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第一章

束の間の遊戯-24-

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 まあ……話しを戻すと、新ダンジョンともなると未探索ゆえにリターンも天井知らずになるから、冒険者たちは他の冒険者を可能な限り出し抜ぬこうとする。

 

 そのため、余計に少人数で探索を行う傾向が強くなる。

 

 当然リスクも上がっているから、屍の山が出ることになるのだが……冒険者というより人の命の重さがとにかく軽い異世界ではあまり問題にはならない。

 

 政府……というか各王国も冒険者が勝手に未開のダンジョンを探索してくれた方が都合がよいということで大抵は規制などなく半ば好き勝手にやらせていた。

 

 探索が進んで貴重な素材が見つかった場合には、兵を動かしてその地の王国がダンジョンを独占するなんていうことはあるが、それはあくまで例外である。



 各王国の軍は大抵ダンジョン探索よりもやらなければならないこと——国内の権力闘争、国外の領土紛争から魔族の相手まで——が山ほどあるから、ダンジョンに兵を送るなんてことは滅多にないのだ。

 

 そんな訳で、俺は今更ながら、美月さん……いやこの世界のダンジョンの常識との違いに驚く。



 考えてみたら俺がこの世界で探索していた日本アルプスのダンジョンもモンスターが出現しない低層階は人がまるで観光地のように溢れかえっていたが、モンスターが出現するようになる階層になると、ほとんど人がいなかった。



 俺はてっきりあまりにもモンスターのランクが低いので過疎っているだけだと思っていたが、よく考えてみればそれでは低層階の混雑ぶりは説明がつかない。



 それに低層階には警備と思われる者が常時巡回していたし、まるで遺跡を探索するツアーのように、行き先も制限されていた。



 階層を隔てる階段の前には警備の人間がところせましと立っていて、まるで空港のように厳重だった。



 俺は人混みが苦手なこともあって、さっさとガイドから離れて、警備の目をすり抜けて、奥の階層に向かってしまい、その後は「リターン」と「ゲート」で往復していたから、一度しか低層階には足を踏み入れてない。



 だから、あまり意識していなかったが、よくよく考えてみればあの光景はダンジョンとしてはかなり異様なものだった。



 この世界の冒険者のレベルが相対的に低いことを考えれば、単にモンスターが出現する階層には腕に覚えのある冒険者しか足を踏み入れないようにするための措置なのだろうが……。



 いやそれだけではないか……。

 

 たとえ、腕に覚えがなくとも異世界であれば、どんな人間であっても……何らの装備もしていない食い詰めた孤児でも……生きるために、ダンジョンに飛び込む。



 そして、大抵そんな未熟な冒険者が行き着く先は一つ……墓場である。



 だが、誰もそのことを気にも留めなかったし、ましてや止めることなどしない。

 

 俺も当初は違和感を覚えていたが、いつしかダンジョン内で、そんな孤児が屍になっている姿を見ても、大きなため息をつくだけで、日常の風景になっていた。

 

 そう……この世界と異世界ではあまりにも人の命の価値が違う。



 俺はそのことをずっと感じていたはずだ。

 

 はじめて美月さんに出会った時も俺は違和感を覚えていた。

 

 花蓮さんが重傷を負って死に瀕していた時の美月さんの態度。

 

 あの時の様子はよくよく考えてみればそれなりの経験を積んだ冒険者には大分似つかわしくないものであった。

 

 仲間が不意に死に瀕することや実際に死に至るケースはしょっちゅうある訳ではないが、冒険者である以上——いや普通の庶民でも——少なくない数遭遇する。

 

 むろん決して慣れるような類の経験ではないから、人である以上動揺はする。



 だがどこかで死に慣れてしまっているし、自分に降りかかることも予期しているから、諦めに似た想いを抱き、淡々と見送るだけだ。



 その表情を形容することは難しいが、少なくともあの時の美月さんのようにあからさまに感情的になる顔とは大分違う。



 俺は、単に美月さんが女性でありかつ極めて優しい性格だからと思っていたが、そうではなかったのだ。



 単にこの世界……いやこの国では命の価値は重く、病気以外で人が死ぬなんてことが滅多にないから、冒険者である美月さんですら仲間の死に動揺したのだ。



 俺はそのことを知っていたはずだ。



 異世界に行く前だって、誰かが一人……そう一億人もいるうちの実にたった一人……殺されれば一億人が大騒ぎする大ニュースになっていた。



 それがこの国だ。
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