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5話
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俺たちのぎこちない家族関係が始まってから三ヶ月が経過した。
季節は秋から冬になった。
今日はクリスマス。
早めに仕事を終えた父は清香さんと共にクリスマス用のごちそうを用意してくれていた。
「今日は奮発しちゃった!」
「桃ちゃんと悠樹の好物ばかり揃えたんだぞ」
きらびやかなごちそうは本当に美味しそうで、芳しい香りと温かな湯気を放っていたが、テーブルに着いた人数はまだ三人。
そこに卯月の姿はなかった。
「どうしたのかしら。欲しい本があるって出てったきり。夕飯までには帰るって言ったのに。あの子ったら」
「心配だな。雪も降ってきたし。なにかあったら大変だ」
「何度も携帯に連絡してるのに返信もないのよ」
携帯にメール送信をした瞬間どこかで着信音が鳴る音が聞こえた。
卯月の部屋の机の上で彼女の携帯が振動で震えていた。
あいつ、携帯持たずに家を出たのか。
「俺、見てくるよ!」
俺は雪の降るなか、家に帰らなくなった卯月を探し回った。
「……あ!」
息があがるほど走った先、家から学校の通学路の間にある公園で卯月を見つけた。
雪降る公園で、彼女は遊具のトンネルの中で膝を抱えうずくまっていた。
「卯月! いた! どうしたんだよこんなところで! 探したんだぞ!!」
「……」
卯月は何も言わない。
「帰るぞ。父さんも母さんもごちそう用意して待ってる。クリスマスだぞ。こんな寒いところ出て家でごちそう食おうぜ。皆心配してる」
「心配してる……?」
「ああ。清香さんも心配してる。お前携帯持たずに出てっちゃダメだろ」
「どうしよう片瀬。私、たまにお母さんを殺したくなる……っ」
くぐもった声から物騒な言葉が紡がれた。
「え……?」
「いつも私を振り回して、私が辛いの知ってるクセに! 私が苦しんだ分だけお母さんももっと苦しめばいいんだ……!」
物騒な言葉なのにその声からは悲しみの方が大きく感じられて、切なさが込み上げていて。
俺は肩を震わす彼女の隣にしゃがみ、卯月の悲鳴に耳を傾けた。
「こんなこと言ったら不謹慎だけど、私、児童施設の子が羨ましい。あの子たちは親と一緒に暮らさなくて済むもの」
伏せた顔の下からずずっと鼻水をすする音が聞こえる。
卯月は今泣いている。
「あんたと啓介さんを見てると思い知る。本来の親子ってこうなんだろうなって。私の求めてたものはああいうのだって。あんたたち見てると辛い」
「卯月」
「他人行儀にもなるわよ。“また失う”どころか“本当の家族”すら知らないままなんだから!!」
心からの叫びだった。
俺が強いと思ってた卯月なんていなかった。
本当は全然大丈夫じゃなかったんだ。
ずっと傷ついて苦しんで、そうやって一人ですべてを抱え込んできたんだ。
「私は私が成長するまであの人といなければいけない。ずっとあの人とフラフラ生きてかなくちゃいけない。あの母親と血が繋がってる自分が嫌」
「そんなこと言うなって」
「血は遺伝なの。切っても切れないの。あんたと啓介さんが羨ましい。ずっと羨ましかった」
嗚咽まじりに弱々しく言う彼女の身体はいつもより小さく見えた。
「私もいずれお母さんのようになるんだわ」
これからも彼女は温かなものに触れる度に傷つかなければならないのだろうか。
そんなこと、させない。
「いいや、ならないね」
「え……?」
「なぜならお前は俺の父さんの子でもあるからだ」
「違うわ。だって、私は」
「血が繋がってなくてもさ、今のお前の親の片方は俺の父さんであることに違いはないだろ。父さんはお前こと本当に娘として大切にしてるよ。お前はもう俺の家族の一員なんだ」
「片瀬……」
「な、家に帰るぞ」
「イヤ」
「イヤ!? いい感じで締めたじゃん! ほら立てよ」
卯月は頑なに動こうとしない。
「お前、マジで頼むよ……俺薄着で出てきちゃったからじきに凍ってしまうぞ」
「違う! 顔! ティッシュ持ってないの!」
顔をあげた卯月の顔面は鼻水と涙まみれだった。
「あははは!」
「見るな!」
「ほらふいてやる! ちーんしろ、ちーん」
「……あんた用意良いね」
「父さんにティッシュハンカチくらいは最低限持ち歩けって言われたから」
……あ。
「……やっぱポケットティッシュは枚数少なくてダメだな。家帰れば鼻かみ放題だぞ。ほら鼻ゴージャス? あれ、マジで名前出てこない」
「ふふっ」
卯月が笑い声をあげた。
彼女の笑う声を初めて聞いた気がした。
「笑うと可愛いぞ妹よ」
「急に兄ぶらないで。お腹空いちゃった。心配かけてごめん。帰ろう悠樹」
季節は秋から冬になった。
今日はクリスマス。
早めに仕事を終えた父は清香さんと共にクリスマス用のごちそうを用意してくれていた。
「今日は奮発しちゃった!」
「桃ちゃんと悠樹の好物ばかり揃えたんだぞ」
きらびやかなごちそうは本当に美味しそうで、芳しい香りと温かな湯気を放っていたが、テーブルに着いた人数はまだ三人。
そこに卯月の姿はなかった。
「どうしたのかしら。欲しい本があるって出てったきり。夕飯までには帰るって言ったのに。あの子ったら」
「心配だな。雪も降ってきたし。なにかあったら大変だ」
「何度も携帯に連絡してるのに返信もないのよ」
携帯にメール送信をした瞬間どこかで着信音が鳴る音が聞こえた。
卯月の部屋の机の上で彼女の携帯が振動で震えていた。
あいつ、携帯持たずに家を出たのか。
「俺、見てくるよ!」
俺は雪の降るなか、家に帰らなくなった卯月を探し回った。
「……あ!」
息があがるほど走った先、家から学校の通学路の間にある公園で卯月を見つけた。
雪降る公園で、彼女は遊具のトンネルの中で膝を抱えうずくまっていた。
「卯月! いた! どうしたんだよこんなところで! 探したんだぞ!!」
「……」
卯月は何も言わない。
「帰るぞ。父さんも母さんもごちそう用意して待ってる。クリスマスだぞ。こんな寒いところ出て家でごちそう食おうぜ。皆心配してる」
「心配してる……?」
「ああ。清香さんも心配してる。お前携帯持たずに出てっちゃダメだろ」
「どうしよう片瀬。私、たまにお母さんを殺したくなる……っ」
くぐもった声から物騒な言葉が紡がれた。
「え……?」
「いつも私を振り回して、私が辛いの知ってるクセに! 私が苦しんだ分だけお母さんももっと苦しめばいいんだ……!」
物騒な言葉なのにその声からは悲しみの方が大きく感じられて、切なさが込み上げていて。
俺は肩を震わす彼女の隣にしゃがみ、卯月の悲鳴に耳を傾けた。
「こんなこと言ったら不謹慎だけど、私、児童施設の子が羨ましい。あの子たちは親と一緒に暮らさなくて済むもの」
伏せた顔の下からずずっと鼻水をすする音が聞こえる。
卯月は今泣いている。
「あんたと啓介さんを見てると思い知る。本来の親子ってこうなんだろうなって。私の求めてたものはああいうのだって。あんたたち見てると辛い」
「卯月」
「他人行儀にもなるわよ。“また失う”どころか“本当の家族”すら知らないままなんだから!!」
心からの叫びだった。
俺が強いと思ってた卯月なんていなかった。
本当は全然大丈夫じゃなかったんだ。
ずっと傷ついて苦しんで、そうやって一人ですべてを抱え込んできたんだ。
「私は私が成長するまであの人といなければいけない。ずっとあの人とフラフラ生きてかなくちゃいけない。あの母親と血が繋がってる自分が嫌」
「そんなこと言うなって」
「血は遺伝なの。切っても切れないの。あんたと啓介さんが羨ましい。ずっと羨ましかった」
嗚咽まじりに弱々しく言う彼女の身体はいつもより小さく見えた。
「私もいずれお母さんのようになるんだわ」
これからも彼女は温かなものに触れる度に傷つかなければならないのだろうか。
そんなこと、させない。
「いいや、ならないね」
「え……?」
「なぜならお前は俺の父さんの子でもあるからだ」
「違うわ。だって、私は」
「血が繋がってなくてもさ、今のお前の親の片方は俺の父さんであることに違いはないだろ。父さんはお前こと本当に娘として大切にしてるよ。お前はもう俺の家族の一員なんだ」
「片瀬……」
「な、家に帰るぞ」
「イヤ」
「イヤ!? いい感じで締めたじゃん! ほら立てよ」
卯月は頑なに動こうとしない。
「お前、マジで頼むよ……俺薄着で出てきちゃったからじきに凍ってしまうぞ」
「違う! 顔! ティッシュ持ってないの!」
顔をあげた卯月の顔面は鼻水と涙まみれだった。
「あははは!」
「見るな!」
「ほらふいてやる! ちーんしろ、ちーん」
「……あんた用意良いね」
「父さんにティッシュハンカチくらいは最低限持ち歩けって言われたから」
……あ。
「……やっぱポケットティッシュは枚数少なくてダメだな。家帰れば鼻かみ放題だぞ。ほら鼻ゴージャス? あれ、マジで名前出てこない」
「ふふっ」
卯月が笑い声をあげた。
彼女の笑う声を初めて聞いた気がした。
「笑うと可愛いぞ妹よ」
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