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第一章
束の間の遊戯-16-
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正直に言えば、俺にとってはその事実は少しばかり意外であった。
なにせ先ほどの役所もそうだが、俺の職場の上役たちは大概はパソコンを使うのに消極的だったし、むしろ毛嫌いしていた。
当時電子メールが普及し始めた頃で、俺は取引先とのやり取りをメールに置き換えようとした。
しかし、上役たちはこぞってこれに反対し、「FAXを使え!」と怒鳴られたものだった。
だが、この様子ではもはやFAXなど間違いなく誰も使っていないだろう。
確か当時は日本中で不況だの、バブル崩壊だのと騒がれていた気がするが、どうやら日本はIT技術を活用して無事復活を遂げたらしい。
そう考えると、今俺の目の前にいる役人たちにほのかな敬意を覚えてしまう。
彼らは俺の上役のような頭の硬い人々を説得して、ITの推進を成し遂げて、この国をさらに発展させたのだから。
だからこそ申し訳なく思ってしまう。
俺はそんな彼らの邪魔をして、迷惑をかけている。
25年間この国の税金をおさめず、存在もしていなかった俺が数億の損害を与えているのだ……。
俺が思わず顔を背けると、ふとあることが気になった。
先ほど見た時は、感慨のあまりに気に留めなかったのだが、部屋の中には何故か職員がほとんどいなかった。
よくよく見ても少なくとも俺の視界にいるのは一人しかいない。
その唯一残っている男がウンザリした顔を浮かべながら、電話を取っている。
先ほどからひっきりなしに電話が鳴っているようであった。
やはり中央官庁は忙しいのだろう。
それにしても何故ひとりしかいないのだろうか。
その光景は大分奇妙であったから、俺は部屋の前を通りながら、少々疑問を覚えた。
が、部屋の隅にある機器が俺の目にとまると、そんな疑問もすぐに消えてしまった。
というのも、その機器は、とても馴染み深いもの……FAXに似ていたからである。
いや……単なる気の所為だろう。
なにせ、25年を経て、こんなにIT技術が普及しているのに、FAXが未だに……ましてや中央官庁で現役で使用されているはずなどある訳はない。
俺が、首を振り、自身の疑念を振り払うと、ちょうど前を行く役人たちが、足を止める。
どうやら目的の部屋に着いたようだ。
彼らにしたがって部屋の中に入ると、中には机がロの字型に並んでおり、その横に椅子が数脚置いてある。
通された部屋は、小さな会議室のようだった。
俺等が案内され、とりあえず椅子に座ると、役人たちは、「こ、ここでお待ち下さい」と言うとそそくさと全員どこかへと行ってしまう。
待たされている間に俺は先程の役人たちの視線を思い出していた。
あからさまな敵意を抱いている訳ではないが、彼らは明らかに俺のことをこころよく思っていないようだった。
やはり先日の俺の行為……破壊活動が彼らの心象を著しく害しているのだろう。
これからそのことで詰問されるのかと思うと、大分気分が滅入ってしまう。
それにしても、俺等を呼び出した当の本人である麻耶さんはどこに行ったのだろうか。
そんなことを思いながら、数分……いや10分ほと経っただろうか。
部屋のドアが開いて、先程の局長と呼ばれた男とともに麻耶さんが話しながら、入ってきた。
麻耶さんはもちろん昨日の姿とは異なり、黒のビジネススーツを上から下まで完璧に着こなしている。
俺は一瞬、ほとんど無意識に昨日の麻耶さんの官能的な姿を脳裏に浮かべてしまい、今の姿と比較してしまった。
慌てて頭の中から麻耶さんのそのあられもない姿を無理やり消して、わざとらしく咳き込む。
幸い隣の美月さんに怪訝な顔をされる程度で、とうの麻耶さんは局長との会話に集中しているようで、俺の不埒な妄想には気づいていないようだった。
麻耶さんは俺らを一瞥しただけで、特段何も言わずに局長と話を続けている。
麻耶さんはいつも通り堂々たる態度をしていたが、対象的に局長は、弱りきった顔を浮かべていた。
なにせ先ほどの役所もそうだが、俺の職場の上役たちは大概はパソコンを使うのに消極的だったし、むしろ毛嫌いしていた。
当時電子メールが普及し始めた頃で、俺は取引先とのやり取りをメールに置き換えようとした。
しかし、上役たちはこぞってこれに反対し、「FAXを使え!」と怒鳴られたものだった。
だが、この様子ではもはやFAXなど間違いなく誰も使っていないだろう。
確か当時は日本中で不況だの、バブル崩壊だのと騒がれていた気がするが、どうやら日本はIT技術を活用して無事復活を遂げたらしい。
そう考えると、今俺の目の前にいる役人たちにほのかな敬意を覚えてしまう。
彼らは俺の上役のような頭の硬い人々を説得して、ITの推進を成し遂げて、この国をさらに発展させたのだから。
だからこそ申し訳なく思ってしまう。
俺はそんな彼らの邪魔をして、迷惑をかけている。
25年間この国の税金をおさめず、存在もしていなかった俺が数億の損害を与えているのだ……。
俺が思わず顔を背けると、ふとあることが気になった。
先ほど見た時は、感慨のあまりに気に留めなかったのだが、部屋の中には何故か職員がほとんどいなかった。
よくよく見ても少なくとも俺の視界にいるのは一人しかいない。
その唯一残っている男がウンザリした顔を浮かべながら、電話を取っている。
先ほどからひっきりなしに電話が鳴っているようであった。
やはり中央官庁は忙しいのだろう。
それにしても何故ひとりしかいないのだろうか。
その光景は大分奇妙であったから、俺は部屋の前を通りながら、少々疑問を覚えた。
が、部屋の隅にある機器が俺の目にとまると、そんな疑問もすぐに消えてしまった。
というのも、その機器は、とても馴染み深いもの……FAXに似ていたからである。
いや……単なる気の所為だろう。
なにせ、25年を経て、こんなにIT技術が普及しているのに、FAXが未だに……ましてや中央官庁で現役で使用されているはずなどある訳はない。
俺が、首を振り、自身の疑念を振り払うと、ちょうど前を行く役人たちが、足を止める。
どうやら目的の部屋に着いたようだ。
彼らにしたがって部屋の中に入ると、中には机がロの字型に並んでおり、その横に椅子が数脚置いてある。
通された部屋は、小さな会議室のようだった。
俺等が案内され、とりあえず椅子に座ると、役人たちは、「こ、ここでお待ち下さい」と言うとそそくさと全員どこかへと行ってしまう。
待たされている間に俺は先程の役人たちの視線を思い出していた。
あからさまな敵意を抱いている訳ではないが、彼らは明らかに俺のことをこころよく思っていないようだった。
やはり先日の俺の行為……破壊活動が彼らの心象を著しく害しているのだろう。
これからそのことで詰問されるのかと思うと、大分気分が滅入ってしまう。
それにしても、俺等を呼び出した当の本人である麻耶さんはどこに行ったのだろうか。
そんなことを思いながら、数分……いや10分ほと経っただろうか。
部屋のドアが開いて、先程の局長と呼ばれた男とともに麻耶さんが話しながら、入ってきた。
麻耶さんはもちろん昨日の姿とは異なり、黒のビジネススーツを上から下まで完璧に着こなしている。
俺は一瞬、ほとんど無意識に昨日の麻耶さんの官能的な姿を脳裏に浮かべてしまい、今の姿と比較してしまった。
慌てて頭の中から麻耶さんのそのあられもない姿を無理やり消して、わざとらしく咳き込む。
幸い隣の美月さんに怪訝な顔をされる程度で、とうの麻耶さんは局長との会話に集中しているようで、俺の不埒な妄想には気づいていないようだった。
麻耶さんは俺らを一瞥しただけで、特段何も言わずに局長と話を続けている。
麻耶さんはいつも通り堂々たる態度をしていたが、対象的に局長は、弱りきった顔を浮かべていた。
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