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第一章

束の間の遊戯-08-

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「美月さん! お母さんを……いえ麻耶さんたちを止めるのを手伝ってください」

 

 俺はそう彼女に声をかけたのだが、美月さんは自分の屋敷が消失しかねないというのに涼しい顔を浮かべたままだ。



「二見さん、まあ……いいじゃないですか。このまま見ている方が面白い気がしますし。それに……自分自身意外なのですけど……わたしいつも完璧なお母様がこんな風になるのを見るのがけっこう好きなのかもしれません」

 

 と、美月さんは、独り言のようにそうつぶやくと、怪しげな笑みすら浮かべている始末である。

 

 とても麻耶さんたちの説得に協力してくれる雰囲気ではない。

 

 俺は美月さんのその様子を見て、彼女の闇を再び垣間見てしまった気がした。

 

 とはいえ、今はそれどころではない。

 

 まずはこの事態を収拾しないといけない。

 

 言葉による説得は花蓮さんや麻耶さんたちの様子を見ると、どうにも無理な感がある。

 

 となると、残された手段としては少しばかり強引な方法に頼る以外にはない。

 

 あまり褒められたものではないが、このまま放置して屋敷が炎上するよりはマシだろう。

 

 俺は深呼吸して、強引な手段——「ウォークライ」——を発動した。

 

 この術は、敵対する相手集団に使用して、自身への注意を向ける……というのがオーソドックスな使用方法だが、味方に対して使用しても一定の効果はある。

 

 感情が高ぶって冷静な判断ができない際に、ときおり集団戦において、味方の兵たちを冷静にするために使用することがあった。

 

 だが正直に言えば、気休め程度のものであり、あまり効果が高い術ではない。



 まあ……この場の空気を弛緩させる……というか花蓮さんたちの高ぶった感情を一瞬抑えるくらいの効果はあるだろう。

 

 だいたい大仰な名前がついているが、要は相手の可聴域の音を出して、注意を引くだけの術である。



 効果的な声量と音を見極めて、発声するのにはそれなりの訓練がいるから、確かに業といえば業ではあるが……。



 あまり見栄えがよくないのと、その効果も限定されるから、あまり使用されることはない。



 だいだい大分うるさいから、人間相手……しかも仲間に使えば、かなり白い目で見られるしな。



 まあ……それが目的なのだが……。

 

 俺のアパートでこれをやれば近所迷惑必至であるが、この屋敷ならば大丈夫だろう。

 

 部屋にいる彼女たちに効果が及べばそれで十分だから、だいぶ声音も抑えたしな。

 

 そんな感じで、これで時間を稼げればいい程度の効果しか俺は期待していなかった。



 だが、花蓮さんや麻耶さんたちを見ると、予想以上の効果があったようである。



 花蓮さんと鈴羽さんは、強風に煽られたかのように大きく仰け反り、膝を折っている。



 麻耶さんと綾音さんに至っては、尻餅をついて、ペタンと床に膝をつけている。



 彼女たちのその様子を見て、俺は一応成功したとほっと胸をなでおろす。 

 

 これで麻耶さんたちもこの場で、魔法の応酬をするなどという馬鹿げたことはしないだろう。

 

 が……麻耶さんたちの表情を見て、俺は少し心配になってしまった。

 

 なぜならば、彼女たちの反応が少しばかり俺の予想と異なっていたからである。

 

 驚いているだけならば、それは想像の範囲内であるが、花蓮さんや鈴羽さんの表情は驚愕というよりも恐怖の色を怯えていた。

 

 綾音さんに至っては、体を震わせている始末だ。

 

 しまった……やり過ぎたか。

 

 考えてみれば最後に「ウォークライ」を使用した際にはかなりの大集団……というか人ではなくモンスターを相手にしていた気がする。

 

 人相手に使うのは久々過ぎて、感覚が大分ズレていたのかもしれない。



「あ、あの……すいません。大声を出してしまいまして……」

 

 俺は小声でそう言う。
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