  そっとしておいてくれない人たちを追い払ってくれるから。本当は、アダンがいてくれて、よかったのだけれど。  そうして今日も、セシリアはささやかな自由を満喫…したい。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...