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ヤミイ

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 僕が先生の乳首に取りつけたのは、ふたつの電極だった。
 洗濯ばさみに電気コードがついたようなそれは、サイドボードのパネルで電圧を操作できるようになっていた。
 いきなり高圧電流をかけると、先生の心肺が停止してしまう恐れがある。
 だから、まずは一番微弱なレベルの放電で試してみることにした。
 スイッチを入れると、
「くあっ」
 ハンマーで殴られたみたいに、先生がのけぞった。
「はふっ」
 優雅な首をごつい喉仏が上下した。
 両脚を頸の後ろに回し、その足首を縛ったロープで天井から吊るされた先生は、巨大なイチジクの果実のような恰好をしている。
 全開にしたお尻の穴を下にして、股間からは勃起ペニスを旗竿のように水平に突き出しているのだ。
 その胸から二本のコードがサイドボードに伸びた様子は、あたかも人体実験の被験者のようだった。
 準備は整った。
 でも、ここから先は、ひとりでは無理だ。
 色々考えたけれど、先生の躰を操作するには、どうしても、もうひとり、人手が要る。
 誰にしようか、迷うところだった。
 本当は、ジュリを呼びたかったけど、最後に見た時の様子では、今晩はもう稼働は無理そうだった。
 だからといって、助清と佐平のふたりでは、ちょっと危険すぎるだろう。
 下手をすると、先生に代わって、この僕のほうが生贄にされかねない。
 となると、選択肢はひとつしか残らない。
 探すと、やはり、あった。
 ベッドの枕元に、ナースコール用の呼び出しボタンが転がっていた。
 2、3度押すと、しばしの沈黙の後、不機嫌そうな若い女の声が、壁のインターホンから返ってきた。
「なあに? こんな時間に?」
 榊原塁と名乗った、あの女ホームドクターの声である。
「先生が大変なんです」
 努めて真面目な口調を装って、僕は言った。
「だから、手伝ってほしいんです」
「ばーか」
 せせら笑うように、塁が言った。
「急病を装って、あたしを呼びつけようとしても、駄目よ。みんな、見てたんだから」
「見てた?」
 ドキリとして、部屋の中を見渡した。
 案の定、あった。
 天井の隅に、監視カメラだ。
「言っとくけど、これはのぞきじゃないわよ。ホームドクターなら、当然のことでしょ?」
 塁がどこか投げやりな口調で、つけ加えた。
「なら、どうして止めに来ないんですか? 先生が大変な目に遭ってるってのは、本当でしょう?」
 挑発してやると、わざとらしいため息が聞こえてきた。
「なに心にもないこと言ってるの。ほんとは、手伝ってほしいんでしょ? その変態を懲らしめるのを」
「お願いできますか?」
 塁の声に好意的な響きを感じ取り、僕は勢い込んだ。
 と、思った通り、二つ返事で塁が答えた。
「ま、いいけどね。そんなの見てたら眠れないし、ちょうど、そろそろ行こうかと思ってたところだから」 
 
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