上 下
106 / 153
第一章

新たな戦場へ-09-

しおりを挟む
 その唐突な様子に二人は一瞬水を差された形になり、二人を含めた全員が美月さんの方を見る。

 

 美月さんは何故か自身のケータイ……いや今風に言うのならばスマートフォンか……を食い入るように見つめている。



「美月、いったいどうしたというの、お母さんは、鈴羽と大事な話をしているのよ、それなのに——」



 と、麻耶さんが突然割って入ってきた美月さんを咎めるが、とうの美月さんは麻耶さんの言う事を無視して、



「あのお母様……先日の協会での出来事……というか二見さんの行動が全部Dtubeにアップされているんですけれども……」

 

 と、呆然とした様子で言う。



「な、なんですって!」

「な、なんですの!」

「な、なんだと!」



 彼女たちにとってよっぽどの衝撃だったらしく、麻耶さん、花蓮さん、それに今まで黙っていた綾音さんもほぼ同時に叫びに近い大声を上げる。

 

 そして、一斉に美月さんの方へと駆け寄り、彼女のスマホの画面に目を寄せる。

 

 一人だけ冷静だった鈴羽さんは、自身のスマホを開いて、件の動画を確認しているようであった。



「どうやら……遠方からドローンで隠し撮りされていたようですね……」

 

 と、鈴羽さんがつぶやいている。

 

 俺もやや遅らせながら、鈴羽さんの方へ行き、動画を見せてもらう。

 

 そこには俺の記憶にない自身の姿があった。

 

 デスナイト二体を魔法で倒し、そしてやはり何故か戦車まで破壊している。

 

 麻耶さんは、戦車破損の責任はモンスターのせいにしてくれると言っていたが、映像を見る限り、どう見てもその責は俺にあるとしか思えない。

 

 動画の俺は何をトチ狂ったのか、ペネトレイトを戦車の砲台に放って、ご満悦の表情を浮かべているのだから……。

 

 先程の金銭的な懸念が再び頭をよぎり、俺は少しめまいがしてきた。

 

 だが、そんな俺とは裏腹に先程まで血相を変えていた麻耶さん、花蓮さん、それに綾音さんはみなほっとした表情を浮かべている。

 

 当時彼女たちに何があったかは不明だが、映像は編集されているのか、はたまた遠距離から映したためなのか、いずれにせよ俺に焦点が当たっており、彼女たちの姿はほとんど映っていなかった。



 少なくとも彼女たちが懸念するような「女性として恥じらいを覚えるようなシーン」は俺がぱっと見た限りでは皆無であった。 



だから彼女たちも安堵しているのだろう。



「すごい再生数……もう……1000万回再生超えている」

 

 と、美月さんがつぶやくように言う。

 

 俺からすると自分の悪行を全世界に配信されて、指名手配されているような気分であった。



「お母様……これどうされますか? 二見さんのこと……これだともう言い訳できないですよね?」



「ふう……よかったわ。わたしのあの醜態が全世界に配信されていたら、さすがのわたしも出家して尼にでもならないといけないかと思ったほどよ」



「あの……お母様……わたしの話聞いていますか?」



 美月さんの問いかけに、麻耶さんはようやく気づいたらしく、



「えっ……聞いているわよ。二見のことでしょ。まあ……少しごまかすのが面倒にはなったけれど、なんとかなるわよ。きっと……」

 

 と、かなり適当な様子でそう言う。



 自分の恥ずかしい姿が動画に晒されたのかと誤解していた時とはえらい落差だ。

 

 まあ……麻耶さんのそうした態度は、わかりやすいといえばわかりやすい性格だし、彼女の立場からすれば当然だと思うのだが……。



 こうもう少し取り繕ってくれてもよい気がすると思うのは俺のわがままなのだろうか。

 

 てっきり先程までのクラーク氏との激論では俺をかばうような発言もいくつかしてくれていて、正直感謝していたのだが、今の麻耶さんの様子を見ると、どうやらそうではないようだ。



 対照的に花蓮さんは自分の笑顔の表情を引っ込めて俺が暗い顔をしているのに気づいて、申し訳なさそうな顔を浮かべている。

 

 さすが……花蓮さん、やっぱりいい人だ。

 

 まあ……でも麻耶さんのような性格の方が本人としては生きやすいだろうな。

 

 花蓮さんは人の機微に敏感に気づいてしまうから、色々と気遣いを周りにして、ストレスを知らずに抱えてそうだ。

 

 麻耶さんは自身の懸念が払拭されたからか、さっきとは一転してやけに上機嫌になっていた。



 俺はそんな正反対な性格の二人の美女を見ながら、麻耶さんを少しばかりうらめし気味に見る。



「まったくあの男も所詮はブラフということだったのかしらね。なに……二見、何か言いたいことでもあるの? そんな目をしても——ああんっ! ひゃん!」

 

 麻耶さんは奇妙な声をあげたかと思うと、一瞬自身の体を抱きすくめるような前傾姿勢になる。



 その後、麻耶さんは何事もなかったように姿勢を正したが、突然黙りこくってしまう。



 他の面々は、そんな麻耶さんの態度に怪訝な顔を浮かべている。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...