上 下
11 / 26

第十話

しおりを挟む
 翌朝――白の部屋

「ケホッ……コホッ……せ、んぱい……」

「おう、来たぞ」

 俺は一度家に帰ってから再び看病に来た

 しかし、目算の通りとでもいうべきか……一日たっても白の容態は一向に回復していない


「今日も来ていただいて……すみません」

「気にするな」

「けほっ……小学生の時に風邪をひいて休んだ時はすぐに治ったんですけど……」

「安心しろ、きっと良くなる……冷却シートを変えるぞ」

「はい……お願いします」

 俺は白の額の冷却シートを取り替える

 あんなに冷えていたシートは熱を吸っていて生温かった


「ん、……冷たくて、気持ちいい……です」

「それはよかった」

「何から何まで、先輩に頼ってばかりですみません」

「こんな時まで何かされる方が迷惑だ」

「でも……」

「でもじゃない、やれる時にやれることをしてくれればいい……だからもし、俺が体調を崩したときは」

「はい!私が必ず元気にしてみせます……!」

「それは頼もしいな、いつでも安心して風邪をひける」

「うふふっ、安心して風邪をひけるって……ふふっ、何ですか、もう……」

 ほんの少し声を出して笑った白は汗で頬が紅潮していてエロ可愛かった


「ストレスや疲労がたまっていたんだろう、この機会に思いっきり休め」

「先輩はどうしてそこまで私に優しくしてくれるんですか?」

「好きだからな」

「……私のことをいつ好きになってくれたんですか?」

「いつ……と言われると難しいな、気がついたら白のことが好きになっていて、自然と頭に浮かぶようになっていた」

「私も大体同じです……先輩のことが一日中頭から離れないないです」

 その状態は大体同じというんだろうか……


「正直に伝えたいことがあるんです……先輩、」

「何だ?」

「私は私が本当に先輩のことが好きなのかわからないんです」

「……どういうことだ?」

「初めは私を唯一、暴力から守ってくれた人だから……私だけを向いてくれるようにする為に強引に彼女になって、それから恋人らしい事もしました……」

「そうだな」

「でも、この気持ちは好きっていうよりも暴力から守ってくれる先輩に依存しているだけなのかなって思うんです……」

「別に、好きって気持ちと依存って気持ちは両立するんじゃないか?」

「そうだとしても、私が持っているこの感情は先輩が私に向ける感情とは何か違う気がするんです……」

「それを言ったら、俺だって白がいない生活なんて考えられない……依存してんのも好き同士なのも似てると思うが」

「そう……ですね」

 その後も看病は続いたが夜になったので俺は一度家に帰った


 そして――



 ◆◆

 ――翌朝

「……ん?」

 何者かに超近距離から見つめられ続けているような感覚を肌で感じた俺は目覚めた


「って、白!?」

「すみません先輩、少しでも先輩のお顔を眺めていたくて、早く来すぎてしまいました」

「それはいいが、熱は大丈夫なのか?」

「先輩のおかげでもうすっかり良くなりました!、ですが……」

「何だ?」

「先輩の寝顔に夢中になりすぎて、まだ朝食が用意できていません……」

「何だと?」

「すみません先輩っ、今すぐにお作りしま」

「病み上がりが無理するな、今日は作らなくていい」

「だ、駄目でしょうか?」


「朝からいきなりいつも通りに動いて、またぶり返したりしたらどうするんだ」

「もう、心配していただかなくても大丈夫だとは思いますが……」

「大丈夫でもなければ丈夫でもねぇ、今日は俺が作る」

「ですが、流石に三日続けて先輩に頼り続けるのは」

「出来上がるまでそこのベットで寝ていろ」

 聞き分けの悪い白の制止を振り切って部屋を出た俺は朝食の準備に取り掛かった



 ◆◆

 ――バン、と豪快に扉を閉めた彼は朝食を用意すると言って部屋から出ていった

 私がやると言ったのに、病み上がりに任せるわけにはいかないと聞き入れてはくれなかった

「はあっ、……はぁ、はぁ……」

 彼が部屋から出て行ったことで、いよいよ抑えきれなくなった鼓動が騒ぎ始めて呼吸も一気に荒くなる

 熱い、熱い、……もう、風邪による熱はないはずなのに熱くて熱くて仕方がない


「……はっ、……はぁ、はあっ、はぁ……なに……これ、知らない……知らない知らない……!!」

 私は知らない、未だかつて感じたことのないこの感情にどう向き合えばいいのかを

 私は知らない、心臓からあふれ出すこの止めることのできない熱く大きな気持ちを

 熱い、熱い、どうすればいいんだろう

 幸せすぎて死んでしまいそうだ

 口の中が乾いていくのを感じる……

 でも、私の体の一部はそれに反比例して真逆の状態になっていく……


「はぁ、はぁ、……ああ、う、ううぅ、……はあっ、はぁ、」

 胸の中に抱いた衝動と新たに産まれた感情が衝突する――

 そして

 重なり合って

 混ざり合って

 誰よりも優しい彼のことを求め続ける

 苦しくて寂しい

 だけど、どこか暖かくて幸せな感情


 これが――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

処理中です...