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第二部
公爵家のお茶会にてⅣ
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「フローラの言う通り、婚約解消後は元気だったかもしれないけれど、その前は違ったでしょう? あなたが色々な事に傷ついているのは気づいていたの」
えっ……⁈
知っていたのですか?
エドガー様との事。寄り添うどころか、会うたびに嫌味を言われて邪険にされていた事を知っていた? まさか?
もしかして、仕事の事とかもかしら? どこまで何を知っているのでしょう?
愚痴や不満は胸におさめたまま、お母様たちには一言も話したことはなかったと思うのですが……
どこで? いつ? ばれてしまっていたのでしょう。
突然のカミングアウトに私の頭がついていきません。
「謝らなくていけないのはわたくしもそうだわ。ごめんなさいね。もう少し早く手を打たなくてはならなかったのに、遅くなってしまって。そのせいであなたに要らぬ苦労をかけてしまったわ」
えっ……いや、あの……
ここで、突然に謝られても……
カミングアウトが衝撃的すぎて、すぐに返事ができません。頭の整理もつかないですし。
気持ちを落ち着けるために、薄いピンク色をした白桃の炭酸ジュースを口に含みました。シュワシュワとした炭酸が程よく喉を刺激して潤してくれます。
はあ。まさか、こんなところで衝撃的な言葉を聞くなんて。
気持ちが幾分か落ち着いたところで考えてみると、エドガー様との婚約は今回の騒動がなくても解消されたってことなのかしら?
政略結婚だから、たとえ仲が良くなくても結婚することはよくあることだし、そこは目をつぶって上手く付き合っている人もいます。私の場合もそんなものだと思っていました。
愛のある結婚なんて夢のまた夢。
両家のためにも自分が我慢すればよいと思っていたけれど。幸いに私には課せられた仕事があったから、それを生きがいに結婚生活を送ればいいと諦念していました。
お母様はそんな私の気持ちを察していて考えてくれていたのですね。お父様もなのでしょうね。
「お母様、心配をかけてしまい、すみませんでした」
他にいう言葉は見つからず……
「心配するのは親の役目なのだから気にすることはないのよ。それに、今あなたが幸せであればそれが一番だわ」
「それでいいのですか?」
「ええ、それでいいのよ。子供の幸せを願わない親なんていないわ。もちろん、仕事だって大切よ。でもね、子供の不幸の上に成り立つ仕事なんてブルーバーグ家には必要ないわ。フローラ、あなたはこれから、自分の幸せを第一に考えて人生を歩んでほしいわ。それがわたくしたち親の願いよ」
お母様は温かいまなざしを向けると、優しく微笑んでくれました。
私の幸せ。
それはいったい何なのでしょう。
研究をすること。
人が喜ぶ商品を開発すること。
それも私の幸せの一つです。
他にも何かあるかしら? 笑顔でいられる幸せ。
もう一度、考えてみようと思いました。
私が幸せでいることが、お母様たちの幸せになることを願って。
「ちょっと、時間を取ってしまったわね。さあ、これから挨拶に回りましょうか」
お母様が気分を一新するように明るい声で話しかけました。
「はい」
私も自分の思考は置いておいて大きく頷いて返事を返します。
お茶会に参加した目的は、サムシューズの評判を聞くことと次にオープンするカフェの宣伝のため。事前に公爵夫人にも許可を頂いています。
多くの貴族が集まるところは事業の良い宣伝になりますから。ただ、過度になりすぎないように気をつけなければなりませんけれど。
オープン一か月前には、自邸でアフタヌーンティーパーティーを開いてメニューのお披露目を行う予定です。次々とスケジュールが決まっていくので、これから忙しくなります。
お母様の後ろから歩いて行きながら、後ろを振り返りました。
エリザベス様と話をした場所。そこにはもう誰もいませんでした。エリザベス様の姿は見当たりませんでしたが、私たちと同じように挨拶に回っていらっしゃるのでしょう。
婚約を解消したことは後悔していませんが、ただ一つだけ、未練が残っています。
それは、仕事に携わった現地に行けなかったことです。
責任者として現地での説明は事業主であるお父様が行ったのですが、できれば、私も現地に赴いて事の経緯を話してお詫びをしたかった。
領民や現場担当の方々との信頼関係も築けていたから、激怒されてもガッカリされてもいいので、数年間携わった者としてしっかりと話がしたかった。今でもそう思っています。
それが、唯一の心残りでした。
えっ……⁈
知っていたのですか?
エドガー様との事。寄り添うどころか、会うたびに嫌味を言われて邪険にされていた事を知っていた? まさか?
もしかして、仕事の事とかもかしら? どこまで何を知っているのでしょう?
愚痴や不満は胸におさめたまま、お母様たちには一言も話したことはなかったと思うのですが……
どこで? いつ? ばれてしまっていたのでしょう。
突然のカミングアウトに私の頭がついていきません。
「謝らなくていけないのはわたくしもそうだわ。ごめんなさいね。もう少し早く手を打たなくてはならなかったのに、遅くなってしまって。そのせいであなたに要らぬ苦労をかけてしまったわ」
えっ……いや、あの……
ここで、突然に謝られても……
カミングアウトが衝撃的すぎて、すぐに返事ができません。頭の整理もつかないですし。
気持ちを落ち着けるために、薄いピンク色をした白桃の炭酸ジュースを口に含みました。シュワシュワとした炭酸が程よく喉を刺激して潤してくれます。
はあ。まさか、こんなところで衝撃的な言葉を聞くなんて。
気持ちが幾分か落ち着いたところで考えてみると、エドガー様との婚約は今回の騒動がなくても解消されたってことなのかしら?
政略結婚だから、たとえ仲が良くなくても結婚することはよくあることだし、そこは目をつぶって上手く付き合っている人もいます。私の場合もそんなものだと思っていました。
愛のある結婚なんて夢のまた夢。
両家のためにも自分が我慢すればよいと思っていたけれど。幸いに私には課せられた仕事があったから、それを生きがいに結婚生活を送ればいいと諦念していました。
お母様はそんな私の気持ちを察していて考えてくれていたのですね。お父様もなのでしょうね。
「お母様、心配をかけてしまい、すみませんでした」
他にいう言葉は見つからず……
「心配するのは親の役目なのだから気にすることはないのよ。それに、今あなたが幸せであればそれが一番だわ」
「それでいいのですか?」
「ええ、それでいいのよ。子供の幸せを願わない親なんていないわ。もちろん、仕事だって大切よ。でもね、子供の不幸の上に成り立つ仕事なんてブルーバーグ家には必要ないわ。フローラ、あなたはこれから、自分の幸せを第一に考えて人生を歩んでほしいわ。それがわたくしたち親の願いよ」
お母様は温かいまなざしを向けると、優しく微笑んでくれました。
私の幸せ。
それはいったい何なのでしょう。
研究をすること。
人が喜ぶ商品を開発すること。
それも私の幸せの一つです。
他にも何かあるかしら? 笑顔でいられる幸せ。
もう一度、考えてみようと思いました。
私が幸せでいることが、お母様たちの幸せになることを願って。
「ちょっと、時間を取ってしまったわね。さあ、これから挨拶に回りましょうか」
お母様が気分を一新するように明るい声で話しかけました。
「はい」
私も自分の思考は置いておいて大きく頷いて返事を返します。
お茶会に参加した目的は、サムシューズの評判を聞くことと次にオープンするカフェの宣伝のため。事前に公爵夫人にも許可を頂いています。
多くの貴族が集まるところは事業の良い宣伝になりますから。ただ、過度になりすぎないように気をつけなければなりませんけれど。
オープン一か月前には、自邸でアフタヌーンティーパーティーを開いてメニューのお披露目を行う予定です。次々とスケジュールが決まっていくので、これから忙しくなります。
お母様の後ろから歩いて行きながら、後ろを振り返りました。
エリザベス様と話をした場所。そこにはもう誰もいませんでした。エリザベス様の姿は見当たりませんでしたが、私たちと同じように挨拶に回っていらっしゃるのでしょう。
婚約を解消したことは後悔していませんが、ただ一つだけ、未練が残っています。
それは、仕事に携わった現地に行けなかったことです。
責任者として現地での説明は事業主であるお父様が行ったのですが、できれば、私も現地に赴いて事の経緯を話してお詫びをしたかった。
領民や現場担当の方々との信頼関係も築けていたから、激怒されてもガッカリされてもいいので、数年間携わった者としてしっかりと話がしたかった。今でもそう思っています。
それが、唯一の心残りでした。
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