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第一章

英雄、目覚める-04-

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 なぜか……頼むような口ぶりだったのが気になったが……。

 

 やはり俺の読みどおり、彼は紳士的で話しが通じる男なのかもしれない。

 

 もっとじっくりと俺の話しを聞いてもらいたかったのだが……。

 

 実のところ間宮氏に言われるまでもなく、俺はこのままここに留まろうと思っていた。



 俺としても不必要に麻耶さんを刺激はしたくない。



 なんとか誤解を解こうとしているのだから当然だ。



 が……少しばかり状況が変わってしまった。

 

 俺は、異変が起きた時に、花蓮さんと鈴羽さんの安全を確かめようと、「クロニクルガード」の発動状況を調べていた。

 

 すると……彼女たちが移動しているのがわかった。



 『クロニクルガード』は、探知魔法ではない。

 

 そのため、正確な位置や動作まではわからないが、大雑把な距離などは把握できる。



 前回、俺が把握していた場所と比べて彼女たちは明らかにその位置が異なっていた。



 距離的にはかなり俺の場所に近づいてきている。



 幸い『クロニクルガード』の防護効果は発動していない……つまり彼女たちは何らかの攻撃を受けた訳ではない。



 しかし……先ほどの異変……。

 彼女たちの身にも何かが起こっているのか。



 となると、俺はここに呑気にとどまっている場合ではない。



 俺が逃亡したら、麻耶さんの誤解を解くのはいよいよ難しくなるだろうが……。



 それよりも花蓮さんたちの安全が重要だ。



 と、俺が一分間ほど思考し、拘束を解く決心を固めた。





『フフ……自己暗示も解くべきじゃないのかしら? 敵が現れたのよ』



 そうなのかもしれない。



 いや……制約を守らなければ——



 と……俺の知覚に入り込むものがあった。



 うん……これは……。



『また……余計な邪魔が……。でもまあ……フフ……時間の問題ね。闘いが起こればあなたは目覚める……もうそれはすぐ——』




 

 俺が気づいた数秒後に、扉が開けられ、



「敬三様!」



「ご主人様!」



 花蓮さんと鈴羽さんの二人が俺の目の前に現れる。



「花蓮さん。それに鈴羽さん——」

 

 と、俺が二人に話しかけようとした時、彼女たちは勢いよく俺の方に飛び込んできて——。

 

 俺はそのまま二人に押し倒される形になる……。



 そして、花蓮さんと鈴羽さんの豊満な胸が俺の顔に押し付けられて——。

 

 俺は手錠で両手を縛られていて、両足だってそうだ。

 

 だからこれはそう仕方がない……そう不可抗力なのだ。

 

 いやまあ……正直に言おう。

 

 俺はその気になればいつでも……今でも拘束を外せる。

 

 だが……人と言うのは弱い生き物なのだ……。

 

 どうしても低きに流れてしまう。

 

 それは40代になっても変わらない。

 

 というわけで、俺はそのままたっぷりと——数十秒間くらい——俺はこの世の桃園……いや楽園を堪能した。

 

 さすがに二人もそろそろ俺から離れるかと思ったのだが、花蓮さんも鈴羽さんも何やら感極まった様子でいっこうに俺の上から離れようとしない。



「敬三様……ああ……ご無事で本当によかったですわ!」



「ご主人様……わたしを……鈴羽を嫌いにならないでください……。そもそもわたしが麻耶さんに——」

 

 まあ……これはこれで大変よろしいのだが。

 

 いや……いかんいかん……このまま低きに流れる訳には——。

 

 と、俺は理性の力でなんとか本能を制圧し、自身の両手、両足の拘束をといた。



 そして、大変に名残惜しいが、



「あ、あの……ふたりともそろそろ離れた方が——」



 と、二人の美女にやんわりと伝える。



「あ……も、申し訳ありません。わたくしついつい——」

 

 と、花蓮さんは顔をほんのりと朱に染めて、ゆっくりと俺の上から離れる。

 

 が……鈴羽さんは俺から離れようとしない。

 

 それどころか、



「ああ!! ご主人様……わたしを……鈴羽をお許しください!」

 

 と、先ほどより何やらヒートアップしている。



 鈴羽さんはなぜか涙ぐんでいる様子だった。

 

 そして、抱きしめられる力も強くなり、それにまして鈴羽さんの胸の圧もまた強くなり——。

 

 俺は再び理性の力を……強い力を発動し、鈴羽さんを俺の上から退散願うことにした。



「そ、その……鈴羽さん、とりあえず立って話しましょうか」



「え……は、はい……も、申し訳ありません」

 

 ようやく俺の声が届いたようで、鈴羽さんも俺の上から離れる。

 

 ついで、俺は立ち上がり、二人の様子を見る。

 

 ふたりとも特段怪我をしている様子はなかった。

 

 まあ……あれだけ元気……動けるなら当然か。

 

 俺は、ひとますほっとするが、花蓮さんの服装に目がいってしまった。

 

 というのも花蓮さんの服装——拘束された時と同様に和服姿——であったが、彼女の滑らかな両足が大胆に露出されていた。

 

 裾が大きく上げられていて、ミニスカートのような様相を呈している。

 

 そして、裾の隙間からは花蓮さんの艶かしい太腿が——。

 

 と、俺はあわてて視線を下から上に戻す。

 

 が……花蓮さんは俺の視線に気づいてしまったらしい。



 ただ彼女は、俺の不躾な視線を咎めるでもなく、先ほどよりさらに顔を赤くさせて、



「も、申し訳ありません。こんなはしたない姿で……。そ、その……なるべく動きやすい服装にと思いまして……。警備の方には少し眠っていただく必要がありましたので」



 と、令嬢に似つかわしくない物騒なことをさらりと言う。

 

 そして、花蓮さんは咳払いをしながら、



「そ、それはさておきとして……敬三様。本当にお怪我はありませんか?」

 

 と、言う。



「はい。特に大丈夫です」

 

 まあ……撃たれはしたが、一瞬少し痛みが生じた程度で、負傷というものではないしな。



「ご主人様……本当に申し訳ございません!」

 

 と、鈴羽さんが最敬礼に近い角度で突然頭を下げてくる。



「いや……別に鈴羽さんが悪い訳では——」



「いえ……わたしのせいなのです。わたしが麻耶さんをお呼びしたから……それに事前に麻耶さんに——」

 

 先ほどから気になっていたのだが、鈴羽さんの態度は明らかにおかしい。

 

 いや……正確にいえば屋敷の時からおかしいままと言うべきか。

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