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街へ出かけましょうⅢ
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「あとは他に欲しいものはある?」
「いいえ、今日はこれで十分ですわ」
「それじゃ、これを包んでくれるかな」
シフォナードが示したのは真珠のペンダント。
「これは……」
大粒の真珠が一つ金の鎖に繋がれている。シンプルでオーソドックスなデザインだから長年身に着けても飽きの来ないものだろう。
「クリスに似合うと思って選んだんだけど、どう?」
最近出回り始めたばかりの真珠。他の宝石に比べて、派手さはないのものの控え目な美しさと上品さ、そして海の中でアコヤ貝が月日をかけて体内で育むという神秘性も手伝って、貴族夫人たちの中で密かな人気になっている。
「とても、素敵だと思いますわ。これをわたくしに?」
「うん。とても似合うと思う」
「ありがとうございます」
シフォナードが選んでくれたアクセサリー。こんなサプライズがあるのなら外出してよかったと思った。
包装をしてもらっている間伝票にサインをしようとしたら、シフォナードから止められた。
「ここは僕に払わせて」
そう言ってシフォナードの懐から取り出したのは小切手帳だった。
「シフォン様が支払う必要はありませんのに」
シフォナードは婿に入った身でアイスバーグ家の一員なのだ。だから彼が個人のお金で買い物する必要はないのだ。遠慮する必要もない。
「そうかもしれないけど、今日は許してほしい。僕のお金でクリスにプレゼントしたいんだ」
真摯な瞳でじっと見つめられて請われればダメだとは言えない。それにシフォナードの気持ちも嬉しい。
「シフォン様、ありがとうございます」
クリスティアは彼の思いを素直に受け取ることにした。シフォナードは小切手に金額を記すと包装が済んだ紙バックを受け取った。
「お客様。お買い上げ頂いたブレスレットは、ローズバタフライというシリーズなのですが、それには裏テーマがございますの」
「「裏テーマ?」」
店員の言葉に二人の声が重なった。
「わたしはあなたに夢中です。お客様方にぴったりのテーマだと思いますわ。今日はご来店頂きありがとうございました。では、またのお越しをお待ちしております」
店員はにこやかに微笑むと深々とお辞儀をして二人を見送った。
半ば放心したように店を出ると、クリスティアは左手を上に掲げてブレスレットを見つめた。
「わたしはあなたに夢中です」
さっきの店員の言葉をシフォナードが覗き込んで繰り返す。耳元で囁く声に心臓がどきんと跳ねて、顔がカアと赤くなった。
「シフォン様、からかわないでくださいませ」
本当に今日のシフォナードは心臓に悪い。ドキドキして鼓動がおさまらない。
「からかっていないよ。真実を言っただけ。僕はクリスに夢中だからね。さしずめ薔薇がクリスで、蝶が僕かな? ぴったりだね」
そっと手首に手を添えられると視線がそちらに集中してしまう。触れた手から熱でも発しているのかと思うくらい熱くなっていく。
「シフォン様、これ以上は……」
嬉しいのか、幸せなのか、恥ずかしいのか、いろんな気持ちが頭の中を回っていて、ドキドキしすぎておかしくなりそうだ。
「そうだね。ここは町の中だった。うん、続きは夜に……」
「えっ?」
「そろそろ、お昼の時間ではないかな?」
聞き返す間もなく、半ば強引に手を取られて連れられて行く。シフォナードの横顔を見上げれば、心なしか耳が赤くなっているような。
(シフォン様も照れてらっしゃる?)
自分だけがあたふたして振り回されてるような気がしたけれど、
(シフォン様も可愛いわ)
「お腹がすいた。早くご飯食べたいな」
なんて、ほんのり赤くなった顔でおねだりされれば、なんでも叶えてあげたくなってしまう。
「予約してありますから、そちらに行きましょう」
二人は手をつないで歩いていく。
シャラリとブレスレットが揺れた。
「いいえ、今日はこれで十分ですわ」
「それじゃ、これを包んでくれるかな」
シフォナードが示したのは真珠のペンダント。
「これは……」
大粒の真珠が一つ金の鎖に繋がれている。シンプルでオーソドックスなデザインだから長年身に着けても飽きの来ないものだろう。
「クリスに似合うと思って選んだんだけど、どう?」
最近出回り始めたばかりの真珠。他の宝石に比べて、派手さはないのものの控え目な美しさと上品さ、そして海の中でアコヤ貝が月日をかけて体内で育むという神秘性も手伝って、貴族夫人たちの中で密かな人気になっている。
「とても、素敵だと思いますわ。これをわたくしに?」
「うん。とても似合うと思う」
「ありがとうございます」
シフォナードが選んでくれたアクセサリー。こんなサプライズがあるのなら外出してよかったと思った。
包装をしてもらっている間伝票にサインをしようとしたら、シフォナードから止められた。
「ここは僕に払わせて」
そう言ってシフォナードの懐から取り出したのは小切手帳だった。
「シフォン様が支払う必要はありませんのに」
シフォナードは婿に入った身でアイスバーグ家の一員なのだ。だから彼が個人のお金で買い物する必要はないのだ。遠慮する必要もない。
「そうかもしれないけど、今日は許してほしい。僕のお金でクリスにプレゼントしたいんだ」
真摯な瞳でじっと見つめられて請われればダメだとは言えない。それにシフォナードの気持ちも嬉しい。
「シフォン様、ありがとうございます」
クリスティアは彼の思いを素直に受け取ることにした。シフォナードは小切手に金額を記すと包装が済んだ紙バックを受け取った。
「お客様。お買い上げ頂いたブレスレットは、ローズバタフライというシリーズなのですが、それには裏テーマがございますの」
「「裏テーマ?」」
店員の言葉に二人の声が重なった。
「わたしはあなたに夢中です。お客様方にぴったりのテーマだと思いますわ。今日はご来店頂きありがとうございました。では、またのお越しをお待ちしております」
店員はにこやかに微笑むと深々とお辞儀をして二人を見送った。
半ば放心したように店を出ると、クリスティアは左手を上に掲げてブレスレットを見つめた。
「わたしはあなたに夢中です」
さっきの店員の言葉をシフォナードが覗き込んで繰り返す。耳元で囁く声に心臓がどきんと跳ねて、顔がカアと赤くなった。
「シフォン様、からかわないでくださいませ」
本当に今日のシフォナードは心臓に悪い。ドキドキして鼓動がおさまらない。
「からかっていないよ。真実を言っただけ。僕はクリスに夢中だからね。さしずめ薔薇がクリスで、蝶が僕かな? ぴったりだね」
そっと手首に手を添えられると視線がそちらに集中してしまう。触れた手から熱でも発しているのかと思うくらい熱くなっていく。
「シフォン様、これ以上は……」
嬉しいのか、幸せなのか、恥ずかしいのか、いろんな気持ちが頭の中を回っていて、ドキドキしすぎておかしくなりそうだ。
「そうだね。ここは町の中だった。うん、続きは夜に……」
「えっ?」
「そろそろ、お昼の時間ではないかな?」
聞き返す間もなく、半ば強引に手を取られて連れられて行く。シフォナードの横顔を見上げれば、心なしか耳が赤くなっているような。
(シフォン様も照れてらっしゃる?)
自分だけがあたふたして振り回されてるような気がしたけれど、
(シフォン様も可愛いわ)
「お腹がすいた。早くご飯食べたいな」
なんて、ほんのり赤くなった顔でおねだりされれば、なんでも叶えてあげたくなってしまう。
「予約してありますから、そちらに行きましょう」
二人は手をつないで歩いていく。
シャラリとブレスレットが揺れた。
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