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第一章

新たな戦場へ-04-

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 俺が何も言えずにただ体を戦慄かせていると、



「お二人とも、何をしているんですの?」



 と、後ろから声がした。



 声のする方へ顔を向けるとそこには花蓮さんがいた。



「あまりにも長く席を外されていたので、気になってしまいまして……敬三様、大丈夫ですの?」



 と、心配そうな表情を浮かべて俺の方に駆け寄ってくる。



 そして、花蓮さんはクラーク氏をとがめるような目線でにらむ。



 花蓮さんの介入で、緊張の糸が切れたように場は弛緩した。



 クラーク氏は、



「……やはりあなたには良き友人たちに恵まれているようですね。それは非常によいことだ」



 と、言って、その場を後にしようとする。



 俺はクラーク氏の後ろ姿を見ながら、どうしても気になっていることを聞く。



 聞くべきではないとわかっていた。



 それに、その答えも大方予想できた。



 それでも俺は聞かざるを得なかった。



「あなたの叔父は今でも兵士のまま……なのですか」



「……ええ結局叔父はずっと兵士だった……どんなに家族が手を差し伸べても、戦場から戻ることができなかった」



「……たとえそうでも生きてさえいればいつかは——」

 

 俺はほとんど祈るような気持ちで、そう独り言のようにそう漏らす。

 

 それは俺の願いでもあった。



「いえ……彼は死にました。最後は叔母を巻き込んで、拳銃で自分の頭を撃ちぬいてね」

 

 その表情は暗がりでほとんどわからなかったが、その口調は非常に淡々としたものだった。 

 

 俺はクラーク氏の背中をただ見送るしかなかった。




 

 かなりの時間、席を外していたであろう俺とクラーク氏、それに花蓮さんがほとんど同じタイミングで広間に戻った時、一同は怪訝な顔を浮かべてはいたが、特に面と向かって何かを聞くものはいなかった。

 

 花蓮さんとクラーク氏の表情は硬かったし、きっと俺はもっとこわばった顔をしていたであろうから、みなも何かを察したのかもしれない。



 いずれにせよその後も会は続いたが、俺は正直ほとんど耳に入ってこなかった。



 だが幸いなことに誰も俺に話しかけることはなかった。



 クラーク氏は先程とうってかわって無口なままだった。



 それはあきらかに不自然ではあったが、かわりにマスイ氏が談笑していた。

 

 麻耶さんもクラーク氏が俺のことに一切触れないことを疑問には感じているようであった。



 だが、麻耶さんとしてもその話題に触れられたくないと思っていたからか、そのまま何事もなかったかのように会を進行させていた。

 

 俺はといえば、ただ出された皿とコップを口に運ぶという単純動作を繰り返していた。



 豪華な食事を確かに食べたはずなのだが、味はほとんどしなかった。

 

 俺の脳裏にはクラーク氏との会話がずっとこだまし、脳裏には兵士たちの屍が映っていた。

 

 やがて、どれくらいの時間が過ぎたのか。

 

 麻耶さんが会を終了する旨の話しをしているのが耳に入ってきた。



「今日はお忙しい中、わざわざこのようなところまで来ていただきましてありがとうございました。おかげで有意義な時間が過ごせたと思います。ダンジョンについては様々な問題が今も世界中で発生していますが、今後も我が国と貴国との同盟関係の元——」



 麻耶さんはそう形式張った話しをして、会を締めくくろうとしていたのだが、そこにずっと無言だったクラーク氏が唐突に立ち上がる。



「二条院会長、お話し中、大変申し訳ないのだが……少しよろしいかな?」



「それは……ええ、もちろんですわ」

 

 麻耶さんはクラーク氏の明らかに不自然な割り込みに怪訝な顔を浮かべる。



 だが、こうまで言われればさすがにゲストである彼の話しを麻耶さんとて止めることまではしない。



「この会を終える前にどうしても話しておかなければならないことがあります。貴国の国境地帯で、最近発見された新規のダンジョン……その探査についてね」

 

 麻耶さんはクラーク氏の態度に不穏なものを感じたのだろう。



 あからさまにわかるほどに顔をひきつらせていた。



「クラーク局長……そのことはこの場で話さなければならないことでしょうか? 別室でわたしとすればすむ話しでは——」



「探査の人員について要望があります。ここにいる二見氏にこの新ダンジョンの探査人員に加わっていただきたい」



 クラーク氏はそこまで言うと、俺の方をじっと見る。



 麻耶さんはもちろんのこと、他の面々はみな唖然とした表情を浮かべている。

 

 もちろん俺も同様である。

 

 マスイ氏やキャシーさんも同じようにあっけにとらわれた顔を浮かべている。

 

 どうやら部下の彼ら彼女たちに対してもクラーク氏は何も話していなかったらしい。
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