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第一章

束の間の遊戯-13-

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 美月さんのその話し方はその内容と比してあまりにも自然なもので、まるで単なる世間話をするような語り口であった。

 

 だから、俺は一瞬自分が聞き間違えをしたのかと思ったくらいだ。

 

 だがいつまで経っても美月さんは言い直すことなくただ俺の返答を待っているようで、じっとこちらを見つめてくる。



 俺は当然返答に苦慮する。

 

 こんな質問をされても正直に答えられるはずもない。  



「えっと……まあ綺麗で良い人だと思いますが……」

 

 と、俺が当たり障りのない言葉で返答すると、美月さんは少しばかりがっかりしたような素振りを見せて、



「ふーん、そういう感じなんですね」

 

 と、妙に含みのある言葉と表情を見せて、何かを考えるように片手を顎に置いて、小首をかしげる。

 

 なんとくなく美月さんのその表情は、令嬢モードからくだんの怪しげなものへと変わりつつある気がするが……。



 俺はそんな美月さんの様子を見て、少しばかり顔を固くしていると、



「ところで二見さん、昨日あの後大変だったんですよ?」

 

 と、美月さんはため息まじりに言う。



「えっと……あの後というのは自分が部屋に戻った後ですか?」



「はい、そうです。花蓮さんも鈴羽さんも二見さんの部屋の前から一歩も動かないんですから……。ふたりとも夜を徹して交代で見張りをすると頑なに主張して……」



 美月さんは呆れ顔だったが、その実どこか楽しげな表情が隠れていた。



 昨日の夜、寝る前に感じたあの気配は花蓮さんたちだったのか。



 しかし、別にダンジョンの中や森の中で野宿する訳でもないのに、いくらなんでも警戒し過ぎではないだろうか。



 いや確かに綾音さんたちの部隊に屋敷の中で襲われたという前例があるから、花蓮さんたちが過剰に警戒するのも仕方がないのか。



 ああいうことを一度経験してしまうと、どうにも神経が過敏になってしまうからな。



 俺も夜襲を経験してから、戦場で寝られるようになるのには随分と時間がかかったものだった。



 仲間の見張りがいても、どうにも気になってしばらくはまともに睡眠が取れなかった。



 今では寝ていても殺気を感じることができるようになったから、だいぶマシになったが。



 だが、花蓮さんたちにはそれは難しいだろう。



 彼女たちはあくまでも冒険者であって、兵士ではないのだから。



 いずれにせよ花蓮さんたちには大分面倒をかけてしまったようだ。



「お二人には申し訳ないことをしてしまったようですね」

 

 俺がそう答えると、美月さんは興味深げな表情を浮かべ、こちらに顔を向けて、俺の表情をうかがうように覗き込んでくる。



「……二見さんがこの様子だと、花蓮さんも鈴羽さんも、それにお母様も苦労しそうかな……」

 

 と、小声でポツリとこぼす。



「え? それはどういう意味ですか?」

 

 俺が思わずそう聞き返すと、美月さんは、例の怪しげな笑みを浮かべて、



「いえ……こちらの話しなので大丈夫です」

 

 と、よくわからないことを言って、そのまま話しを打ち切ってしまう。



 俺が何とも返答すればよいかわからず、とりあえず話しを変えることにした。



「……あの……そういえば花蓮さんたちは先に帰られたのですか?」



「ええ、二見さんに着いていきたかったようですが……お二人とも結局ほとんど夜通し部屋の前にいたから、大分肌艶の様子が……いえお疲れだったようなので」

 

 と、美月さんは苦笑気味に言う。

 

 確かに徹夜は体にこたえるからな。

 

 花蓮さんたちにはゆっくり体を労ってほしい。

 

 そうこうしている内にいつの間にか、車窓の景色はビルが林立する都市部へとその様相を変えていた。

 

 そして、それからものの10分足らずで、今度はその景色は俺でも見覚えのあるものへと変わっていた。

 

 都内の風景は25年前から様変わりしていたから、今走っている場所がどのあたりに位置するのか俺は皆目検討がついていなかった。

 

 だが、25年前から変わっていない建物もあった。



 国会議事堂である。 

 

 その国会議事堂の前を通って、どこかで見たような官公庁街を走り、数分後に車はその中の一つである大きな高層ビルの前の道路に止まった。



「さあ、二見さん着きましたよ」

 

 そう言うと、美月さんは車を降りて、さっさとビルの方へと歩いていく。

 

 俺は、運転手の人に礼を言った後で、美月さんの後ろを若干戸惑いながらもついていく。
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