上 下
128 / 153
第一章

束の間の遊戯-22-

しおりを挟む
 麻耶さんの顔色を俺はおそるおそる確認する。

 

 またこの場で魔法を唱えられたらたまったものではない。

 

 しかし麻耶さんは特段不快な顔を浮かべていないどころか、懐かしの友人とでも語らうかのごとく楽しげですらあった。



「それは余計なご心配をおかけして申し訳なかったですわ。ですが、ご覧の通りわたしは何ともありませんわ」



「それは何よりなんだが……いったい全体この数日で何があったんだ? 前に話した時と大分様子が違うようだが……」

 

 松方氏はそう言うと眉根を寄せて、しかめっ面を浮かべる。



「それは……まあ色々とありまして……ね。後で話しますわ。それで……彼はもう行かせてもよろしいですか?」

 

 麻耶さんはそう言うと言葉を濁す。



 麻耶さんとしては、俺の前ではあまりそのことについては触れられたくないようだった。



「ああ……この目で直に見られたし、話しもできたしな。まあ……やっていることの割には、そんなに変な奴でもなさそうだしな」

 

 松方氏はそう俺のことを褒めているのだか、けなしているのだかよくわからない評価を下す。



「それはよかったですわ。それじゃあ……二見、あなたはもういいわ。美月と合流しなさい。後の諸々はわたしがやっておくから」

 

 麻耶さんはそう言うとさっさと話しを終わらせてしまう。



 どうやらやはり麻耶さんとしては、俺をさっさとこの場から追い出したいようだ。

 

 俺としてももとより長居する気はない。

 

 麻耶さんと松方氏の関係は少しばかり気になったが、俺もいたずらに人……ましてや女性の過去を詮索するような趣味はない。

 

 と、俺が、部屋を出ようとした時、松方氏が不意に俺の手にあった御守りを見る。



 そして、松方氏は目を止めて、



「それは……あいつの……」

 

 と驚いたような声を上げる。

 

 ついで、松方氏は麻耶さんの方を無言で見て、



「どういうことか説明してくれるんだよな?」



 と真剣な口調で言う。



「ええ……後ほど……」

 

 麻耶さんはそう言葉を濁す。

 

 なにやら微妙な空気が漂っていたが、いずれにせよ二人とも俺の退出を暗に促している様子であった。



「それでは……自分はこれで」

 

 と俺はそう一言いって、その場からお暇する。

 

 部屋を出ると、長い廊下の奥から美月さんがタイミングよくこちらへと歩いてくるのが目に入った。



「ああ、二見さん、そちらの方の話もちょうど終わったようですね。では行きましょうか」



 美月さんはそう言うとさっさと先へ進んでしまう。



 俺は美月さんの後ろを追いかけながら、



「えっと……麻耶さんからは新ダンジョンに行けと言われたのですが……」

 

 と俺は自分で話しておきながらも、かなり間抜けだなと思う質問を美月さんにする。

 

 よくよく考えてみれば、俺は新ダンジョンの場所すら麻耶さんから教えられていない。

 

 たしか北海道と言っていた気はするが。



 ……それなりに遠方だな。

 

 交通費……飛行機代は出るのだろうか。

 

 ポータルを設置するにも、一度は実際に現地に行かないといけない。

 

 さすがに数百キロを浮遊魔法で強行軍をするのは、今の俺の年齢では大分こたえる。

 

 まだ秋とはいえ、北海道の……しかも上空はかなり冷えるだろうしな。

 

 となると、防寒対策の魔法——ファイアーヴェール——は欠かせない。

 

 浮遊魔法で強行するとなると、ファイアーヴェールとのダブル詠唱を常時しないとならないのか……。



 できれば飛行機で行きたい……。

 

 しかし、自腹となると来月の家賃の支払いを考えると躊躇してしまう。



 やはりここは我慢してでも、財布に優しい浮遊魔法で行くしかないのか……。

 

 と、俺はそんな極めてみみっちい……いや現実的な問題について頭を悩ませていた。

 

 エレベーターに乗りこむと、美月さんは、



「ああ、大丈夫ですよ。その手配もしていますから。ちょっと場所が特殊なので、渡航手段も限られていますから。そのことについて、色々と話し合いが必要だったのですけれど、そこら辺は母がやってくれたようです」

 

 と、あっさりとそう言う。



「はあ……それはありがたいです」

 

 特殊な場所……という表現は気になったが、どうやら俺自身で飛行機の手配等はしなくてよいらしい。

 

 これで当座の経済的な問題はなんとかなりそうだ。

 

 俺がほっと胸を撫で下ろしていると、エレベーターが止まる。



 扉が開くと、地下の駐車スペースが広がっていた。



 そして、そこには見覚えのある黒塗りの車が止めてあった。

 

 どうやらこの車でまたどこかに向かうようだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...