上 下
64 / 153
第一章

英雄、目覚める-12-

しおりを挟む
 俺はその女の行動と自分が反応できなかったことに唖然としてしまった。



 全くの予想外の行動だったから避けられなかったのか、いやそんな訳はない。



 こんな脆弱な女の攻撃に本来であれば反応できない訳はない。



 やはり俺はあの女の面影を——。



 その時、わずかに魔法発動の痕跡の気配がした。



 これは遠方……外か。



 俺はソウルエコーを瞬時に発動させる。



 前方数百メートル先に反応があった。



 なるほどもう一匹いたのか。



 どおりで、俺はまだこの状態——暗示がとけた状態——で自由に動けている訳だ。



 俺は女から離れて、再び体を宙に浮かせる。



「け、敬三様!? と、飛んで——」



 女は目を白黒させている。



 この女……危険だ。



 いずれ俺の障害になる。



 できれば処分したいが、制約がある。



 いや……制約がなくともやはり俺は——。



 ち……この甘さが命取りになったのに、俺は未だにこりていないということか。



 俺は女を無視して、そのまま宙を飛んだまま外へと出る。



 ソウルエコーが示す先はもうすぐのはずだ。



 外は既に夜になっており、あたりは暗くなっていた。



 月は曇天の中で陰っていたが、この世界にはありがたいことに光が満ちている。



 それに、前方からは魔法発動の痕跡が肉眼でもはっきりと見えていた。



 そのため、俺は暗闇の中でも対象を労せず視界に捉えることができた。



 眼下にはデスナイトと交戦している二人の女の姿が映る。



 全身が真っ黒なデスナイトは女が発動した魔法……サンダーボルト……をその体に受けて、奇妙な色を映し出している。



 デスナイトの外観は先ほどの個体とほとんど変わらないが、その装備だけが違っていた。



 大剣ではなく、小ぶりの……といっても人の剣よりもはるかに巨大だが……剣をそれぞれの手に装備している。



 二刀流のデスナイトか。



 交戦している二人の女にはいずれにも見覚えがあった。



 俺を拘束した愚かな女——麻耶——と、その娘——美月——だった。



 二人は協力しながら、デスナイトと闘っている。



 麻耶は遠距離から魔法を放ち、美月は近接戦闘——剣——で応戦している。



 傍目から見れば攻撃の手数が多い女どもの方が優勢に見えなくもないが。



 女たちの表情には余裕がなかった。



 二人とも目の前のデスナイトとの闘いに必死になっていて、宙にいる俺のことにはまったく気付いていない。



 デスナイトもまた俺の方を警戒する動きを見せない。



 この距離まで近づいてもどちらも俺の存在に気づかないとは……。



 やはりどちらも問題にならないほど低ランクだ。



 そして、女たちの方は輪をかけてお粗末だ。



 傍から見ても、女たちの攻撃はまるで、素人に毛が生えた程度のものだった。



 麻耶は、馬鹿の一つ覚えのように、初級の雷魔法——サンダーボルト——を繰り出しているだけだ。



 そして、美月もスピードを上げる身体強化を使って、剣を振り回しているだけだ。



 こんな有様で未だにこいつらが無事なのが不思議なくらいだ。



 デスナイトは確かに低ランクのモンスター——せいぜいC級程度——だ。



 だが、このレベルの女たちが太刀打ちできるほどには甘くはない。



 にもかかわらず、デスナイトはわずかではあるが女たちの攻撃によってダメージを受けているように見える。



 デスナイトの動きは徐々にではあるが、確実に鈍っているのだ。



 そうか……。



 デスナイト……というよりアンデッド系全般の弱点は魔法系統であることが多い。



 だから、こんな低級の魔法でもダメージが一応通っているのか。



 麻耶の雷魔法を食らうたびに、もともと鈍重だったデスナイトの動きがさらに遅くなる。



 女たちはその様子を見て、意気を高めているようだ。



「美月! もう十分だわ。あなたは、下がっていなさい! 後はわたしだけでなんとかするわ!」



「お母様一人に任せておくなんてできません! わたしがこいつを引きつけていれば、お母様も魔法詠唱の時間を稼げます。その間に——」



 美月の言葉が終わる前にデスナイトが、剣を振りかざす。



 美月は間一髪でそれを交わす。



 そして、娘の状況に青い顔をした麻耶が再びサンダーボルトを放つ。



 それにしてもたかがサンダーボルトを放つのにこれほどの時間を要するとは……。



 この女はやはり度し難く未熟だ。



 とはいえ、この母娘の稚拙な連携であっても、一応はデスナイトにダメージは与えている。



 サンダーボルト程度のダメージでは気が遠くなるほどの時間がかかるだろうが、この調子でダメージを与えていけばいつかはデスナイトを倒せるだろう。



 が……それはあくまで机上の空論。



 人は機械ではない。



 やっかいな感情という代物を持っている。



 だから、すぐに……破綻するだろう。



 そして、俺の予測はすぐに現実のものになった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...