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第一章
晩餐会-18-
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マスイ氏が言うように、キャシーさんの外見を見れば誰もが美女と認めるだろう。
長い鮮やかなブロンドの髪は、光に照らされて輝いて見え、彼女が歩くたびに、露出した両肩にまるで優雅に流れ落ちているように見え、否が応にでも目を惹きつけられてしまう。
キャシーさんが身に着けていたドレスは、体にぴったりとしたデザインであり、そのグラマラスな体の曲線を大胆に引き立てていた。
あまりにあからさまに見ると失礼だから、俺は目をそらしてはいたが、男なら誰もがこの艷やかな彼女から目を離すことは難しいだろう。
そういう意味では、若い男であるマスイ氏が平然かつ自然に絶世の美女といってよいキャシーさんのことをあしらっているのはいささか意外であり、同時に感心すら覚えさせる光景であった。
そんなことを考えている間も、二人の舌戦は続いており、止みそうにない。
と、その様子を黙って見守っていた中年の男がついに見かねたのか、大きく咳払いをする。
中年の男が仲間の様子に見かねたのか、大きく咳払いをして、
「マスイ、キャシー、まずはこの会を主催してくれたホストたちに挨拶をするのが先じゃないか……やれやれそれにしても、やはり君たちだけで行かせなくて正解だったな…」
と呆れ顔を浮かべている。
「局長……僕は当然そうしようと思っていました。それを……この女が——」
「わたしは、このダンジョンギークが失礼な言動をして、外交問題になる前に止めようとしただけです」
と、二人は、ほぼ同時に局長と呼ばれた中年の男の方を見て、悪びれた様子も見せずに言う。
その二人の様子は、先程までの口論とは異なり、妙に息があっているように見えた。
中年の男の背丈はかなり高く、体格もがっしりとしている。
雰囲気といい、彼がリーダーなのだろう。
中年の男はなおも文句を言っている二人の部下を無視して、一人前に出て、
「二条院会長、本日はこのような素敵な会に招待してくれてありがとうございます」
と、麻耶さんに手を差し出す。
「クラーク局長、こちらこそ遠いところお越し頂きまして大変感謝しております。それにしても、クラーク局長のような大変お忙しい方が遠路はるばるいらっしゃるなんて、よほどのことがあるのかしら?」
と、麻耶さんも手を差し出し、クラーク氏と握手を交わし、微笑する。
しかし、麻耶さんは顔こそは笑っているが、その言動にも表情にもどこか含みがあった。
「いえ……わたしは局長といっても、実務周りは優秀な部下たちが行ってくれているので、暇を持て余している身なのです。ですから、今回の訪日もあくまでプライベートの観光のようなものでして。元々日本にはずっと行きたいと思っていましたから」
クラーク氏は、麻耶さんのそうした含みに気づいていないのか、あるいは気づかないふりをしているのか、ただ穏やかな笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「そうなのですか。では、米国政府から我が国の政府に対して、『例の冒険者に会わせろ』という圧力があったことと今回の訪日は無関係だったのかしら。わたし気を利かせて、その冒険者をここに呼んでいるのですけれどね」
麻耶さんはそう言うと、今度はあからさまに意地悪そうな笑みを浮かべる。
「……二条院会長。あなたも十分承知のこととは思いますが、政府というものは、大きく巨大です。特に我が国は世界最大の規模を誇る。ですから、その中には様々な思惑を持つものがいる。恥ずかしながら、一部の人間や組織が上の命令を拡大解釈して動いてしまう場合も多々あるのです。いずれにせよ失礼なことがあったのなら、この場で謝罪を申し上げたい」
クラーク氏は微笑みながら、冷静な口調で淡々と言う。
「やれやれ……そう正直に言われてしまうとこちらもやり辛いわね……。まあクラーク局長が謝ることではありませんわ。どのみち『例の冒険者』の件は、米国のダンジョン部局と話し合わないといけないでしょうからね……」
と、麻耶さんはクラーク氏の態度にいささか感心した様子で、ゆっくりと頭を振り、
「さてと……わたしたちだけがここで立ち話をしていても、仕方ないですし、まずは他の者の紹介でもいたしましょうか」
と、俺等の方を見る。
すると、クラーク氏の部下の一人の女性が、おもむろに俺の方をじいっと見て、
「この人が例の冒険者……二見敬三なの? 拍子抜けだわ。そこらにいるオジサンじゃない」
とがっかりした顔を浮かべている。
「おい! キャシー! 失礼なことを言うな! お前の方がよっぽど問題発言だぞ!」
「大丈夫よ。日本人のほとんどは英語はわからないんでしょ? だから、あなたが通訳代わりにいるんじゃない。そうでなければこんな大事な会合にあなたのようなギークが呼ばれる訳ないでしょ?」
「な! お前はまたそういう——。いや……しかしまあ……確かに国連機関の関係者である二条院会長はともかく他の人はそうかもしれないな」
と、マスイ氏は首をひねっている。
長い鮮やかなブロンドの髪は、光に照らされて輝いて見え、彼女が歩くたびに、露出した両肩にまるで優雅に流れ落ちているように見え、否が応にでも目を惹きつけられてしまう。
キャシーさんが身に着けていたドレスは、体にぴったりとしたデザインであり、そのグラマラスな体の曲線を大胆に引き立てていた。
あまりにあからさまに見ると失礼だから、俺は目をそらしてはいたが、男なら誰もがこの艷やかな彼女から目を離すことは難しいだろう。
そういう意味では、若い男であるマスイ氏が平然かつ自然に絶世の美女といってよいキャシーさんのことをあしらっているのはいささか意外であり、同時に感心すら覚えさせる光景であった。
そんなことを考えている間も、二人の舌戦は続いており、止みそうにない。
と、その様子を黙って見守っていた中年の男がついに見かねたのか、大きく咳払いをする。
中年の男が仲間の様子に見かねたのか、大きく咳払いをして、
「マスイ、キャシー、まずはこの会を主催してくれたホストたちに挨拶をするのが先じゃないか……やれやれそれにしても、やはり君たちだけで行かせなくて正解だったな…」
と呆れ顔を浮かべている。
「局長……僕は当然そうしようと思っていました。それを……この女が——」
「わたしは、このダンジョンギークが失礼な言動をして、外交問題になる前に止めようとしただけです」
と、二人は、ほぼ同時に局長と呼ばれた中年の男の方を見て、悪びれた様子も見せずに言う。
その二人の様子は、先程までの口論とは異なり、妙に息があっているように見えた。
中年の男の背丈はかなり高く、体格もがっしりとしている。
雰囲気といい、彼がリーダーなのだろう。
中年の男はなおも文句を言っている二人の部下を無視して、一人前に出て、
「二条院会長、本日はこのような素敵な会に招待してくれてありがとうございます」
と、麻耶さんに手を差し出す。
「クラーク局長、こちらこそ遠いところお越し頂きまして大変感謝しております。それにしても、クラーク局長のような大変お忙しい方が遠路はるばるいらっしゃるなんて、よほどのことがあるのかしら?」
と、麻耶さんも手を差し出し、クラーク氏と握手を交わし、微笑する。
しかし、麻耶さんは顔こそは笑っているが、その言動にも表情にもどこか含みがあった。
「いえ……わたしは局長といっても、実務周りは優秀な部下たちが行ってくれているので、暇を持て余している身なのです。ですから、今回の訪日もあくまでプライベートの観光のようなものでして。元々日本にはずっと行きたいと思っていましたから」
クラーク氏は、麻耶さんのそうした含みに気づいていないのか、あるいは気づかないふりをしているのか、ただ穏やかな笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「そうなのですか。では、米国政府から我が国の政府に対して、『例の冒険者に会わせろ』という圧力があったことと今回の訪日は無関係だったのかしら。わたし気を利かせて、その冒険者をここに呼んでいるのですけれどね」
麻耶さんはそう言うと、今度はあからさまに意地悪そうな笑みを浮かべる。
「……二条院会長。あなたも十分承知のこととは思いますが、政府というものは、大きく巨大です。特に我が国は世界最大の規模を誇る。ですから、その中には様々な思惑を持つものがいる。恥ずかしながら、一部の人間や組織が上の命令を拡大解釈して動いてしまう場合も多々あるのです。いずれにせよ失礼なことがあったのなら、この場で謝罪を申し上げたい」
クラーク氏は微笑みながら、冷静な口調で淡々と言う。
「やれやれ……そう正直に言われてしまうとこちらもやり辛いわね……。まあクラーク局長が謝ることではありませんわ。どのみち『例の冒険者』の件は、米国のダンジョン部局と話し合わないといけないでしょうからね……」
と、麻耶さんはクラーク氏の態度にいささか感心した様子で、ゆっくりと頭を振り、
「さてと……わたしたちだけがここで立ち話をしていても、仕方ないですし、まずは他の者の紹介でもいたしましょうか」
と、俺等の方を見る。
すると、クラーク氏の部下の一人の女性が、おもむろに俺の方をじいっと見て、
「この人が例の冒険者……二見敬三なの? 拍子抜けだわ。そこらにいるオジサンじゃない」
とがっかりした顔を浮かべている。
「おい! キャシー! 失礼なことを言うな! お前の方がよっぽど問題発言だぞ!」
「大丈夫よ。日本人のほとんどは英語はわからないんでしょ? だから、あなたが通訳代わりにいるんじゃない。そうでなければこんな大事な会合にあなたのようなギークが呼ばれる訳ないでしょ?」
「な! お前はまたそういう——。いや……しかしまあ……確かに国連機関の関係者である二条院会長はともかく他の人はそうかもしれないな」
と、マスイ氏は首をひねっている。
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