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第十三話

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「いらっしゃい」

「お邪魔します、看板を見て気になって来ました」

 怪しげな店に入ると中にはマントと帽子を身に着けた、ミステリアスな風貌の老婆がいた

 座るように促された俺達は手前に用意された二つの椅子に座る


「お若いねぇ、カップルかい?」

「違います。私と先輩は結婚を前提に交際をしているカップルです。普通のカップルと一緒にするなんて言語道断です」

「そ、そうかい……随分と情熱的な子なんだねぇ」

「まあ、ははっ、……白、一々細かい所まで言わなくていいから」

「いいえ……この事実は絶対なんですから、勘違いされたら困ります。しっかり訂正しないと」

 うわー、白のめんどくさい所が出てきたよ

 白って俺が絡むことに対しては良くも悪くも、一切妥協しないんだよなぁ……

 でも、こんな時に必ず成功する対処法がある


 それは――

「んっ、……頭、撫でてくれてる……あっ、……ふふっ、先輩の手……気持ちいい……んっ、……んぁ……、幸せぇ……」

「そのことは俺たち二人が認識していればいいだろ?」

「あっ、あっ、そこっ、……い、いいっ、……もっと、してぇ……」

「おい、聞いているのか?」

「は、はいぃ……聞いていますよ……」

「そうか」

「あ……、もう終わっちゃった」

「随分見せつけてくれるねぇ……そんなに仲がいいなら、かなり長い間付き合っているのかい?」

「いえ、先輩と付き合ったのは最近ですよ……愛の大きさは時間で決まるものではないのです」

「いいことを言うねぇ……それで、どっちから告白したんだい?」

「私です」

「おや、お嬢さんから告白したのかい……坊やは見た目に寄らず、奥手なんだねぇ」

「そうなんです!いまだに私、先輩から体を求められたことないんですから!」

 なんか、このままいったら話が変な方に脱線しそうだな


「……話はこれくらいにして、早速占ってもらえませんか?」

「いいよ、じゃあまず二人の年齢と誕生日を教えてごらん」

「年は十六歳で誕生日は九月三日です」

「私は十五歳で誕生日は四月二十日です」


 へー、白の誕生日って四月二十日だったんだ……四月二十日――って、

「白って今日が誕生日だったのか!?」

「ええ、まあ」

「すまん、俺、誕生日のこと知らずに、何も用意出来てなくて……」

「別にいいですよ、誕生日を祝ってもらえた経験なんてほとんどありませんから」

 だったら尚更、俺が誕生日を祝うことの重要性と楽しさを白に伝えるべきだったんだろ……


「プレゼントは用意出来ていないが、その分も今日はとことん楽しませてやるから……あと、何か気に入った物があったらプレゼントさせてくれ」

「そもそも言ってなかった私に問題があるのに……もう、そんなに気にするなんて……先輩は、どれだけ私のことが好きなんですか?」

「ああ、一番好きに決まっているだろ」

「も、もう……先輩ったら……」

「言わせておいて照れるなよ」

「だ、だってぇ……」

「こほんっ、……それでは、占いを始めるよ」

「「お願いします」」

 老婆は手前の水晶を撫でまわすようにして占っている

 そして、しばらくしてから口を開き始めた


「二人の縁は……互いを理解し合える相性のいい関係……」

「やっぱり先輩と私は相性抜群でしたねっ、」

「ああ……みたいだな」

「他にも、自然体でいられる……、本当に家族のような関係が築けるとも出ているね、あとは……恋愛の延長線上に結婚があると捉えている。交友関係はどちらかというと狭く、大切な人と深い関係を構築しようとする二人は、遊びの恋愛として付き合う事はないから、不安を感じることはない……」

「凄い……っ、凄いですよ先輩っ、この人……いや、この先生の言うことは正しいですよ!」

「そうか?さっきの会話を参考にして、それっぽいことを言っているだけにも思えるが……」

「結婚してからも、愛する伴侶を一途に想い続け、温かな家庭をつくる事ができる……だけど……」

「何ですか?先生」

「お嬢さん、貴女の後ろに巨大な影が迫っている……」

「巨大な……影?」

「そう、とても大きく根本的な……お嬢さんと関係の深い、逃れられない闇……」

「私と関係の深い根本的な闇……」

「でも……心配は要らない、そこの坊やが必ず貴女を守ってくれるのだから……」

 白に何か大きな危険が迫っていて、そこから白を助けるのは俺……

 半信半疑な話だが一応警戒しておくか


「先輩……」

「不安がるなよ、例えその話が本当でも俺が白を守るから大丈夫だ」

「頼りにしてます……先輩っ、」

「ああ、任せろ」

「占いはこれで終わりだけど……お二人さん、パワーアイテムに興味あるかい?こういうのなんだけど……」

 老婆はテーブルの上に石や数珠などの如何にもな商品を置いていく

 だが正直、こういう商品を買おうとは全く思わない


「こういうのはいいです。お代だけ払ったら出ていくんで……」

「……あっ、先輩、ちょっと待って下さい……」

「何だ?」

「さっき、誕生日だから欲しいものがあったら買ってくれるって、言いましたよね」

「確かに言ったが……まさか、この石が欲しいのか?」

「違いますよっ、……これです」

「お嬢さん見る目があるねぇ……それは、縁結びの指輪だよ」

「……指輪?……しかも二個も、これって……ぺ、ペアリング……」

「先輩とお揃いのものが欲しくて……ダメ……ですか?」

「ダメじゃない……これ、二つ買います」

「かしこまりぃ、指輪二つと診断料を合わせて……」

 支払いを済ませると、白が受け取った指輪をもってこちらに体を向けて指を差し出してきた


「指輪を……はめていただけますか?」

「いいぞ」

「……先輩っ、ありがとうございます!」

「喜んでくれてよかったよ」

「嬉しいなんて言葉じゃ表せられない位に、嬉しくて……まだ、初デートは始まったばかりなのに……もう、幸せが一杯で……溢れちゃいそうです……先輩っ、大好きです!」

「知ってるよ……」

 指輪を眺めた白は優しく、そして静かに、幸福を嚙みしめるかのようにして微笑んだ

 この先、俺はこの時を何度も思い出すことになる


 恐らく、この時が最後だったからだ……俺が白に――――することができた最後のチャンスがあったのは――
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