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第一章
西条花蓮邸——強行突入1分前——
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正直に言えば俺はいつ襲われても対応できるように既に準備をしていた。
外からの敵意はそれほどまでに高まっていたし、いつ彼らが襲いかかってきてもおかしくない状況だ。
ここまであからさまに敵意を向けられている状況ならば、戦闘は避けられないと判断し、本来——実戦——ならばこちらから先制攻撃をしかけるのが定石だろう。
が……ここには俺だけがいる訳ではない。
花蓮さんや鈴羽さんたちがいるのだ。
今回の事態は詳しい事情は不明だが、確実に俺が原因である。
花蓮さんや鈴羽さんを戦闘に巻き込んで傷つける訳にはいかない……。
相手の戦力は不明だが、こちらの戦力を把握した上で、戦闘に備えている以上、それ相応の準備をしていると考えて間違いないだろう。
……俺は……こらえられるのか……。
相応の実力をもった連中が本気で俺だけではなく、花蓮さんや鈴羽さんに殺意を向けて襲いかかってきた時、はたして俺は不殺などと……。
と、同時に俺の脳裏に決して忘れることができない女性の顔が浮かぶ。
そして、『彼女』は嘲るように俺に向かって言う。
『だから言ったのに。不殺なんて土台無理な話しなのよ。英雄であるあなた……にはね』
こんな時に……。
こちらの世界に戻ってきてから、ようやく『彼女』を……見なくなったのに……。
脳裏に浮かんだ彼女の記憶は抑えがたく俺を過去へと引き戻す。
……抑えろ……まだ相手はこちらに殺意まではむけていないんだ……。
「ふうん……恩人……ね」
麻耶さんは、しばらくの沈黙の後で、俺の方をちらりと見る。
幸いにも俺はなんとか殺気を寸前のところで抑えることができた。
麻耶さんも外の連中にもまだ動きはない。
俺が殺気を放って、周りを刺激していたずらに戦闘の引き金を引くわけにはいかない。
麻耶さんは、ただじっと俺の方を……いや着物の紋様を見て、再び押し黙ってしまう。
麻耶さんの様子をうかがっていた花蓮さんが口を開く。
「わたくしも率直に言わせてもらいますわ。いったい何のために麻耶さんともあろう人がこんな愚かなことをなされるのですか?」
「……愚かなこと……ねえ。これだけの客観的な状況証拠があるにもかかわらず、未だにそのことに気づいてないこと自体、花蓮……あなたやはりおかしいわ。まるで特殊魔法……精神を操作する魔法にかけられているみたい……。そこの二見敬三にね」
麻耶さんはそう言うと、俺をじっと睨みつける。
当然ながらもうそこには偽りの笑顔すらない。
あるのは純粋な敵意だけだ。
花蓮さんの方はと言えば、驚きと戸惑いの表情を浮かべている。
それは俺もまた同じであった。
精神系の操作魔法だと……。
確かに俺はそうした魔法もひと通り習得しているがただ習得しているだけだ。
相手の精神を操作する魔法は余程の能力差がなければそもそも呪文を発動しても、効果自体与えることはできない。
精神操作といってもその種類は多種多様であり、特に相手の意に反するような呪文をかけるのは効果を発するためのハードル——制約——が高いのだ。
これが、対象者が同意しているような魔法——例えば、バフ効果をかける——などならばそうした制約は基本的にはない。
一部の特別な使い手の場合、そうした制約を回避することも可能なのだが……回復魔法すら不完全にしか習得できなかった俺にはその才はない。
だから、俺はこうした相手の意思を無理やり操作する魔法は異世界において一度も使用したことがない。
むろん……こちらの世界に帰還した後も同様だ。
いったい全体何だってこんな無茶な言いがかりをつけてくるのだ……。
俺はさすがに憤りを感じ、麻耶さんの方に視線を向ける……。
と、その時、後ろにいる鈴羽さんが視界に入る。
鈴羽さんもまた花蓮さんと同様にこわばった顔をしていたのだが……。
不意に俺はあることに思いあたり、ギクリとしてしまう……。
先ほどからの……そう俺が回復魔法をかけてからの鈴羽さんのおかしな態度……。
今でも俺は、その原因が自身の回復魔法のせいだとはやはり思えない。
だが……可能性という意味の疑いは俺の中にも残っている。
麻耶さんが抱いている懸念ももしかしたら……。
「いったい何を言っているんですの? 麻耶さん、敬三様への度重なる侮辱……これ以上はわたくしも我慢できなくてよ……。当然説明はして頂けるのでしょうね」
花蓮さんは、言葉こそはいつもどおり上品なままであったが、今にも麻耶さんに飛び掛からんばかりに怒り心頭といった様子である。
花蓮さんのこうした動きにもかかわらず、外の連中に動きはない。
やはり連中のターゲットは専ら俺にあるらしい。
外からの敵意はそれほどまでに高まっていたし、いつ彼らが襲いかかってきてもおかしくない状況だ。
ここまであからさまに敵意を向けられている状況ならば、戦闘は避けられないと判断し、本来——実戦——ならばこちらから先制攻撃をしかけるのが定石だろう。
が……ここには俺だけがいる訳ではない。
花蓮さんや鈴羽さんたちがいるのだ。
今回の事態は詳しい事情は不明だが、確実に俺が原因である。
花蓮さんや鈴羽さんを戦闘に巻き込んで傷つける訳にはいかない……。
相手の戦力は不明だが、こちらの戦力を把握した上で、戦闘に備えている以上、それ相応の準備をしていると考えて間違いないだろう。
……俺は……こらえられるのか……。
相応の実力をもった連中が本気で俺だけではなく、花蓮さんや鈴羽さんに殺意を向けて襲いかかってきた時、はたして俺は不殺などと……。
と、同時に俺の脳裏に決して忘れることができない女性の顔が浮かぶ。
そして、『彼女』は嘲るように俺に向かって言う。
『だから言ったのに。不殺なんて土台無理な話しなのよ。英雄であるあなた……にはね』
こんな時に……。
こちらの世界に戻ってきてから、ようやく『彼女』を……見なくなったのに……。
脳裏に浮かんだ彼女の記憶は抑えがたく俺を過去へと引き戻す。
……抑えろ……まだ相手はこちらに殺意まではむけていないんだ……。
「ふうん……恩人……ね」
麻耶さんは、しばらくの沈黙の後で、俺の方をちらりと見る。
幸いにも俺はなんとか殺気を寸前のところで抑えることができた。
麻耶さんも外の連中にもまだ動きはない。
俺が殺気を放って、周りを刺激していたずらに戦闘の引き金を引くわけにはいかない。
麻耶さんは、ただじっと俺の方を……いや着物の紋様を見て、再び押し黙ってしまう。
麻耶さんの様子をうかがっていた花蓮さんが口を開く。
「わたくしも率直に言わせてもらいますわ。いったい何のために麻耶さんともあろう人がこんな愚かなことをなされるのですか?」
「……愚かなこと……ねえ。これだけの客観的な状況証拠があるにもかかわらず、未だにそのことに気づいてないこと自体、花蓮……あなたやはりおかしいわ。まるで特殊魔法……精神を操作する魔法にかけられているみたい……。そこの二見敬三にね」
麻耶さんはそう言うと、俺をじっと睨みつける。
当然ながらもうそこには偽りの笑顔すらない。
あるのは純粋な敵意だけだ。
花蓮さんの方はと言えば、驚きと戸惑いの表情を浮かべている。
それは俺もまた同じであった。
精神系の操作魔法だと……。
確かに俺はそうした魔法もひと通り習得しているがただ習得しているだけだ。
相手の精神を操作する魔法は余程の能力差がなければそもそも呪文を発動しても、効果自体与えることはできない。
精神操作といってもその種類は多種多様であり、特に相手の意に反するような呪文をかけるのは効果を発するためのハードル——制約——が高いのだ。
これが、対象者が同意しているような魔法——例えば、バフ効果をかける——などならばそうした制約は基本的にはない。
一部の特別な使い手の場合、そうした制約を回避することも可能なのだが……回復魔法すら不完全にしか習得できなかった俺にはその才はない。
だから、俺はこうした相手の意思を無理やり操作する魔法は異世界において一度も使用したことがない。
むろん……こちらの世界に帰還した後も同様だ。
いったい全体何だってこんな無茶な言いがかりをつけてくるのだ……。
俺はさすがに憤りを感じ、麻耶さんの方に視線を向ける……。
と、その時、後ろにいる鈴羽さんが視界に入る。
鈴羽さんもまた花蓮さんと同様にこわばった顔をしていたのだが……。
不意に俺はあることに思いあたり、ギクリとしてしまう……。
先ほどからの……そう俺が回復魔法をかけてからの鈴羽さんのおかしな態度……。
今でも俺は、その原因が自身の回復魔法のせいだとはやはり思えない。
だが……可能性という意味の疑いは俺の中にも残っている。
麻耶さんが抱いている懸念ももしかしたら……。
「いったい何を言っているんですの? 麻耶さん、敬三様への度重なる侮辱……これ以上はわたくしも我慢できなくてよ……。当然説明はして頂けるのでしょうね」
花蓮さんは、言葉こそはいつもどおり上品なままであったが、今にも麻耶さんに飛び掛からんばかりに怒り心頭といった様子である。
花蓮さんのこうした動きにもかかわらず、外の連中に動きはない。
やはり連中のターゲットは専ら俺にあるらしい。
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