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第二部
新たな思いⅢ
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「好き、よ」
絞り出すように告白した私にディアナの表情が緩んで安堵の溜息が漏れました。喜々とした表情で微笑む彼女の様子にまたもや恥ずかしさがこみ上げてきました。
同時に自分の心に秘めていた気持ちを打ち明けて、胸の内が軽くなったような気もします。それぞれの感情が混在する心中はさておいて、ディアナが難しい顔をしはじめました。
何か問題でもあるのかしら? もしかして私の抱く思いは分不相応だったのかしら? レイ様の事が好きなんて烏滸がましいことだったのかもしれない。黙ったまま片頬に手を置いて思案するディアナに不安な気持ちが押し寄せてきます。
「ねえ、ちょっと、聞いてもいいかしら?」
「ええ」
「今まで聞いたことをまとめるわね。まず、レイニーはフローラの事が好きでプロポーズをした。フローラもレイニーの事が好き。ここまでは合っているわよね?」
「うん。そうね」
改めて聞かれるとなんとも面映ゆくなってしまって、顔が一気に赤くなったわ。ちょっと、熱で汗も出てきたよう。私は扇子で顔を扇ぎました。涼しい風が火照った顔を静めてくれます。
今日は放課後に課題を仕上げにサロンに寄っただけなのに、どうしてこんなことになっているのでしょう。プロポーズの話に発展するなんて思ってもいなかったわ。
「ということは、二人は両想いってことよね。何の問題はないはずなのに、それなのに、恋が成就していないのは何故? フローラはどうしてプロポーズを断ったの?」
「……」
グサッと矢が心臓に刺さったような痛みを覚えました。胸中を抉っていく思い出したくもない暴言の数々。
一筋の涙が頬を伝いました。我慢していたのかもしれません。誰にも言えず相談もできなかった苦悩が溢れ出てしまったのでしょう。
絶句して急に涙を流した私に慌ててディアナが隣に座り込みました。
「ごめんなさい。泣かせるつもりはなかったのよ。責めているわけではないわ」
背中をさすりながら謝ってくれます。
分かっています。ディアナは理由を聞きたいだけ。私が勝手に泣いたのよ。彼女は悪くない。
「相応しくないと思ったの。だから、お断りしたのよ」
涙を指で拭って答えました。ハンカチで残っていた涙を優しく拭いてくれるディアナ。
「どこが相応しくないの?」
「すべてよ。何もかもが相応しくないと思ったの。レイ様に私は似合わないわ」
「そう。すべてなのね。フローラはそう思うのね」
確かめるように反芻するディアナに私はこくんと頷きました。
レイ様への気持ちと結婚は別だと思うから、承諾してはいけないと思ったのよ。
「相応しくないと思っているところを具体的に聞いてもいいかしら?」
詳しく聞きたがるディアナ。胸の内を話すのはつらいけれど、拒否する気にはなれずに訥々と答えました。容姿や性格や傷物だからとずっと言われてきたことを話すとまた涙が零れ落ちて、その度にハンカチで涙を拭いてくれました。
やっと、話し終える頃には気持ちも落ち着いて涙も乾いていました。
「ごめんなさい。ディアナ、迷惑をかけてしまったわ」
泣くつもりはなかったのに、そのせいで気を使わせてしまって申し訳なかったわ。
「わたしのほうこそ、辛いことを話させてしまって悪かったわ。フローラ、ごめんなさいね」
私はフルフルと頭を振りました。辛かったけれど外に吐き出したことで心が少し軽くなったような気がします。重荷が軽荷になったくらい。
「フローラが一番気がかりなのはビビアン様の事よね?」
名前が出た途端、ビクッと体が震えました。先ほども憎々し気に睨まれて体が硬直してしまったこと思い出して、恐怖に鳥肌が立ちました。私の尋常ならざる様子に気づいてくれたのか私の肩を抱きしめてくれました。
「大丈夫よ。さっき言ったでしょう? 彼女にはロジアム侯爵家から縁談が来ているの。両家とも乗り気なのも本当のことよ。近いうちに婚約が成立すると思うわ。だから、心配しなくてもいいのよ」
「……でも、レイ様に相応しいのは、自分だとおっしゃっていたわ」
あの雨の日に執拗なくらいにレイ様に固執していらしたから、彼との縁談があってもおかしくないと思っていました。
「そう。そんなことを。哀れね」
哀れ。
それがどんな意味合いを持つのか、私にはわからないけれど知ろうとは思いませんでした。ロジアム侯爵家から縁談が来ていて纏まる方向で進んでいるのであれば、ビビアン様にとっても良いことなのでしょう。
ただ、レイ様への執念が怖かった。だから、今日を最後に接点がなくなればいいのにと願いました。
ようやく平静さを取り戻した頃に
「フローラに自信を持てというのは、今は酷なことなのかもしれないわね」
鼓膜に響いたディアナの声に、じっと耳を傾けました。自信喪失している私には到底できることではありません。何をどう誇ればいいのかわからないのだから。
「フローラに必要なのはレイニーを信じること。それから、自分の気持ちを大事にすることが幸せになる近道だと思うわよ」
「レイ様を、信じること?」
「そうよ。レイニーはあなたが好きなのだから、それを信じなさい」
私はディアナを見つめて頷きました。
信じることならできるかもしれません。レイ様の笑顔が思い浮かんで、仄かな光が差し込んだような温かい気持ちになりました。
絞り出すように告白した私にディアナの表情が緩んで安堵の溜息が漏れました。喜々とした表情で微笑む彼女の様子にまたもや恥ずかしさがこみ上げてきました。
同時に自分の心に秘めていた気持ちを打ち明けて、胸の内が軽くなったような気もします。それぞれの感情が混在する心中はさておいて、ディアナが難しい顔をしはじめました。
何か問題でもあるのかしら? もしかして私の抱く思いは分不相応だったのかしら? レイ様の事が好きなんて烏滸がましいことだったのかもしれない。黙ったまま片頬に手を置いて思案するディアナに不安な気持ちが押し寄せてきます。
「ねえ、ちょっと、聞いてもいいかしら?」
「ええ」
「今まで聞いたことをまとめるわね。まず、レイニーはフローラの事が好きでプロポーズをした。フローラもレイニーの事が好き。ここまでは合っているわよね?」
「うん。そうね」
改めて聞かれるとなんとも面映ゆくなってしまって、顔が一気に赤くなったわ。ちょっと、熱で汗も出てきたよう。私は扇子で顔を扇ぎました。涼しい風が火照った顔を静めてくれます。
今日は放課後に課題を仕上げにサロンに寄っただけなのに、どうしてこんなことになっているのでしょう。プロポーズの話に発展するなんて思ってもいなかったわ。
「ということは、二人は両想いってことよね。何の問題はないはずなのに、それなのに、恋が成就していないのは何故? フローラはどうしてプロポーズを断ったの?」
「……」
グサッと矢が心臓に刺さったような痛みを覚えました。胸中を抉っていく思い出したくもない暴言の数々。
一筋の涙が頬を伝いました。我慢していたのかもしれません。誰にも言えず相談もできなかった苦悩が溢れ出てしまったのでしょう。
絶句して急に涙を流した私に慌ててディアナが隣に座り込みました。
「ごめんなさい。泣かせるつもりはなかったのよ。責めているわけではないわ」
背中をさすりながら謝ってくれます。
分かっています。ディアナは理由を聞きたいだけ。私が勝手に泣いたのよ。彼女は悪くない。
「相応しくないと思ったの。だから、お断りしたのよ」
涙を指で拭って答えました。ハンカチで残っていた涙を優しく拭いてくれるディアナ。
「どこが相応しくないの?」
「すべてよ。何もかもが相応しくないと思ったの。レイ様に私は似合わないわ」
「そう。すべてなのね。フローラはそう思うのね」
確かめるように反芻するディアナに私はこくんと頷きました。
レイ様への気持ちと結婚は別だと思うから、承諾してはいけないと思ったのよ。
「相応しくないと思っているところを具体的に聞いてもいいかしら?」
詳しく聞きたがるディアナ。胸の内を話すのはつらいけれど、拒否する気にはなれずに訥々と答えました。容姿や性格や傷物だからとずっと言われてきたことを話すとまた涙が零れ落ちて、その度にハンカチで涙を拭いてくれました。
やっと、話し終える頃には気持ちも落ち着いて涙も乾いていました。
「ごめんなさい。ディアナ、迷惑をかけてしまったわ」
泣くつもりはなかったのに、そのせいで気を使わせてしまって申し訳なかったわ。
「わたしのほうこそ、辛いことを話させてしまって悪かったわ。フローラ、ごめんなさいね」
私はフルフルと頭を振りました。辛かったけれど外に吐き出したことで心が少し軽くなったような気がします。重荷が軽荷になったくらい。
「フローラが一番気がかりなのはビビアン様の事よね?」
名前が出た途端、ビクッと体が震えました。先ほども憎々し気に睨まれて体が硬直してしまったこと思い出して、恐怖に鳥肌が立ちました。私の尋常ならざる様子に気づいてくれたのか私の肩を抱きしめてくれました。
「大丈夫よ。さっき言ったでしょう? 彼女にはロジアム侯爵家から縁談が来ているの。両家とも乗り気なのも本当のことよ。近いうちに婚約が成立すると思うわ。だから、心配しなくてもいいのよ」
「……でも、レイ様に相応しいのは、自分だとおっしゃっていたわ」
あの雨の日に執拗なくらいにレイ様に固執していらしたから、彼との縁談があってもおかしくないと思っていました。
「そう。そんなことを。哀れね」
哀れ。
それがどんな意味合いを持つのか、私にはわからないけれど知ろうとは思いませんでした。ロジアム侯爵家から縁談が来ていて纏まる方向で進んでいるのであれば、ビビアン様にとっても良いことなのでしょう。
ただ、レイ様への執念が怖かった。だから、今日を最後に接点がなくなればいいのにと願いました。
ようやく平静さを取り戻した頃に
「フローラに自信を持てというのは、今は酷なことなのかもしれないわね」
鼓膜に響いたディアナの声に、じっと耳を傾けました。自信喪失している私には到底できることではありません。何をどう誇ればいいのかわからないのだから。
「フローラに必要なのはレイニーを信じること。それから、自分の気持ちを大事にすることが幸せになる近道だと思うわよ」
「レイ様を、信じること?」
「そうよ。レイニーはあなたが好きなのだから、それを信じなさい」
私はディアナを見つめて頷きました。
信じることならできるかもしれません。レイ様の笑顔が思い浮かんで、仄かな光が差し込んだような温かい気持ちになりました。
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