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第一章
鈴羽サイド-09-
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鈴羽は自分の目が幻を見ていると思いたかったが、いつまで経っても彼女の視界は変わることはなかった。
二見は、のっそりとした動きで、こちらの方に近づいてくる。
鈴羽は、必死に体を動かそうとするが、もはや体をよじらせるのが精々であった。
二見は、倒れている鈴羽の目の前までやってきて、彼女を見下ろす。
く……こ、ここまでか……。
万事休す……鈴羽は体を蝕む炎の痛みとともに自身の運命を覚悟した。
「……鈴羽さん……気づかずに悪い……何か事情があるんだよね」
二見はそうつぶやくと、かがみ込み、鈴羽の腕……ブレスレットを見る。
そして、ブレスレットに手を触れて——
こ、こいつ……ブレスレットを奪う気か……。
「うぐ……や、やめろ……」
鈴羽は必死に抵抗するが、まったく力が入らない以上、無駄であった。
二見は鈴羽の腕を取り、
「これ……炎の被ダメージがあるやつか。でも解呪自体は簡単だから……」
何やらブツブツと言っている。
やがて、二見は、
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してください」
と、いうとブレスレットに何やら力を込める。
……う、腕ごとブレスレットを取るつもりか……
鈴羽は、自身の腕が引きちぎられる様子を脳裏に思い浮かべて戦慄する。
が……しかし、二見はただブレスレットに手を置いて、意識を集中しているだけだった。
やがて……製鉄する際に生じるような赤い光がブレスレット全体を包み込む。
ついで鈴羽の腕に強烈な痛みが走る。
「う……あああ!!!」
だが、痛みは一時のことであり、腕の痛みはすぐに治まった。
同時に……鈴羽をあれだけ苦しめていた全身を焼く痛みも嘘のように消え去っていた。
「これで……ブレスレットから生じる痛みはなくなったはずだけど……」
二見は、そう心配そうな目でこちらを見る。
「な、何をしたんだ……いや……何故わたしに……うう!!」
不可思議な行動を取る二見に言葉を投げかける鈴羽だったが、言い終わる前にその口はもつれてしまった。
体中から生じる痛みが鈴羽を再び襲った。
が……それは先ほどの痛みとは質が異なっていた。
皮膚を鈍く、骨まで深く刺すかのような痛み……それは鈴羽にとっては馴染み深いものだった。
ブレスレットから生じていた痛みは確かに消えたのだろう。
だが、ブレスレットが体中に既に負わせた火傷まで治すものではない。
二見は、鈴羽のうめき声に顔を曇らせて、
「すまない……緊急事態だから……勘弁してください」
と言うと、鈴羽のブラウスを脱がす。
「……や、やめろ……」
鈴羽は、そう力ないうめき声を漏らすのが精一杯であった。
その目論見は皆目検討がつかないが、二見が自分のことを傷つける意図がないことは、既に鈴羽も気づいていた。
だが……それでも他人……ましてや男の前で肌を晒すのには抵抗があった。
鈴羽も女性であるから、見ず知らずの男に不必要に肌を見られたくないという気持ちがあるのは当然である。
だが、彼女が自身の肌を晒したくないという思いはそれ以上の切実な理由があった。
今の……いや大分前から鈴羽の肌はとても人前に見せられる状態ではないからだ。
ましてや、憎き敵である二見に自身の肌を無防備に晒すことは鈴羽にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
二見は露わになった鈴羽の素肌を見て、顔色を変える。
「これは……」
酷いな……という言葉を口にしなかっただけ、この男は意外と紳士的なのかもしれないな……。
鈴羽は思わずそんなことを頭に浮かべていた。
彼女の予想とは異なり、二見は鈴羽のソレを見ても、軽蔑や蔑視……憐れみといった表情を浮かべなかった。
鈴羽の現在の皮膚の大半は酷い火傷状態になっているのにも関わらず……。
それは見る者からすれば、思わず目をそらしたくなるような光景だろう。
鈴羽にしてもそうなのだから。
彼女の皮膚にはおびただしい数の火傷の後遺症たるケロイドが腕を中心にして、体中に広がっている。
もっとも、この傷は今回のことだけが理由だけではない。
鈴羽は過去にも一度だけだが、『炎龍のブレスレット』を使用したことがある。
相手は今回のような抜き差しならぬ敵であり、鈴羽もまた若く未熟であった。
今回と違うのは鈴羽は、前回は、代償を支払うことによりその窮地を切り抜けたことだ。
今回以上に非常に短時間の使用であったが、それでもブレスレットの効果は鈴羽の全身を重度の火傷状態にさせるには十分であった。
鈴羽が肌の露出を控えた姿をしているのは、このような事情が大きいのである。
二見は押し黙ったままだった。
朦朧とした意識の中でそれでも鈴羽は、この男がいったい何を考えているのかが気になっていた。
二見はいったい何の目的があって自分の体をあらためているのか。
それが鈴羽には大きな疑問であった。
止めをさすでもない、ブレスレットを奪う訳でもない。
かといって敗者を嘲るような嗜虐心もまたこの男から感じることはできない。
やがて、二見はポツリと困った顔を浮かべながら言う。
「あの……鈴羽さん。花蓮さんから……その……自分の回復魔法のことは聞いているかな?」
斜め上を行く二見の問いかけに鈴羽はまるで答えられなかった。
「な、なにを……言って……」
だがしかし、鈴羽の戸惑いの表情は、二見にすれば回答になっていたらしい。
「そ、そっか……聞いていないのか……」
二見は何故かやや落ち込んだ顔を浮かべると、
「いやまあ……でもこの傷を見て見ぬふりはできないな……その……すまない!」
と、言い、突然鈴羽の体を抱きかかえる。
二見は、のっそりとした動きで、こちらの方に近づいてくる。
鈴羽は、必死に体を動かそうとするが、もはや体をよじらせるのが精々であった。
二見は、倒れている鈴羽の目の前までやってきて、彼女を見下ろす。
く……こ、ここまでか……。
万事休す……鈴羽は体を蝕む炎の痛みとともに自身の運命を覚悟した。
「……鈴羽さん……気づかずに悪い……何か事情があるんだよね」
二見はそうつぶやくと、かがみ込み、鈴羽の腕……ブレスレットを見る。
そして、ブレスレットに手を触れて——
こ、こいつ……ブレスレットを奪う気か……。
「うぐ……や、やめろ……」
鈴羽は必死に抵抗するが、まったく力が入らない以上、無駄であった。
二見は鈴羽の腕を取り、
「これ……炎の被ダメージがあるやつか。でも解呪自体は簡単だから……」
何やらブツブツと言っている。
やがて、二見は、
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してください」
と、いうとブレスレットに何やら力を込める。
……う、腕ごとブレスレットを取るつもりか……
鈴羽は、自身の腕が引きちぎられる様子を脳裏に思い浮かべて戦慄する。
が……しかし、二見はただブレスレットに手を置いて、意識を集中しているだけだった。
やがて……製鉄する際に生じるような赤い光がブレスレット全体を包み込む。
ついで鈴羽の腕に強烈な痛みが走る。
「う……あああ!!!」
だが、痛みは一時のことであり、腕の痛みはすぐに治まった。
同時に……鈴羽をあれだけ苦しめていた全身を焼く痛みも嘘のように消え去っていた。
「これで……ブレスレットから生じる痛みはなくなったはずだけど……」
二見は、そう心配そうな目でこちらを見る。
「な、何をしたんだ……いや……何故わたしに……うう!!」
不可思議な行動を取る二見に言葉を投げかける鈴羽だったが、言い終わる前にその口はもつれてしまった。
体中から生じる痛みが鈴羽を再び襲った。
が……それは先ほどの痛みとは質が異なっていた。
皮膚を鈍く、骨まで深く刺すかのような痛み……それは鈴羽にとっては馴染み深いものだった。
ブレスレットから生じていた痛みは確かに消えたのだろう。
だが、ブレスレットが体中に既に負わせた火傷まで治すものではない。
二見は、鈴羽のうめき声に顔を曇らせて、
「すまない……緊急事態だから……勘弁してください」
と言うと、鈴羽のブラウスを脱がす。
「……や、やめろ……」
鈴羽は、そう力ないうめき声を漏らすのが精一杯であった。
その目論見は皆目検討がつかないが、二見が自分のことを傷つける意図がないことは、既に鈴羽も気づいていた。
だが……それでも他人……ましてや男の前で肌を晒すのには抵抗があった。
鈴羽も女性であるから、見ず知らずの男に不必要に肌を見られたくないという気持ちがあるのは当然である。
だが、彼女が自身の肌を晒したくないという思いはそれ以上の切実な理由があった。
今の……いや大分前から鈴羽の肌はとても人前に見せられる状態ではないからだ。
ましてや、憎き敵である二見に自身の肌を無防備に晒すことは鈴羽にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
二見は露わになった鈴羽の素肌を見て、顔色を変える。
「これは……」
酷いな……という言葉を口にしなかっただけ、この男は意外と紳士的なのかもしれないな……。
鈴羽は思わずそんなことを頭に浮かべていた。
彼女の予想とは異なり、二見は鈴羽のソレを見ても、軽蔑や蔑視……憐れみといった表情を浮かべなかった。
鈴羽の現在の皮膚の大半は酷い火傷状態になっているのにも関わらず……。
それは見る者からすれば、思わず目をそらしたくなるような光景だろう。
鈴羽にしてもそうなのだから。
彼女の皮膚にはおびただしい数の火傷の後遺症たるケロイドが腕を中心にして、体中に広がっている。
もっとも、この傷は今回のことだけが理由だけではない。
鈴羽は過去にも一度だけだが、『炎龍のブレスレット』を使用したことがある。
相手は今回のような抜き差しならぬ敵であり、鈴羽もまた若く未熟であった。
今回と違うのは鈴羽は、前回は、代償を支払うことによりその窮地を切り抜けたことだ。
今回以上に非常に短時間の使用であったが、それでもブレスレットの効果は鈴羽の全身を重度の火傷状態にさせるには十分であった。
鈴羽が肌の露出を控えた姿をしているのは、このような事情が大きいのである。
二見は押し黙ったままだった。
朦朧とした意識の中でそれでも鈴羽は、この男がいったい何を考えているのかが気になっていた。
二見はいったい何の目的があって自分の体をあらためているのか。
それが鈴羽には大きな疑問であった。
止めをさすでもない、ブレスレットを奪う訳でもない。
かといって敗者を嘲るような嗜虐心もまたこの男から感じることはできない。
やがて、二見はポツリと困った顔を浮かべながら言う。
「あの……鈴羽さん。花蓮さんから……その……自分の回復魔法のことは聞いているかな?」
斜め上を行く二見の問いかけに鈴羽はまるで答えられなかった。
「な、なにを……言って……」
だがしかし、鈴羽の戸惑いの表情は、二見にすれば回答になっていたらしい。
「そ、そっか……聞いていないのか……」
二見は何故かやや落ち込んだ顔を浮かべると、
「いやまあ……でもこの傷を見て見ぬふりはできないな……その……すまない!」
と、言い、突然鈴羽の体を抱きかかえる。
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