22 / 25
二十一話『ストーカーに襲われる』
しおりを挟む「あなたの恋人は通院してますか? 医師には守秘義務がありますから、恋人といえども本人の許可なしには、話せないのです。彼女から何か聞かされてませんか?」
「はい? 先生どういうことです?」
「本当にあなた恋人です? 点滴しましたので、明日には容態は安定するはずです。では、私は……」
ぼんやりとした頭に、アキと医者の声が聞こえる。ここは病室で、ベッドに寝かされている。そう、救急車で運ばれた。ガチャと音がして、医者が部屋から出ていき、医者とは違う足音が近づいてくるそして、私の手にそっと温かい温もりが伝わってきた。
「起きてるんでしょ?」
唐突に彼が声を発した。なんでわかった? こんな状況では、照れくさくて目を開けられない。ゆっくりと瞼を開けるとそこには青白い顔をして心配そうにアキが私を見つめて椅子に座っていた。
「体調はどう?」
バレた。でもまあ、やましいことはしていないし関係ない。まだ私たちは恋人でもないのだから。
「明日には退院できそうね。先生の話聞こえてた。今日はデートなのに迷惑かけて、ごめんなさい」
「ううん。大丈夫。気にしなくていいから」
「それと、彼女には早めに連絡しなよ。きっと上手くいくからさあ」
あの花屋の女は先生というフレーズに目を輝かせていたのが頭の片隅に見えた。でもさ、そこから始まる恋があっていいのかもしれない。
「そうだね。それより君は……」
少しの沈黙の後、彼は口を開く。
「いやなんでもない。それと、何か僕にできることある?」
「なんも無いかな」
彼はコンクリートの床に視線を落とし寂しそうな顔をしてくるけどなんなの。
「カバンからメモ帳とボールペンとって、少しアドバイス書いとく」
彼がベッドの横の棚からカバンを取り出そうとすると、ボタンが空いていて、ひっくり返してしまった。そして私のアパートの鍵が床にコロりと落ちた。
すぐに、彼は拾ってくれて、ハッとして私の顔を見る彼。鍵に付いたカエルのキーホルダーを手に取ると何やら天井に視線を向けて考え事をしている。やばい……。
「これ、どこで?」
「私のアパートの鍵だけど、それより、何か自販機で飲み物買ってきて」
「ああ、うん」
彼は頭に手を当てながら部屋から出ていった。
☆
アキ視点
嘘だ。まさかこんなとこであれほど諦めていた初恋の人と会えるなんて思わなかった。だってそうだろ。子供の時に、違う県の女の子に恋をして住所も名前も聞いてないのに、探しようがない。
あのキーホルダーのカエルの足裏にAと掘られていた。昔、カッターで削ったあとが確かにあった。ちなみに僕のカエルがki。二つ合わせると僕の名前アキになる。間違いようがない。
――あの少女は琴音だった……。
手がかりひとつないこの世界で諦めるしかなかったのに、まさかこんなに離れた愛知県にいたなんて。
見つけたのに、あの医者の物言いからすると琴音は難しい病気にかかっているのかもしれない。ひょっとしたら、いや待てそんなことあるはずないだろ。
自販機の前で項垂れる。どんな顔して接したらいいんだよ。
くだらない。僕の学校の出来事が、たわいのない事のように思われる。俺が責任もって助けないと……。
琴音は時間が無いと言ってた。少女の琴音と、今の琴音で何も変わっちゃいない。二人が重なり合う。優香さんの顔が浮かぶ。心が揺れてくる。
限りある命で、僕のことを助けてくれてたのか? デートの練習をしたり。まてまて、その前。大人になった琴音と初めてあった公園。あの時落ち込んでた彼女。今までの全ての出来事が流れ駆け巡る。
☆
それから数日後
それから体調が戻らず、家に帰れたのは入院から数日後となってしまった。アキはあの子とうまくいっていると、昨日お見舞いに来た時に教えてくれた。
ピンポーン。
アパートのチャイムが鳴った。誰? アキにはもう来ちゃダメだからと念をおしておいたのに。
扉を開けると、隙間から手が伸びてきて強引に扉が強い力で引かれ、
「やっぱり俺、お前じゃないとダメなんだ」
翔が懲りずにまた来てしまった。
「なんであなたがいるのよ。出てって。」
「やり直さないか」
「私はあなたのこと嫌いなの」
「どうされました」
たまたま隣の住人が袋を持ってゴミ出しに行こうとしてるところで声をかけてくれた。
「いえ彼女が騒いでしまって」
「違うんです。ストーカーです」
「何言ってるんだよ!」
「あの、警察呼んだ方がいいです? 僕がかけましょうか?」
「テメー何してんだよ」
翔はそう言うと、隣人のスマホを取り上げようと扉から手を離した。その隙にドアをしめて、スマホを開ける。
え! なんでアキの番号があるの?
私は気づけばアキに電話してた。
「助けて」
「どこ?」
「アパート、あいつが来てるの」
「すぐ行く」
「おーい、早く開けろおおおおー!」
外が騒がしい。隣人はこのキチガイから逃げてしまった。
恐怖でガタガタ震えてくる。私はダメだ。彼女がいるのになんで呼んだの。
アキは学校で仕事してたのに、十五分後には来てくれた。その間。翔は私のアパートのドアをガンガン蹴飛ばし殴って騒いでいた。
「そこで何をしてるんです?」
外からアキの声がした。
「テメー、あの時の、俺と琴音の間にあれほど入るなって言ってただろ! テメー付き合ってんのかよ」
「……」
言えるわけない。他に女がいるのに。呼んだ私も馬鹿だけどさ。人を利用して本当に、最低だ。
「僕はっ、恋人ですよ。もうすぐ結婚するんです。琴音さんと」
嘘ついてる。
「ふざけるな」
玄関先でフェンスに身体を打ち付ける誰かの音がする。殴り合う音が聞こえてくる。
扉を開けると、ボコボコにされて地面にはいつくばるアキの姿があった。
サイレンが近ずいてくる。隣人が呼んでくれた。
「二度と来ないでください。彼女は助からない病気なんです。お願いですから、そっとしといてもらえませんか」
「やめてよ! お願いだから、やめてっ」
殴られるアキと翔の間に入るが、翔はそんな私を蹴飛ばそうと脚を空に浮かせた。そして、アキは私を庇おうと前に出る。
「は? もういいわ。お前ら馬鹿すぎるわ」
唾をアキに吐きつけて、帰ろうとする。アキは向かっていき、翔の肩を掴み、右ストレートを打った。
避けられるような弱いパンチなのに顔に受けた翔。振り返るとその目からは涙が流れていた。
「もう、俺やめとくわ。お幸せに」
警察がバタバタとこちらに向かってくる。翔はフェンスから下の階にジャンプするとそのまま走り去っていった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
ランプの令嬢は妹の婚約者に溺愛され過ぎている
ユウ
恋愛
銀髪に紫の瞳を持つ伯爵令嬢のフローレンスには社交界の華と呼ばれる絶世の美女の妹がいた。
ジェネットは幼少期の頃に病弱だったので両親から溺愛され甘やかされ育つ。
婚約者ですらジェネットを愛し、婚約破棄を突きつけられてしまう。
そして何もかも奪われ社交界でも醜聞を流され両親に罵倒され没落令嬢として捨てられたフローレンスはジェネットの身代わりとして東南を統べる公爵家の子息、アリシェの婚約者となる。
褐色の肌と黒髪を持つ風貌で口数の少ないアリシェは令嬢からも嫌われていたが、伯爵家の侮辱にも顔色を変えず婚約者の交換を受け入れるのだが…。
大富豪侯爵家に迎えられ、これまでの生活が一変する。
対する伯爵家でフローレンスがいなくなった所為で領地経営が上手くいかず借金まみれとなり、再び婚約者の交換を要求するが…
「お断りいたします」
裏切った婚約者も自分を捨てた家族も拒絶するのだった。
あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。
氷の女王ラネージュの甘く冷たい逆転劇 〜スイーツでつかむ成功と復讐〜
(笑)
恋愛
伯爵令嬢ラネージュ・ブランシュは、華やかな社交界で一目置かれる存在だったが、婚約者から突然婚約破棄を告げられるという屈辱を味わう。しかし、その瞬間に彼女の中で眠っていた「雪女」の力が目覚める。ラネージュは、その冷たい力を使ってスイーツビジネスを展開し、成功への道を歩み始める。
彼女が作り出す美しく冷たいスイーツは、瞬く間に貴族たちの間で評判となり、ついには王宮御用達となるまでに至る。さらに、隣国ヴァルトリアにも進出し、彼女のスイーツは国境を越えて広まっていく。ラネージュの冷たいスイーツが巻き起こす逆転劇と、次なる挑戦が描かれる物語。
プラグマ2 〜永続的な愛〜【完結】
真凛 桃
恋愛
2024年4月29日に完結した『プラグマ』の続編です。波乱に満ちた登場人物のその後を描いた作品ですので是非『プラグマ』もご覧になってみて下さい。
《プラグマとは、困難を耐え抜き時間をかけて成熟した愛のこと》
罪に問われた裕二が刑務所に入りスミとの離婚は成立した。
シュンと結婚の約束をし、お互いの家族との交流が始まったが、シュンの継母とスミの母親との間には意外な関係があった。
過去にこの2人には一体何があったのか…?
平穏な生活を待ち望んでいるシュンとスミに更なる試練が…。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる