俺が人間になれるまで

しの

文字の大きさ
上 下
1 / 8

過呼吸

しおりを挟む
俺は葛木陽太。
高校三年生の18歳でA型。特に飛び抜けた個性がある訳でもないし、かと言って飛び抜けて悪いところもない。と今まではそう思って生きてきた。
それがいつからだろうか、徐々に傾いてきたのは。

その日は朝から少し調子が悪かった。
いつもなら軽く受け流せる弄りも、その日はどうにも受け流せなかった。なぜか頬を伝う熱いものを誤魔化しつつ、なんとか午前中は耐えた。

お昼になると、いつものグループが昼食を持って集まってきてくれた。受験生だから話題はやはり、勉強のことになる。
「陽太は勉強どう?」
三年からの友達の山田が話を振ってくれた。特に含みがあった訳でもない、いつもの雰囲気で。でもなぜか俺はすぐ答えられなかった。どうしても言葉が出てこない。
「俺か~。勉強、ね、勉強。」
かろうじて口角を上げるも涙声になる。流石におかしいって思われる…!何か答えないと。そう思うがどうしても言葉が出てこない。
「大丈夫?」
黒川が横からそう訊ねる。
「ごめん!ちょっとトイレ行ってくる!」
みんなに情けないところを見せられない、その一心でこの場から抜けた。高三の男がみんなの前で泣くなんて恥ずかしい。でもなんで涙がでるかわからない。ほとんどパニックだった。



「ごめん!ちょっとトイレ行ってくる!」
陽太は明らかな涙声でそう告げ、走って教室から出ていった。
「大丈夫かな。」
いつも笑顔のイメージの陽太からはかけ離れた姿でみんな混乱してる。特に黒川は他のみんなより陽太と特別一緒にいるからか、一層驚いてる。
「あんなとこ見たことないから、心配だね。黒川見に行ってくれるか?」
メガネの伊藤。ナイスアシスト。多分陽太、俺らにあんまり心開いてないからなー。

「ヒュー、ヒュー。」
トイレまで辿り着けたものの、どうしようも息が苦しくなって過呼吸になってしまった。いつもは息を止めれば大体治るのに、どうも治る気配がない。
早く止めないと、誰かくる…!そう思ってどうにか呼吸を戻そうと意識するがどうにもならない。
どうしよう、どうしよう…そう思っているとガチャリと扉が開いた。

「葛木、いる?」
黒川の声だ。とめなきゃ、気持ち悪いって、面倒だって思われる…!!
心とは裏腹にどんどん早くなっていく呼吸。もう、自分で止めることは無理だった。

「葛木?葛木!!大丈夫?鍵開けられる?」
心配そうな声が聞こえる。いつも冷静な黒川だから、こんなに焦るのって珍しいな、なんて思いながら意識を手放した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

未来の貴方にさよならの花束を

まったりさん
青春
小夜曲ユキ、そんな名前の女の子が誠のもとに現れた。 友人を作りたくなかった誠は彼女のことを邪険に扱うが、小夜曲ユキはそんなこと構うものかと誠の傍に寄り添って来る。 小夜曲ユキには誠に関わらなければならない「理由」があった。 小夜曲ユキが誠に関わる、その理由とは――!? この出会いは、偶然ではなく必然で―― ――桜が織りなす、さよならの物語。 貴方に、さよならの言葉を――

(完)そんなに妹が大事なの?と彼に言おうとしたら・・・

青空一夏
恋愛
デートのたびに、病弱な妹を優先する彼に文句を言おうとしたけれど・・・

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...