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第一章
束の間の遊戯-18-
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「え……いやまあそれは……」
と、俺が言葉を濁していると、麻耶さんは両手を腰にあてて詰め寄ってくる。
俺は壁際に追い詰められて、麻耶さんと大分密着した形になる。
目の前には麻耶さんのスーツ越しでもわかる豊満な胸が否が応でも視界に入ってくる。
ついで、俺の前をフワリと麻耶さんの艷やかな黒髪が舞う。
その瞬間、なんとも言えない甘い香りが鼻腔をくすぐる。
距離を取っていても、麻耶さんのそのグラマラスな肢体に気を取られないようにするのは男にとって至難の業だというのに、これではたまらない。
さきほどの局長にしたって、あんな状況であったにもかかわらず、何度か好色な視線を麻耶さんに向けているのに俺は気づいていた。
女性は男よりもはるかにそういう目線には敏感であるから、そのことに麻耶さんも気づいていたのかもしれない。
だからこそ麻耶さんは局長相手にあそこまで高圧的だったのだろうか。
俺も先ほどの局長の二の舞にならないように気をつけなければならないな。
と、理性ではそう思っているのだが、俺はまだ昨日の麻耶さんの妖艶な姿が頭から離れてくれない。
だからこそ、麻耶さんにこんなに無自覚かつ無防備に近づいてほしくはないのだが……。
麻耶さんは俺のそんな煩悶とした葛藤などなど知るよしもないのか、以前半径50センチ以内にとどまり、話しを続ける。
「これを見なさい」
麻耶さんはそう言うといつの間にかどこからか取り出したスマートフォンの画面を見せる。
そこには見慣れた顔……俺の顔写真が無数にあった。
「昨日のDtube上の動画はもう削除されていたけれど、ご覧のとおりあなたの顔写真はもうインターネット上のいたるところに出回っているわ。『オッサン』、『ダンジョン』で検索すればあなたの顔写真と関連の記事で画面が埋まってしまうほどよ。ちなみに日本だけではなく他の国の検索結果も同じようなものよ。つまり……今あなたは世界的な有名人という訳」
「はあ……」
俺は生返事を返すことくらいしかできなかった。
というのも現実感がおおよそないからである。
俺は麻耶さんの説明を理解していたし、実際のところ画面だってしっかりと何度も見ていた。
しかし……それでもこの件を他人事……いや別世界での出来事のように捉えてしまう感覚が俺にはある。
やはり俺はインターネット上の出来事をまだ現実のこととして捉えることができないらしい。
無論俺も、この25年間でネットとリアルが限りなく融合したというのは知識としては知っている。
SNSやら動画配信なんて技術が普及しているのだから、人々がそういう感覚になるのも理解はできる。
が……やはり理解はできても、肌感覚としては俺はそれにまだ馴染めていない。
要は俺の感覚はまだ90年代当時から抜けきれていない。
つまりそれは、ネットというのは一部の限られた者たち……日陰者たちがコソコソと隠れてやるものであり、リアルとは完全に分離しているという認識なのだ。
これがもしかしたら、新聞やテレビという媒体で見せられていたら、もっと違った感覚……これは大事だ……と実感できたのかもしれない。
いや……というよりまさか今テレビをつけたら、ワイドショーとかで、俺の顔が出てきたりするのだろうか。
90年代当時はネットの出来事がテレビ番組に取り上げられるなんて皆無だったが、今はどうなのだろうか……。
うむ……どっちにしても、当分テレビや新聞は見ない方が俺の精神安定上よいだろう……。
「……とにかくこうなってしまってはもうわたしの力でも先日の件をもみ消しすることはできないわ」
と、麻耶さんは不意にそう神妙な面持ちで言う。
ということはやはり先日の損害の賠償を俺個人で負担しなければならないということか。
急に容赦のない現実に引き戻された俺は思わず顔がこわばってしまう。
ネットで有名人になることよりも、このこと……金銭問題……の方がはるかに頭が痛い。
と、俺が言葉を濁していると、麻耶さんは両手を腰にあてて詰め寄ってくる。
俺は壁際に追い詰められて、麻耶さんと大分密着した形になる。
目の前には麻耶さんのスーツ越しでもわかる豊満な胸が否が応でも視界に入ってくる。
ついで、俺の前をフワリと麻耶さんの艷やかな黒髪が舞う。
その瞬間、なんとも言えない甘い香りが鼻腔をくすぐる。
距離を取っていても、麻耶さんのそのグラマラスな肢体に気を取られないようにするのは男にとって至難の業だというのに、これではたまらない。
さきほどの局長にしたって、あんな状況であったにもかかわらず、何度か好色な視線を麻耶さんに向けているのに俺は気づいていた。
女性は男よりもはるかにそういう目線には敏感であるから、そのことに麻耶さんも気づいていたのかもしれない。
だからこそ麻耶さんは局長相手にあそこまで高圧的だったのだろうか。
俺も先ほどの局長の二の舞にならないように気をつけなければならないな。
と、理性ではそう思っているのだが、俺はまだ昨日の麻耶さんの妖艶な姿が頭から離れてくれない。
だからこそ、麻耶さんにこんなに無自覚かつ無防備に近づいてほしくはないのだが……。
麻耶さんは俺のそんな煩悶とした葛藤などなど知るよしもないのか、以前半径50センチ以内にとどまり、話しを続ける。
「これを見なさい」
麻耶さんはそう言うといつの間にかどこからか取り出したスマートフォンの画面を見せる。
そこには見慣れた顔……俺の顔写真が無数にあった。
「昨日のDtube上の動画はもう削除されていたけれど、ご覧のとおりあなたの顔写真はもうインターネット上のいたるところに出回っているわ。『オッサン』、『ダンジョン』で検索すればあなたの顔写真と関連の記事で画面が埋まってしまうほどよ。ちなみに日本だけではなく他の国の検索結果も同じようなものよ。つまり……今あなたは世界的な有名人という訳」
「はあ……」
俺は生返事を返すことくらいしかできなかった。
というのも現実感がおおよそないからである。
俺は麻耶さんの説明を理解していたし、実際のところ画面だってしっかりと何度も見ていた。
しかし……それでもこの件を他人事……いや別世界での出来事のように捉えてしまう感覚が俺にはある。
やはり俺はインターネット上の出来事をまだ現実のこととして捉えることができないらしい。
無論俺も、この25年間でネットとリアルが限りなく融合したというのは知識としては知っている。
SNSやら動画配信なんて技術が普及しているのだから、人々がそういう感覚になるのも理解はできる。
が……やはり理解はできても、肌感覚としては俺はそれにまだ馴染めていない。
要は俺の感覚はまだ90年代当時から抜けきれていない。
つまりそれは、ネットというのは一部の限られた者たち……日陰者たちがコソコソと隠れてやるものであり、リアルとは完全に分離しているという認識なのだ。
これがもしかしたら、新聞やテレビという媒体で見せられていたら、もっと違った感覚……これは大事だ……と実感できたのかもしれない。
いや……というよりまさか今テレビをつけたら、ワイドショーとかで、俺の顔が出てきたりするのだろうか。
90年代当時はネットの出来事がテレビ番組に取り上げられるなんて皆無だったが、今はどうなのだろうか……。
うむ……どっちにしても、当分テレビや新聞は見ない方が俺の精神安定上よいだろう……。
「……とにかくこうなってしまってはもうわたしの力でも先日の件をもみ消しすることはできないわ」
と、麻耶さんは不意にそう神妙な面持ちで言う。
ということはやはり先日の損害の賠償を俺個人で負担しなければならないということか。
急に容赦のない現実に引き戻された俺は思わず顔がこわばってしまう。
ネットで有名人になることよりも、このこと……金銭問題……の方がはるかに頭が痛い。
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