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第二部

リリアside②

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「到着なさったようね。レイニー殿下とフローラ様。相変わらず仲のよろしいこと」

「羨ましいですわ」

 あっちこっちから溜息が漏れ温かな雰囲気に包まれる。生徒達が羨望の眼差しで見つめている先にはフローラさんがいた。

 荘厳な馬車のドアが恭しく開けられると出てきたのは綺羅々しい王子様。バーミリオンの髪に菫色の瞳。整いすぎるほど整った容姿は遠目からでも美形だとわかる。
 馬車から降りた王子様は手を差し伸べる。その手に手をのせて馬車から顔を見せたのはフローラさんだった。

「「「きゃあ」」」

 一連の動作を見ていた女子生徒から黄色い歓声が上がった。居合わせた男子生徒もポーとして見惚れている。

 二人は見つめ合うと微笑みを交わす。そしてフローラさんは学舎へと向かう。その様子を見送ってから王子様は帰っていく。迎えも同じ。それはそれは愛おしそうに彼女を見つめるのだ。王子様を見つめるフローラさんも頬をピンクに染めて恥じらう姿にお互いが想い合っているのだと一目でわかる。
 まともに見ると胸やけしそう。

 それに、この光景が見たいのか日に日にギャラリーは増えている。

 馬車の到着が同じ時間帯だから避けようにも避けられないんだよね。時間を変更することも出来るけど、習慣化しているからずらすのも面倒。見ずにサッサと立ち去ればいいことなのだけど、王子様見たさについつい見てしまうのよね。

 王子様って滅多にお目にかかるわけでもないし、レイニー殿下は社交界に姿を現すこともなくて幻の王子様とか呼ばれていたらしいし。レア物件らしい。だからギャラリーも増えるのか。

 その姿を見るだけでも眼福だもんね。王子様とお近づきになりたいな。もっと至近距離で見てみたい話をしてみたいと思うんだけど誰も近づけないんだよね。ディアナさんくらいか。クラスの子に聞いたら彼女は特別だと聞いた。

 そんな煌びやかな王子様と地味な令嬢のフローラさんが婚約って、どんな冗談よって思っていたんだけど。

 ガーデンパーティーで出会ったって、子猫を助けるために木に登って降りられなくなった彼女を助けたのがきっかけって、ウソでしょ。女の子が憧れるようなシチュエーションが実際にあるなんて。フローラさんて清純そうな顔をして実はあざとかったりして。あまりにも出来過ぎているもの。

 あたしも同じ場所にいたのになあ。このセリフ周りでもちらほら聞いたわ。ガーデンパーティーに出席していた生徒達が言ってたみたい。

「リリア、おはよう」

 背後から声がして振り向くとエドガーが笑顔で立っていた。

「おはよう。エドガー」

 王子様より少し劣るけど、エドガーも美男子だ。あたしたちは肩を並べて歩き出す。

「もしかして、また来てたのか? 殿下」

「うん。そうだよ」

 王子様をのせた馬車はとっくにいなくなっている。見送りを終えた生徒達もそれぞれの教室へと向かっていた。

「殿下も物好きだな。あんな地味な女のどこがいいんだか」

「うーん。そうかなあ?」

 フローラさんて冷静にみるとけっこう可愛らしい顔をしてると思うんだよね。清楚で清純な感じが好きな男性にはモテると思う。王子様もそのタイプだったんだろうな。
 悪しざまに罵るくらいだから、エドガーは全くもって違うんだろう。そこまで彼女を落とさなくてもいいとは思うけど、ケンカになりそうなのでやめておく。

「地味すぎだろ。暗いし華がないし、話も大して面白くもないし。リリアの方が百倍も可愛い」

「ありがと。あたしもエドガーが世界一かっこいいと思う」

「だよな」

 エドガーはご機嫌であたしに笑顔を向けた。単純だよね。かつての婚約者と比べられるのはあまり好きではないけど、あたしだって褒められれば嬉しいから良しとするか。
 
 エドガーって結構モテるのよ。顔も良くて名門の高位貴族で国内有数の資産家の嫡男だから、超優良物件。

 玉の輿だとみんなに羨ましがられると同時にフローラさんだからみんな諦めてたけどって言われたわ。だからガッチリ掴んどかないと誰かにとられるかもしれないわよ。用心しなさいねって友人の忠告。
 ちょっと小バカにされたような気がして癪にさわったけど。平民上がりの男爵令嬢だったら自分でも勝ち目があるんじゃないかって思われているらしいと理由を教えてくれた。

 そんなこんなでアプローチしている令嬢の姿も見るけど、エドガーは眼中にないんだよね。
 あたしにベタ惚れなのは自分でもわかるもん。
 愛されるのは幸せなことだよね。せっかく掴んだ次期侯爵夫人の座。誰かに渡すわけにはいかないもんね。
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