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十一話『偽彼氏でもいい』
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「やめて……」
私は喉の奥から声を絞り出す。ナンパ師のようなものに目をつけられてしまった。金髪鋭い三白眼の男は、腕を強引に引っ張ってくる。
「いいから、付いてこいよ! 早くしろよ!」
人通りの多い場所で怒号を出され、恐怖で足がすくむ。嫌だ。行きたくない。でも、足元がふらつきガクッと脚の力が抜けてアスファルトに倒れる。
「は? オイッ。おまえ何してんだよ」
そいつは私の腕をさらに力いっぱいひっぱってくる。
――誰かっ、助けてっ!
こんなにも人が大勢行き交うのに誰も止めに入ってくれない。ちらっとこっちを見ても誰も彼もが、関わりたくないと思っている。恐らく痴話喧嘩のように映っているのだろうか。
「やめてっ……」
「早くしろよ!」
逃げないといけないのに、怖くて立ち上がれそうにない。
張り詰めた空気の中、背後から懐かしくもある鋭い声がかけられた。
「あの、やめてもらってもいいですか? 彼女嫌がってるみたいですし」
「お前には関係ねーだろ、口を挟むんじゃねえ。だいたいお前誰なんだよ!」
「それが関係あるんですよ。ここまで言えば分かりますよね。あなたいつもここでナンパしてますけど、いっその事、そこの警察に突き出しましょうか?」
「あー、めんどくさ。お前どっかで会ったらぶっ殺してやるからな」
奴は彼に向かって中指を立てた。
「脅迫ですか? どうやら通報した方が良さそうですね」
「こんな低ランクの女なんていらねーわ。じゃあな」
奴は大股歩きで去っていく。私は助けてくれた男性に手を差し出され、身体を起こしてもらった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。おかげさまで。名古屋ってこんなに危険なところでした?」
「いや、普段は平和な場所なんです。たまにこれだけ人が多いとおかしな人も現れるけど」
「まあ、秋だからじゃないですか? 秋には気圧の関係でおかしな人も出没するとか。少し向こうのベンチで休みませんか? 丁度あそこの警察署の裏に小さな噴水があって階段のところで、座って休憩できるんです」
この人。こないだイルカ公園のベンチに座っていた人に似ている。
彼の顔をまじまじと覗き込む。向こうも一瞬不思議そうな目をしていたが、「あっ」とお互いに声が被った。
「もしかしてイルカ公園で……」
「まさか、とは思いましたけど、やっぱり、そうですよね」
「あの時は僕も色々あって、しかも天気良くなかったですね」
この人と話しているとなんだか落ち着く。まるで初めてあったような気がしない。
「ありがとうございます。助けて頂いてすみません。今日はお休みですか?」
彼は俯くと
「いえ……」
とだけ答えた。何か聞いたらまずい事でもあるのかな?
「僕もこんな事するの初めてで正直怖かったです。誘拐されそうになってたので間に合って良かった」
「大人ですよ。身長は低いですけど、子供じゃありません」
彼は私の瞳を見て微笑んだ。
「少しここで時間を潰してから行くと良いですよ。あっ、鳩が寄ってきた」
この噴水の場所は人目が少ないから、休憩所になり、お菓子や弁当を食べたりする人がいたり、鳩の遊び場にもなっているようだった。
ここで、鳩を眺めながら、彼とお喋りしていた。
気さくに話してくれる彼は、時折、寂しげな表情を浮かべる。少し顔が青白くて体調が良くなさそうだ。このまま迷惑をかける訳にもいかない。
「そろそろ行きますね」
「あ、うん」
彼が名残惜しそうな表情を浮かべたけど私はお辞儀して駅へと向かう。ふと、さっきのやばい男が待ち構えているかもしれないと、嫌な予感がする。
そこの交番の裏の階段を降りれば、さっきおかしな人に絡まれた場所だ。うつむき加減にゆっくりと歩いていると「ちょっと待って」と、彼が慌てて追いかけてきた。
「あのっ、もし良かったらせっかくなのでどこか行きませんか? ちなみにナンパじゃないです」
体調悪そうなのに、気を使ってくれている。
「えっ?」
「さっきの変なやつが近くにいるとも限らないし、行きたいとこがあれば少し、付き合いますよ。僕今日は暇なんで。あと、僕は変なやつじゃないんで安心してください」
「ふふっ」
なんかこの人。おかしな人。一人だと色々考えてしまうし、何よりさっきの男がその辺に潜んでいたら怖いからついつい甘えてしまう。
「いいんですか? でもどこにいきます?」
私は軽い女じゃない。助けられたからと言って完全に心を許している訳でもない。もしかしたらさっきの男の仲間でこの人が諸悪の根源ということもある。気をつけないと……。
「特にないですけど、映画館とかどうです? 歩道橋を渡った先にある黒い建物がそうなんですけど。アニメで面白いのがやってるみたいですよ」
「映画館もいいですね。アニメは見ないんですけど」
「意外と大人でも楽しめるものがやっているみたいです。良かったら行きませんか?」
アニメなんて子供の時に見たきりで、迷ってしまう。映画なら話さなくてもいいし。
別になんぱの誘いを受けているわけじゃないんだから。たまたま目的がお互いに映画鑑賞なだけ。
「どうしよっかな」
「でも僕もそれまだ見た事ないから面白いかどうか分かりませんよ。何年か前にシリーズの一話が上映されて、二作目が始まったらしいんです。水色の猫みたいなのが主人公なのかな」
それってあれだ。子供向けのやつじゃん。うーん。他のが見てみたい。けど、知らない人と恋愛ものとかないか……。子供向けならこの男性と仲良くなることもないでしょ。
「いってみます」
こうして私達は映画館に来たのだが、肝心のその映画は二時間後らしい。三時から始まる。二時間映画があるとして帰りは五時くらいになりそう。
まあ大丈夫かな。
「とりあえずチケットだけ買ってどこか行きます?」
映画は久しぶりかも。翔くんは眠くなるからと映画に出かけたことは一度もなかった。あー、やめよう。あいつの話はなし、なしっ。
「そうですね。席はだいたい空いてますね。どうします?」
「うーん。さすがに隣はね? 初対面ですし、一個席を飛ばして隣にしときましょう」
ん? 紳士的な人だ。そう言われると、私は隣でも良いとか思ってしまう。彼はタッチパネルを慣れた手つきで操作してチケットを買い始めた。
「はい、どうぞ」
「えっ、そんな……初対面の人に悪いので……」
そう言って私は肩がけのカバンから財布を出そうとするけど彼は手を振り。
「気にしないでください。僕が観たい映画なんだし、勝手に付き合ってもらってるだけだから」
「そんな……」
「楽しみましょ。あ、違うか。僕が楽しいだけで」
笑う彼の頬にえくぼが出来て、結構可愛い男性なのかもしれないとか思ってしまう。私はその屈託のない笑顔に惹かれてチケットを受け取った。
「ありがと」
「まだ時間ありますし、どうします? ここで待っててもいいし」
「せっかく久しぶりの名古屋なので、その辺を探索したいです」
「それならついて行ってもいいですか?」
「えーっ、一人で回りたかったのに!」
冗談が言えた。私、こんな意地悪なこと言えたのいつぶりだろう。前の男には、言いなりというか可愛い自分を無理に演じてたような気もする。
「そんなこと言わずにお願いしますよ」
「しょうがない人ですね」
映画館を出て駅から離れるように歩く。パチンコ屋の旗が目に留まる。ここって、扉が開くとかなりうるさいんだよね。中で何が行われているんだろう。一度も入ったことないけど、少し怖い気がする。
私がチラチラ見てると、彼は、
「たまに行くんですよ。良かったら行きます? 四円パチンコとか一円パチンコとか色々ありますよ」
「ゲームセンターみたいなものです?」
「ちょっと違いますけど、ここには5円スロットとかもあるので二時間ぐらいならそんなにお金使わなくても遊べるかもしれない。君、初めて?」
「ううん。こないだ行ったかも」
なんとなく私だけ知らないのも嫌だったのでついつい嘘をついてしまった。
「まー、いいや。教えますよ」
私の心を見透かしたように彼は微笑んで、パチンコ屋の中へと入っていく。そのあとを私は慌てて追いかける。
彼は痩せて、ひょろりとしている。とても強そうには見えない。むしろ軟弱者って感じで頼りない。もし襲われても逃げれそう。いや多分この人はそんなことしないんじゃないのかな。
それは私が絡まれた時、助けに入った彼の脚が震えていたから。この人は奴の仲間では無い。その辺を歩いている人よりもよっぽど真面目で度胸があると思う。
パチンコかあ。扉を空けると爆音が鼓膜を叩いて頭が痛くなる。みんなよくこんな場所にいられるわよね。
お父さんがパチスロ好きで、よくわかんない話をしてたけど、面白そうな気がしてた。
「ごめん、いったんおにぎり買ってきてもいい?」
店に入った彼が耳元で話す。パチンコ屋に三歩入ってすぐに引き返すことになってしまった。優柔不断で、やっぱり頼りない。この人に彼女とかいるなら、大変そう。彼女なんていなさそうと失礼にも勝手な想像をしてしまう。
「すいません。お腹が減って駅の売店寄っていいです? パチの本も欲しいし」
パチの本? パチパチお口の中で弾ける飴のこと? そんなわけないし。なんだろう。この人ギャンブラーなのかな?
彼は売店でコロッケパンを買っていた。あとはお茶。そして再び、駅前から横断歩道を渡り、右へと歩き、専門学校を通り越してさっきのパチンコ屋に着いた。
さっきの金髪男が来てないか不安だったけど、ここにはいないようで少し安心した。
「もしさっきのがいたら、俺のこと、彼氏と言うことで、もちろん偽彼氏ね!」
「偽彼氏? 何なのよ!」
顔は普通でイケメンというほどでも無いけど。なんだろう。眉毛、髪型を整えたら少しは……。ナイナイ! そうなったらいけないし。
私たちはパチ屋の自動扉を開けて中に入った。
しばらくスロットをやっていると、私の表示板にピカッとハイビスカスが光る。
「当たってるよ!」
「え?」
「揃えるから」
「うん」
彼は座る私の後ろからトントントンと手際よく7を揃えていく。なんか恥ずかしかった。近すぎる。
二時間はあっという間で、換金したら3000円ぐらいになった。
「はいどうぞ」
小さな窓からトレイに載せられた3000円がでてきたので財布を出そうとカバンを開けると。
「あっ」
後ろからセーラー服の中学生が私の3000円を掴んで駐車場の方へ逃げていった。
「えっ? そんなことあるの?」
「追いかけて!」
私は喉の奥から声を絞り出す。ナンパ師のようなものに目をつけられてしまった。金髪鋭い三白眼の男は、腕を強引に引っ張ってくる。
「いいから、付いてこいよ! 早くしろよ!」
人通りの多い場所で怒号を出され、恐怖で足がすくむ。嫌だ。行きたくない。でも、足元がふらつきガクッと脚の力が抜けてアスファルトに倒れる。
「は? オイッ。おまえ何してんだよ」
そいつは私の腕をさらに力いっぱいひっぱってくる。
――誰かっ、助けてっ!
こんなにも人が大勢行き交うのに誰も止めに入ってくれない。ちらっとこっちを見ても誰も彼もが、関わりたくないと思っている。恐らく痴話喧嘩のように映っているのだろうか。
「やめてっ……」
「早くしろよ!」
逃げないといけないのに、怖くて立ち上がれそうにない。
張り詰めた空気の中、背後から懐かしくもある鋭い声がかけられた。
「あの、やめてもらってもいいですか? 彼女嫌がってるみたいですし」
「お前には関係ねーだろ、口を挟むんじゃねえ。だいたいお前誰なんだよ!」
「それが関係あるんですよ。ここまで言えば分かりますよね。あなたいつもここでナンパしてますけど、いっその事、そこの警察に突き出しましょうか?」
「あー、めんどくさ。お前どっかで会ったらぶっ殺してやるからな」
奴は彼に向かって中指を立てた。
「脅迫ですか? どうやら通報した方が良さそうですね」
「こんな低ランクの女なんていらねーわ。じゃあな」
奴は大股歩きで去っていく。私は助けてくれた男性に手を差し出され、身体を起こしてもらった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。おかげさまで。名古屋ってこんなに危険なところでした?」
「いや、普段は平和な場所なんです。たまにこれだけ人が多いとおかしな人も現れるけど」
「まあ、秋だからじゃないですか? 秋には気圧の関係でおかしな人も出没するとか。少し向こうのベンチで休みませんか? 丁度あそこの警察署の裏に小さな噴水があって階段のところで、座って休憩できるんです」
この人。こないだイルカ公園のベンチに座っていた人に似ている。
彼の顔をまじまじと覗き込む。向こうも一瞬不思議そうな目をしていたが、「あっ」とお互いに声が被った。
「もしかしてイルカ公園で……」
「まさか、とは思いましたけど、やっぱり、そうですよね」
「あの時は僕も色々あって、しかも天気良くなかったですね」
この人と話しているとなんだか落ち着く。まるで初めてあったような気がしない。
「ありがとうございます。助けて頂いてすみません。今日はお休みですか?」
彼は俯くと
「いえ……」
とだけ答えた。何か聞いたらまずい事でもあるのかな?
「僕もこんな事するの初めてで正直怖かったです。誘拐されそうになってたので間に合って良かった」
「大人ですよ。身長は低いですけど、子供じゃありません」
彼は私の瞳を見て微笑んだ。
「少しここで時間を潰してから行くと良いですよ。あっ、鳩が寄ってきた」
この噴水の場所は人目が少ないから、休憩所になり、お菓子や弁当を食べたりする人がいたり、鳩の遊び場にもなっているようだった。
ここで、鳩を眺めながら、彼とお喋りしていた。
気さくに話してくれる彼は、時折、寂しげな表情を浮かべる。少し顔が青白くて体調が良くなさそうだ。このまま迷惑をかける訳にもいかない。
「そろそろ行きますね」
「あ、うん」
彼が名残惜しそうな表情を浮かべたけど私はお辞儀して駅へと向かう。ふと、さっきのやばい男が待ち構えているかもしれないと、嫌な予感がする。
そこの交番の裏の階段を降りれば、さっきおかしな人に絡まれた場所だ。うつむき加減にゆっくりと歩いていると「ちょっと待って」と、彼が慌てて追いかけてきた。
「あのっ、もし良かったらせっかくなのでどこか行きませんか? ちなみにナンパじゃないです」
体調悪そうなのに、気を使ってくれている。
「えっ?」
「さっきの変なやつが近くにいるとも限らないし、行きたいとこがあれば少し、付き合いますよ。僕今日は暇なんで。あと、僕は変なやつじゃないんで安心してください」
「ふふっ」
なんかこの人。おかしな人。一人だと色々考えてしまうし、何よりさっきの男がその辺に潜んでいたら怖いからついつい甘えてしまう。
「いいんですか? でもどこにいきます?」
私は軽い女じゃない。助けられたからと言って完全に心を許している訳でもない。もしかしたらさっきの男の仲間でこの人が諸悪の根源ということもある。気をつけないと……。
「特にないですけど、映画館とかどうです? 歩道橋を渡った先にある黒い建物がそうなんですけど。アニメで面白いのがやってるみたいですよ」
「映画館もいいですね。アニメは見ないんですけど」
「意外と大人でも楽しめるものがやっているみたいです。良かったら行きませんか?」
アニメなんて子供の時に見たきりで、迷ってしまう。映画なら話さなくてもいいし。
別になんぱの誘いを受けているわけじゃないんだから。たまたま目的がお互いに映画鑑賞なだけ。
「どうしよっかな」
「でも僕もそれまだ見た事ないから面白いかどうか分かりませんよ。何年か前にシリーズの一話が上映されて、二作目が始まったらしいんです。水色の猫みたいなのが主人公なのかな」
それってあれだ。子供向けのやつじゃん。うーん。他のが見てみたい。けど、知らない人と恋愛ものとかないか……。子供向けならこの男性と仲良くなることもないでしょ。
「いってみます」
こうして私達は映画館に来たのだが、肝心のその映画は二時間後らしい。三時から始まる。二時間映画があるとして帰りは五時くらいになりそう。
まあ大丈夫かな。
「とりあえずチケットだけ買ってどこか行きます?」
映画は久しぶりかも。翔くんは眠くなるからと映画に出かけたことは一度もなかった。あー、やめよう。あいつの話はなし、なしっ。
「そうですね。席はだいたい空いてますね。どうします?」
「うーん。さすがに隣はね? 初対面ですし、一個席を飛ばして隣にしときましょう」
ん? 紳士的な人だ。そう言われると、私は隣でも良いとか思ってしまう。彼はタッチパネルを慣れた手つきで操作してチケットを買い始めた。
「はい、どうぞ」
「えっ、そんな……初対面の人に悪いので……」
そう言って私は肩がけのカバンから財布を出そうとするけど彼は手を振り。
「気にしないでください。僕が観たい映画なんだし、勝手に付き合ってもらってるだけだから」
「そんな……」
「楽しみましょ。あ、違うか。僕が楽しいだけで」
笑う彼の頬にえくぼが出来て、結構可愛い男性なのかもしれないとか思ってしまう。私はその屈託のない笑顔に惹かれてチケットを受け取った。
「ありがと」
「まだ時間ありますし、どうします? ここで待っててもいいし」
「せっかく久しぶりの名古屋なので、その辺を探索したいです」
「それならついて行ってもいいですか?」
「えーっ、一人で回りたかったのに!」
冗談が言えた。私、こんな意地悪なこと言えたのいつぶりだろう。前の男には、言いなりというか可愛い自分を無理に演じてたような気もする。
「そんなこと言わずにお願いしますよ」
「しょうがない人ですね」
映画館を出て駅から離れるように歩く。パチンコ屋の旗が目に留まる。ここって、扉が開くとかなりうるさいんだよね。中で何が行われているんだろう。一度も入ったことないけど、少し怖い気がする。
私がチラチラ見てると、彼は、
「たまに行くんですよ。良かったら行きます? 四円パチンコとか一円パチンコとか色々ありますよ」
「ゲームセンターみたいなものです?」
「ちょっと違いますけど、ここには5円スロットとかもあるので二時間ぐらいならそんなにお金使わなくても遊べるかもしれない。君、初めて?」
「ううん。こないだ行ったかも」
なんとなく私だけ知らないのも嫌だったのでついつい嘘をついてしまった。
「まー、いいや。教えますよ」
私の心を見透かしたように彼は微笑んで、パチンコ屋の中へと入っていく。そのあとを私は慌てて追いかける。
彼は痩せて、ひょろりとしている。とても強そうには見えない。むしろ軟弱者って感じで頼りない。もし襲われても逃げれそう。いや多分この人はそんなことしないんじゃないのかな。
それは私が絡まれた時、助けに入った彼の脚が震えていたから。この人は奴の仲間では無い。その辺を歩いている人よりもよっぽど真面目で度胸があると思う。
パチンコかあ。扉を空けると爆音が鼓膜を叩いて頭が痛くなる。みんなよくこんな場所にいられるわよね。
お父さんがパチスロ好きで、よくわかんない話をしてたけど、面白そうな気がしてた。
「ごめん、いったんおにぎり買ってきてもいい?」
店に入った彼が耳元で話す。パチンコ屋に三歩入ってすぐに引き返すことになってしまった。優柔不断で、やっぱり頼りない。この人に彼女とかいるなら、大変そう。彼女なんていなさそうと失礼にも勝手な想像をしてしまう。
「すいません。お腹が減って駅の売店寄っていいです? パチの本も欲しいし」
パチの本? パチパチお口の中で弾ける飴のこと? そんなわけないし。なんだろう。この人ギャンブラーなのかな?
彼は売店でコロッケパンを買っていた。あとはお茶。そして再び、駅前から横断歩道を渡り、右へと歩き、専門学校を通り越してさっきのパチンコ屋に着いた。
さっきの金髪男が来てないか不安だったけど、ここにはいないようで少し安心した。
「もしさっきのがいたら、俺のこと、彼氏と言うことで、もちろん偽彼氏ね!」
「偽彼氏? 何なのよ!」
顔は普通でイケメンというほどでも無いけど。なんだろう。眉毛、髪型を整えたら少しは……。ナイナイ! そうなったらいけないし。
私たちはパチ屋の自動扉を開けて中に入った。
しばらくスロットをやっていると、私の表示板にピカッとハイビスカスが光る。
「当たってるよ!」
「え?」
「揃えるから」
「うん」
彼は座る私の後ろからトントントンと手際よく7を揃えていく。なんか恥ずかしかった。近すぎる。
二時間はあっという間で、換金したら3000円ぐらいになった。
「はいどうぞ」
小さな窓からトレイに載せられた3000円がでてきたので財布を出そうとカバンを開けると。
「あっ」
後ろからセーラー服の中学生が私の3000円を掴んで駐車場の方へ逃げていった。
「えっ? そんなことあるの?」
「追いかけて!」
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