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第二部
ビビアンside⑬
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染み一つないすべすべの白い肌。つやつやでしっとりとした金髪。何色もの色を混ぜ合わせた凝ったエイル。ドレスにイヤリングなどの装飾品も最高級品。
自邸にいるというのに抜かりのなく着飾った姿。
鏡に映った完璧な容姿にそっと溜息を零す。
三男との縁談が持ち込まれた日からメイドが二名増えて、髪、肌など身体の手入れや化粧も今まで以上に入念になり、ドレスや装飾品などもさらに高級品になった。
お母様曰く『せっかく美人に生まれたのだから磨かない手はないわ。ビビアンはもっと美しくなれると思うわよ。輝くような美貌にトーマスさんもあなたを妻にできることが光栄だと思うでしょう。待ち遠しいわね』
げんなりとしてしまったけれど、それから、毎日毎日、身体を磨かれ手入れされて、おかげできれいになったとは思うわ。
食欲が落ちてしまった時だってダイエットしていると勘違いされて『体重を落とさなくても十分に魅力的なスタイルよ』なんてお母様に言われたこともあったわ。
別に三男のために食事制限をしたわけではなくて、精神的にまいっていたせい。そのおかげで益々メリハリが出て理想のスタイルになってしまったのは、皮肉な事よね。
それにしても、愛想がなかったわ。あの三男。
婚約式を思い出す。
両家揃った席でにこりともしない顔。怒っているようには見えなかったけれど、無という表情。わたくしは笑顔を張り付けて愛想よくしていたのに。
あちらの両親がわたくしを見て感涙感激してくれたことは良しとしても、三男は眉一つ動かさなかったわ。平伏さんばかりにしていた両親とは大違い。
二人きりにさせられてお茶をするも話は弾まず続かず、わたくしと目が合うこともほとんどなく終わってしまった。
こんな調子で結婚してから上手くいくのかしら?
『きっと照れてらっしゃるのよ。これから徐々にお互いを知っていけばいいわ。わたくしもそうだったわよ』
なんて、お母様は軽く言うけれど、それはお互いに好意を持っていればこそだと思うわ。とてもじゃないけれど、好意を持たれてるなんて思えなかったもの。わたくしもそうだけれど。確かに実物も美丈夫な人で容姿はよかった。ただそれだけ。
そんな相手と結婚して上手くいくなんて楽観はできない。でも、歩み寄らないといけないのよね。
これがレイニー殿下だったらと思ってしまう。
そうであれば、一も二もなく自分磨きに精を出すのに。詮無い事を思い、また一つ溜息を零した。
「お嬢様。このままトーマス様と結婚なさるのですか?」
わたくしの髪を梳いているエマの声がした。鏡越しにエマと目が合う。悲し気に表情を曇らせた彼女は目を逸らすようにして、止めた手を動かし始めた。
「そうね。もう決まったことだもの」
「そうなのですね。悔しいです。あんなに愛し合っておられたのに、別れなければならないなんて」
エマの表情に無念さが滲み出ていた。彼女は今もわたくしの夢物語を信じている。
嘘を信じているエマが少し不憫に思えてしまった。あれは作り話だったといつか打ち明けた方がいいのかもしれないわ。でも、いつ言えるのかしら。
「でもね、エマ。これからはトーマス様が幸せにしてくださると思うわ。だから大丈夫よ」
覚えたての名前を呼んで、主人の悲恋に沈痛の面持ちで髪を整えるエマに鏡越しに微笑みを作って見せる。幸せになる要素などどこにも見当たらないけれど、結婚すれば変わるかもしれない。希望的観測を信じて明るく笑って見せる。
「お嬢様」
エマは涙をこらえるようにくしゃりと顔を歪めたけれど、すぐに気を取り直していつもの表情に戻った。
支度を整えると姿見で全身を映してみる。
髪型も化粧もドレスもネックレスに至るまでいろんな角度から確かめてみても完璧な装い。三人のメイド達で仕上げたトータルコーディネートだものね。
自分でも見惚れてしまうほどだわ。けれど、足りないものが一つだけ。
フローラの姿を思い出す。
毎日レイニー殿下の送り迎えで学園に来るフローラ。
平凡だと思っていたフローラが美しく見えてしまうようになった。婚約が公にされたことで自信がついたのか、気品も身につけて輝いているように感じる。外見を磨くだけでは得ることのできない幸せオーラ。体の内から光り輝いているようなキラキラと眩しい光を放っている。二人の愛の深さを見せつけられているようで、悔しくて妬ましくて嫉妬で狂いそうになる自分を必死に抑えるしかない。
こんな醜いわたくしの気持ちも時間がたてば消えていくかしら。
そんなことを考えて感傷に浸っているとコンコンとドアを叩く音がして
「お嬢様、よろしいでしょうか」
執事のヨハンの声がした。
珍しい。ヨハンはお父様付きだから、わたくしの部屋には滅多に訪れないのに。
顔を出したヨハンが告げる。
「お嬢様、旦那様よりエマと一緒に至急一階の応接室へ来るようにとのことでございます」
「エマも?」
「はい。お客様がいらっしゃっております。それから、華美な服装ではなく、控え目な服装でお願いいたします」
神妙な面持ちで簡潔に告げたヨハンは頭を下げて部屋を去って行った。取り付く島もなく残されたわたくしとエマ。
お客様って誰なのかしら? 控え目な服装?
肝心なことは伝えられず、疑問符が浮かんだけれど、ボーとしてはいられない。とにかく支度し直さなければ。
何が何だかわからないまま、わたくしたちは応接室に向かった。
自邸にいるというのに抜かりのなく着飾った姿。
鏡に映った完璧な容姿にそっと溜息を零す。
三男との縁談が持ち込まれた日からメイドが二名増えて、髪、肌など身体の手入れや化粧も今まで以上に入念になり、ドレスや装飾品などもさらに高級品になった。
お母様曰く『せっかく美人に生まれたのだから磨かない手はないわ。ビビアンはもっと美しくなれると思うわよ。輝くような美貌にトーマスさんもあなたを妻にできることが光栄だと思うでしょう。待ち遠しいわね』
げんなりとしてしまったけれど、それから、毎日毎日、身体を磨かれ手入れされて、おかげできれいになったとは思うわ。
食欲が落ちてしまった時だってダイエットしていると勘違いされて『体重を落とさなくても十分に魅力的なスタイルよ』なんてお母様に言われたこともあったわ。
別に三男のために食事制限をしたわけではなくて、精神的にまいっていたせい。そのおかげで益々メリハリが出て理想のスタイルになってしまったのは、皮肉な事よね。
それにしても、愛想がなかったわ。あの三男。
婚約式を思い出す。
両家揃った席でにこりともしない顔。怒っているようには見えなかったけれど、無という表情。わたくしは笑顔を張り付けて愛想よくしていたのに。
あちらの両親がわたくしを見て感涙感激してくれたことは良しとしても、三男は眉一つ動かさなかったわ。平伏さんばかりにしていた両親とは大違い。
二人きりにさせられてお茶をするも話は弾まず続かず、わたくしと目が合うこともほとんどなく終わってしまった。
こんな調子で結婚してから上手くいくのかしら?
『きっと照れてらっしゃるのよ。これから徐々にお互いを知っていけばいいわ。わたくしもそうだったわよ』
なんて、お母様は軽く言うけれど、それはお互いに好意を持っていればこそだと思うわ。とてもじゃないけれど、好意を持たれてるなんて思えなかったもの。わたくしもそうだけれど。確かに実物も美丈夫な人で容姿はよかった。ただそれだけ。
そんな相手と結婚して上手くいくなんて楽観はできない。でも、歩み寄らないといけないのよね。
これがレイニー殿下だったらと思ってしまう。
そうであれば、一も二もなく自分磨きに精を出すのに。詮無い事を思い、また一つ溜息を零した。
「お嬢様。このままトーマス様と結婚なさるのですか?」
わたくしの髪を梳いているエマの声がした。鏡越しにエマと目が合う。悲し気に表情を曇らせた彼女は目を逸らすようにして、止めた手を動かし始めた。
「そうね。もう決まったことだもの」
「そうなのですね。悔しいです。あんなに愛し合っておられたのに、別れなければならないなんて」
エマの表情に無念さが滲み出ていた。彼女は今もわたくしの夢物語を信じている。
嘘を信じているエマが少し不憫に思えてしまった。あれは作り話だったといつか打ち明けた方がいいのかもしれないわ。でも、いつ言えるのかしら。
「でもね、エマ。これからはトーマス様が幸せにしてくださると思うわ。だから大丈夫よ」
覚えたての名前を呼んで、主人の悲恋に沈痛の面持ちで髪を整えるエマに鏡越しに微笑みを作って見せる。幸せになる要素などどこにも見当たらないけれど、結婚すれば変わるかもしれない。希望的観測を信じて明るく笑って見せる。
「お嬢様」
エマは涙をこらえるようにくしゃりと顔を歪めたけれど、すぐに気を取り直していつもの表情に戻った。
支度を整えると姿見で全身を映してみる。
髪型も化粧もドレスもネックレスに至るまでいろんな角度から確かめてみても完璧な装い。三人のメイド達で仕上げたトータルコーディネートだものね。
自分でも見惚れてしまうほどだわ。けれど、足りないものが一つだけ。
フローラの姿を思い出す。
毎日レイニー殿下の送り迎えで学園に来るフローラ。
平凡だと思っていたフローラが美しく見えてしまうようになった。婚約が公にされたことで自信がついたのか、気品も身につけて輝いているように感じる。外見を磨くだけでは得ることのできない幸せオーラ。体の内から光り輝いているようなキラキラと眩しい光を放っている。二人の愛の深さを見せつけられているようで、悔しくて妬ましくて嫉妬で狂いそうになる自分を必死に抑えるしかない。
こんな醜いわたくしの気持ちも時間がたてば消えていくかしら。
そんなことを考えて感傷に浸っているとコンコンとドアを叩く音がして
「お嬢様、よろしいでしょうか」
執事のヨハンの声がした。
珍しい。ヨハンはお父様付きだから、わたくしの部屋には滅多に訪れないのに。
顔を出したヨハンが告げる。
「お嬢様、旦那様よりエマと一緒に至急一階の応接室へ来るようにとのことでございます」
「エマも?」
「はい。お客様がいらっしゃっております。それから、華美な服装ではなく、控え目な服装でお願いいたします」
神妙な面持ちで簡潔に告げたヨハンは頭を下げて部屋を去って行った。取り付く島もなく残されたわたくしとエマ。
お客様って誰なのかしら? 控え目な服装?
肝心なことは伝えられず、疑問符が浮かんだけれど、ボーとしてはいられない。とにかく支度し直さなければ。
何が何だかわからないまま、わたくしたちは応接室に向かった。
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