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プロローグ
美月サイド-01-
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美月は、ドローンを手にして、そのカメラを見る。
そこには、髪が乱れ、ところどころ額や頬に血が付いている自身の顔が無機質に映し出されていた。
だが今はそんなことに構っている場合ではない。
美月は、痛む全身にムチをうち、画面に顔を近づけて、自身の悲痛な想いを絞り出すように言う。
「……わたしは、『ダンジョンの支配者たち』のリーダーの二条院美月です。これを見ている世界中の冒険者のみなさまどうか聞いてください……。ダンジョンの最下層はまだ人類には早すぎます……わたしたちは自分たちの力をおごった結果、この有様です。これが他の冒険者の皆様のどうか教訓になるように……わたしたちはここまでです」
美月は、言うべきことは言ったと半ば放心状態のまま、ドローンを投げ捨てる。
虚ろな目の先には巨大なモンスターが無表情のままそびえ立っている。
そのモンスターの足元には、『癒やしの織姫』こと西条花蓮が、見るも無惨な姿で横たわっている。
スポンサーの意向で女性らしい趣向が加えられた防具品は今やボロボロに変わり果てて、花蓮の肌が露わになってしまっている。
そして、その肌も傷だらけで、普段の花蓮の美しさを知っている美月としては、同性として見るに耐えずに思わず顔を背けてしまう。
こんな状況であっても、花蓮の命がまだつながっていることを祈りたかった。
が……眼前の状況はわずかな希望すら美月に与えないないほどに絶望的であった。
滅多なことでは諦めない美月も今やその闘志の炎はかすみ、もはや抵抗する意思もつきていた。
ただ美月の心に去来するのは、後悔だけであった。
自分のおごり故に仲間を巻き込んで無謀な挑戦をさせてしまった。
自分と花蓮を見捨てて逃げ出した龍太に対する怒りはまだ残っていたが、それよりも自分の見通しの甘さを攻める気持ちの方が強かった。
モンスターが美月の方を見る。
その表情がつかめない無機質で巨大な岩の顔が何を考えているかはわからない。
ただ、美月は自身の終わりを確信した。
……ごめんなさい……花蓮さん……。
美月は涙を流しながら、最後の瞬間をただ呆然と立ち尽くして待つのみであった。
モンスターはその胴体とほぼ同一になっている巨大な手をゆっくりと振り上げる。
美月は空っぽな瞳を虚空に向けてその時を待っていた。
巨大なモンスターが大きく動いた。
美月はこの後自分の身体を襲うであろう衝撃に身体をこわばらせる。
が……モンスターが動いたのは美月の方向ではなかった。
モンスターは、前ではなく後ろに……そうまるで後退りをするように大きく動いていた。
その奇妙な動きに諦めかけていた美月の心がわずかに躍動する。
いったい……何が……。
そう思った時に、美月の後ろから人の声が聞こえた。
「やれやれ……間に合ったか……」
ダンジョン協会の救援が来てくれたの!? でもこんな短時間で!?
聞こえるはずのない第三者の声に、美月の脳裏には様々なハテナマークが飛び交っていた。
驚きながら振り返った先に美月の視界に映った人影。
それは美月の頭をさらに混乱させる風景であった。
そこにいたのは一人……そうパーティーではなくたった一人の冒険者だった。
この最下層にたった一人でいること自体、あり得ないことであったが、その冒険者の外見を見て、美月はさらに驚き、同時にわずかに宿っていた希望が消え失せてしまった。
美月はこの冒険者に見覚えがあった。
それはつい数時間前に、彼女が助けた初心者の中年の男性だったのだ。
「な、なぜ……ここにいるんですか! せっかく『帰還の羽根』を渡したのに!」
美月は自身の心に湧き上がった失望を抑えきれずに、ついつい批判めいた口調になってしまっていた。
協会が送り込んだ数十人の精鋭部隊が相手ならもしかしたら勝てないまでも、逃げることはできたかもしれない。
だが、彼女の前に現れたのはたった一人……しかも初心者のF級冒険者である。
これでは万に一つも生還の道はない。
先ほどと同じ絶望的な状況のままだ。
男は美月の言葉を意に返さずにヘラヘラとした顔を浮かべている。
この人……今の状況をわかっているの……。
美月は極限状態であることも忘れて、緩みきった顔を浮かべている男を前にして苛立ちを抑えられなかった。
が……すぐに考えを改める。
眼の前の人間は初心者の冒険者なのだ。
最下層のモンスターのあまりにも圧倒的な姿を前にして、動揺し、正気を失ってしまっているのかもしれない。
覚悟をして挑んだ自分だって心が折れかかかって……いやさっきまでもう現に折れて、生還を諦めていたのだ。
「このモンスターはわたしたちがなんとかしますからあなたは逃げてください」
美月は失いかけていたS級冒険者『ダンジョンの支配者たち』のリーダーとしての矜持を見せて、自身の怯えと恐怖を隠しながら、努めて凛々しく言う。
しかし男は美月の言っていることが理解できないのか、バツが悪そうな顔を浮かべて、
「いや……もとはといえば自分が撒いた種だしね……」
と訳の分からないことを言っている。
そこには、髪が乱れ、ところどころ額や頬に血が付いている自身の顔が無機質に映し出されていた。
だが今はそんなことに構っている場合ではない。
美月は、痛む全身にムチをうち、画面に顔を近づけて、自身の悲痛な想いを絞り出すように言う。
「……わたしは、『ダンジョンの支配者たち』のリーダーの二条院美月です。これを見ている世界中の冒険者のみなさまどうか聞いてください……。ダンジョンの最下層はまだ人類には早すぎます……わたしたちは自分たちの力をおごった結果、この有様です。これが他の冒険者の皆様のどうか教訓になるように……わたしたちはここまでです」
美月は、言うべきことは言ったと半ば放心状態のまま、ドローンを投げ捨てる。
虚ろな目の先には巨大なモンスターが無表情のままそびえ立っている。
そのモンスターの足元には、『癒やしの織姫』こと西条花蓮が、見るも無惨な姿で横たわっている。
スポンサーの意向で女性らしい趣向が加えられた防具品は今やボロボロに変わり果てて、花蓮の肌が露わになってしまっている。
そして、その肌も傷だらけで、普段の花蓮の美しさを知っている美月としては、同性として見るに耐えずに思わず顔を背けてしまう。
こんな状況であっても、花蓮の命がまだつながっていることを祈りたかった。
が……眼前の状況はわずかな希望すら美月に与えないないほどに絶望的であった。
滅多なことでは諦めない美月も今やその闘志の炎はかすみ、もはや抵抗する意思もつきていた。
ただ美月の心に去来するのは、後悔だけであった。
自分のおごり故に仲間を巻き込んで無謀な挑戦をさせてしまった。
自分と花蓮を見捨てて逃げ出した龍太に対する怒りはまだ残っていたが、それよりも自分の見通しの甘さを攻める気持ちの方が強かった。
モンスターが美月の方を見る。
その表情がつかめない無機質で巨大な岩の顔が何を考えているかはわからない。
ただ、美月は自身の終わりを確信した。
……ごめんなさい……花蓮さん……。
美月は涙を流しながら、最後の瞬間をただ呆然と立ち尽くして待つのみであった。
モンスターはその胴体とほぼ同一になっている巨大な手をゆっくりと振り上げる。
美月は空っぽな瞳を虚空に向けてその時を待っていた。
巨大なモンスターが大きく動いた。
美月はこの後自分の身体を襲うであろう衝撃に身体をこわばらせる。
が……モンスターが動いたのは美月の方向ではなかった。
モンスターは、前ではなく後ろに……そうまるで後退りをするように大きく動いていた。
その奇妙な動きに諦めかけていた美月の心がわずかに躍動する。
いったい……何が……。
そう思った時に、美月の後ろから人の声が聞こえた。
「やれやれ……間に合ったか……」
ダンジョン協会の救援が来てくれたの!? でもこんな短時間で!?
聞こえるはずのない第三者の声に、美月の脳裏には様々なハテナマークが飛び交っていた。
驚きながら振り返った先に美月の視界に映った人影。
それは美月の頭をさらに混乱させる風景であった。
そこにいたのは一人……そうパーティーではなくたった一人の冒険者だった。
この最下層にたった一人でいること自体、あり得ないことであったが、その冒険者の外見を見て、美月はさらに驚き、同時にわずかに宿っていた希望が消え失せてしまった。
美月はこの冒険者に見覚えがあった。
それはつい数時間前に、彼女が助けた初心者の中年の男性だったのだ。
「な、なぜ……ここにいるんですか! せっかく『帰還の羽根』を渡したのに!」
美月は自身の心に湧き上がった失望を抑えきれずに、ついつい批判めいた口調になってしまっていた。
協会が送り込んだ数十人の精鋭部隊が相手ならもしかしたら勝てないまでも、逃げることはできたかもしれない。
だが、彼女の前に現れたのはたった一人……しかも初心者のF級冒険者である。
これでは万に一つも生還の道はない。
先ほどと同じ絶望的な状況のままだ。
男は美月の言葉を意に返さずにヘラヘラとした顔を浮かべている。
この人……今の状況をわかっているの……。
美月は極限状態であることも忘れて、緩みきった顔を浮かべている男を前にして苛立ちを抑えられなかった。
が……すぐに考えを改める。
眼の前の人間は初心者の冒険者なのだ。
最下層のモンスターのあまりにも圧倒的な姿を前にして、動揺し、正気を失ってしまっているのかもしれない。
覚悟をして挑んだ自分だって心が折れかかかって……いやさっきまでもう現に折れて、生還を諦めていたのだ。
「このモンスターはわたしたちがなんとかしますからあなたは逃げてください」
美月は失いかけていたS級冒険者『ダンジョンの支配者たち』のリーダーとしての矜持を見せて、自身の怯えと恐怖を隠しながら、努めて凛々しく言う。
しかし男は美月の言っていることが理解できないのか、バツが悪そうな顔を浮かべて、
「いや……もとはといえば自分が撒いた種だしね……」
と訳の分からないことを言っている。
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