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第一章
-07- オッサン、美女の屋敷で風呂に入る
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そういえば、俺は今なんでここにいるんだっけ……。
風呂……というのにはあまりにも広い空間をぼおっと見ながら、俺はそんなことを考えていた。
この風呂場——いや大浴場といってよいだろう——だけで、俺のアパートの部屋……いや下手をすればアパート全ての部屋の延床面積を超えている。
とても一個人の家の風呂とは思えない。
何の情報もない者がこの空間を見れば、間違いなく旅館の……高級旅館の大浴場と判断するだろう。
そういう環境のせいか、どうにも俺の心は非日常的な状態になっている。
手や足を伸ばしてもたっぷりと余裕がある湯船の中で、俺は天井を見上げる。
規則正しく配置された木組みは素人目に見ても、職人的な技巧さを感じることができ、それひとつとって見てもいいようのない高級感が醸し出されていた。
こんな風呂に毎日入れるっていったいどんな気分なんだろうな……。
脳裏に浮かぶ花蓮さんと鈴羽さんの姿。
そう……俺は、ホテルでの一件の後、食事の仕切り直しとして、花蓮さんから自宅へと招かれたのであった……。
ついで、屋敷で豪勢な食事を振る舞われ、たっぷりと堪能した後、花蓮さんに何故か「せっかくだからお風呂にでも入っていってください」と促され、俺は今こうして湯船に浸かっているのだった。
本来ならば断るべきだったのだろうが、先ほどの火災の影響で、俺の体も外見も無惨なまでに汚れている。
一応タオルで顔を拭くなどの最低限のエチケット処理はしたが、焼け石に水であったことは否めない。
見るに見かねた花蓮さんが気をきかせてくれたのかもしれないな……。
それにしても……である。
先ほどの鈴羽さんとの一件——立ち会い——をどう考えればよいのだろうか……。
鈴羽さんの態度から察するに彼女は本気だったのだろう。
だが……その実力は誤解を怖れずに言ってしまえば大分お粗末なものであった。
彼女の動きも、彼女が使用しているスキルもせいぜいが初心者からようやく抜け出したレベルのものであった。
とてもA級冒険者のそれではない……。
異世界基準で考えるのならば、E級……せいぜいD級冒険者だろう。
それに彼女が身につけていたブレスレットもまた解せない。
いわゆる呪い装備の一種の一つである『炎龍のブレスレット』……。
その効力は、装備者に炎ダメージを継続的に与える代わりに、装備者の攻撃に炎ダメージを付加するというもの。
だが、そもそもこのブレスレットをあえて装備する者はほとんどいない。
呪い装備全てが実用に値しないという訳ではない。
中には、メリットがデメリットを大きく上回る呪い装備もあり、そうした装備品は呪いというハンデにもかかわらず重宝されていた。
が……『炎龍のブレスレット』はそうではない。
まずもってメリットがたいした効果ではない。
攻撃に炎ダメージを付加することは補助魔法で可能だし、その習得も比較的容易い。
要は、あえて呪い……デメリット……を引き受けてまで、装備する利点はないのだ。
さらに言ってしまえば、『炎龍のブレスレット』の呪いは、ある程度の術者ならば解呪も可能であり、現に魔法全般が得意ではない俺でも解呪することはできた……。
そういう訳で、解呪前の『炎龍のブレスレット』をあえて装備するというのは通常考えられない選択肢なのだ。
俺はため息をつき、視線を元に戻し、湯で白くもやついている宙を見る。
まるで今の俺の頭の中のように視界は不鮮明だ。
異世界とほとんど同じスキル、魔法体系、装備、モンスター、素材……。
俺はそこから異世界とこちらの世界の事柄はおおよそ共通しているものと知らず知らずの内に仮定していた。
だが、異世界とこの世界には異なる点もある。
少なくともこの国のダンジョンは低ランクのものばかりだし、動画配信なんてものも異世界には当然なかった。
俺がまだ知らないだけでこの世界と異世界には明確に違うことがあるのではないだろうか……。
例えば、こちらの世界ではスキルや魔法を習得する際に、異世界と違い何らかの制約を受けるとか……。
それならば鈴羽さんの実力が、A級冒険者として不自然に低いのも、「炎龍のブレスレット」を身につけていたのも一応説明はつく。
俺もいいかげんにこの世界のダンジョン関連の事柄について、しっかりと調べなければならない時期にきているのかもしれないな……。
いやまあ……実のところ俺もネットで色々と調べようとした。
が……いかんせん25年前と今のインターネットを取り巻く状況が違いすぎて、それだけで消耗してしまった。
こう見えて俺は98年当時はオタクとして、時代の最先端をいっていたと自負していたのだが……。
パソコン通信で今まで決してつながることのなかった日本中……いや世界中のオタク連中とPC上で自分の好きな作品についてチャットで語り合った時には感動して心が震えたものだった。
決して安くない機材を安い給料でなんとか取り揃えて、インターネット環境を構築し、激務の中でも最先端の知識を得ようと日々ネット関連の情報を漁っていたんだがなあ……。
25年後にまさかここまで進化するとはな。
実のところ異世界帰りの俺としては、ダンジョンが出現していることよりも、インターネット関連のこうした進化の方が衝撃的である。
いずれこうなるとは聞いていたが……実際目のあたりにするとなあ……。
いや……昔に想いをはせている場合ではない。
今は現実に対処しなければならない。
そうダンジョン関連の情報をいかに収集するかである。
まあ……普通に考えればやはりネットを駆使するのが一番効率的なのだろうが……。
風呂……というのにはあまりにも広い空間をぼおっと見ながら、俺はそんなことを考えていた。
この風呂場——いや大浴場といってよいだろう——だけで、俺のアパートの部屋……いや下手をすればアパート全ての部屋の延床面積を超えている。
とても一個人の家の風呂とは思えない。
何の情報もない者がこの空間を見れば、間違いなく旅館の……高級旅館の大浴場と判断するだろう。
そういう環境のせいか、どうにも俺の心は非日常的な状態になっている。
手や足を伸ばしてもたっぷりと余裕がある湯船の中で、俺は天井を見上げる。
規則正しく配置された木組みは素人目に見ても、職人的な技巧さを感じることができ、それひとつとって見てもいいようのない高級感が醸し出されていた。
こんな風呂に毎日入れるっていったいどんな気分なんだろうな……。
脳裏に浮かぶ花蓮さんと鈴羽さんの姿。
そう……俺は、ホテルでの一件の後、食事の仕切り直しとして、花蓮さんから自宅へと招かれたのであった……。
ついで、屋敷で豪勢な食事を振る舞われ、たっぷりと堪能した後、花蓮さんに何故か「せっかくだからお風呂にでも入っていってください」と促され、俺は今こうして湯船に浸かっているのだった。
本来ならば断るべきだったのだろうが、先ほどの火災の影響で、俺の体も外見も無惨なまでに汚れている。
一応タオルで顔を拭くなどの最低限のエチケット処理はしたが、焼け石に水であったことは否めない。
見るに見かねた花蓮さんが気をきかせてくれたのかもしれないな……。
それにしても……である。
先ほどの鈴羽さんとの一件——立ち会い——をどう考えればよいのだろうか……。
鈴羽さんの態度から察するに彼女は本気だったのだろう。
だが……その実力は誤解を怖れずに言ってしまえば大分お粗末なものであった。
彼女の動きも、彼女が使用しているスキルもせいぜいが初心者からようやく抜け出したレベルのものであった。
とてもA級冒険者のそれではない……。
異世界基準で考えるのならば、E級……せいぜいD級冒険者だろう。
それに彼女が身につけていたブレスレットもまた解せない。
いわゆる呪い装備の一種の一つである『炎龍のブレスレット』……。
その効力は、装備者に炎ダメージを継続的に与える代わりに、装備者の攻撃に炎ダメージを付加するというもの。
だが、そもそもこのブレスレットをあえて装備する者はほとんどいない。
呪い装備全てが実用に値しないという訳ではない。
中には、メリットがデメリットを大きく上回る呪い装備もあり、そうした装備品は呪いというハンデにもかかわらず重宝されていた。
が……『炎龍のブレスレット』はそうではない。
まずもってメリットがたいした効果ではない。
攻撃に炎ダメージを付加することは補助魔法で可能だし、その習得も比較的容易い。
要は、あえて呪い……デメリット……を引き受けてまで、装備する利点はないのだ。
さらに言ってしまえば、『炎龍のブレスレット』の呪いは、ある程度の術者ならば解呪も可能であり、現に魔法全般が得意ではない俺でも解呪することはできた……。
そういう訳で、解呪前の『炎龍のブレスレット』をあえて装備するというのは通常考えられない選択肢なのだ。
俺はため息をつき、視線を元に戻し、湯で白くもやついている宙を見る。
まるで今の俺の頭の中のように視界は不鮮明だ。
異世界とほとんど同じスキル、魔法体系、装備、モンスター、素材……。
俺はそこから異世界とこちらの世界の事柄はおおよそ共通しているものと知らず知らずの内に仮定していた。
だが、異世界とこの世界には異なる点もある。
少なくともこの国のダンジョンは低ランクのものばかりだし、動画配信なんてものも異世界には当然なかった。
俺がまだ知らないだけでこの世界と異世界には明確に違うことがあるのではないだろうか……。
例えば、こちらの世界ではスキルや魔法を習得する際に、異世界と違い何らかの制約を受けるとか……。
それならば鈴羽さんの実力が、A級冒険者として不自然に低いのも、「炎龍のブレスレット」を身につけていたのも一応説明はつく。
俺もいいかげんにこの世界のダンジョン関連の事柄について、しっかりと調べなければならない時期にきているのかもしれないな……。
いやまあ……実のところ俺もネットで色々と調べようとした。
が……いかんせん25年前と今のインターネットを取り巻く状況が違いすぎて、それだけで消耗してしまった。
こう見えて俺は98年当時はオタクとして、時代の最先端をいっていたと自負していたのだが……。
パソコン通信で今まで決してつながることのなかった日本中……いや世界中のオタク連中とPC上で自分の好きな作品についてチャットで語り合った時には感動して心が震えたものだった。
決して安くない機材を安い給料でなんとか取り揃えて、インターネット環境を構築し、激務の中でも最先端の知識を得ようと日々ネット関連の情報を漁っていたんだがなあ……。
25年後にまさかここまで進化するとはな。
実のところ異世界帰りの俺としては、ダンジョンが出現していることよりも、インターネット関連のこうした進化の方が衝撃的である。
いずれこうなるとは聞いていたが……実際目のあたりにするとなあ……。
いや……昔に想いをはせている場合ではない。
今は現実に対処しなければならない。
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まあ……普通に考えればやはりネットを駆使するのが一番効率的なのだろうが……。
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