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ブルーバーグ侯爵夫人side②
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「はあ……」
隣から大きなため息が聞こえた。
ローレンツが肩を落として小さくなっているわ。
仕事がひと段落着いた昼下がり。
リビングに繋がるテラスでわたくしと夫であるローレンツはお茶をしながら休憩をしているところだった。
「あなた、どうしたのですか? 元気がないようですけれど」
紅茶を手にローレンツに話しかけると「うーん」と気のない返事が返ってくる。しょんぼりとしている彼を横目にわたくしはケーキに意識を向けた。何を考えているのかなんとなく想像は出来るので敢えて黙ったまま、放っておいた。
今日のお菓子は苺のショートケーキ。
生クリームをたっぷりと使い、スライスした苺の断面が美しい。トッピングには大振りの苺とフランベしたダイス状の苺、いろどりには細かく刻んだピスタチオ。
見た目も完璧ね。おいしそうだわ。
出来上がりに満足したわたくしはフォークで一口大に切ったケーキを口に運ぶ。
「んー。美味しい。これなら何個でも食べれそうだわ」
わたくしの言葉が聞こえていたのか、ローレンツが目の前にそっとケーキを差し出した。
「まあ、ありがとう」
お茶の時間のいつもの光景。
ローレンツは甘いものが苦手だから食べずにわたくしに回してくれるのよね。
苦手だからと言って出すことを拒否することはないので、わたくしが代わりに食べている。
これは甘いものが大好きなわたくしへの愛情であり心遣いね。
何度か試行錯誤を繰り返し出来上がったケーキ。この出来ならお店に出せそうね。
最近はスィーツとカフェのお店用の商品開発に忙しい。
シェフやパティシエとの打ち合わせ。お店のレイアウトなどで時間がいくらあっても足りないくらい。
フローラも学業もあるのにわたくしの片腕になって働いてくれているわ。
トリッシュ医師との商談も控えているから、ますます忙しくなりそう。自分の時間も欲しいでしょうに不満に思うどころか、次々とアイディアを持ってくるんですもの。その努力と精神には脱帽してしまうわ。
オープンの日が待ち遠しい。わたくしもフローラに負けないように頑張らなきゃね。
「あなた、いつまで渋い顔をしていらっしゃいますの? せっかくの紅茶が冷めてしまいますわよ」
わたくしが新たな使命感に燃えているというのに、ローレンツはしおれた草のようになっているわ。
「ああ……」
言われるがまま、紅茶に口をつけるローレンツ。
濃紺の髪に琥珀の瞳。若い頃は美青年だと評判で令嬢たちの憧れの的だった。今でもそのかっこよさは変わらないけれど、年を経た分深みが増していてとても魅力があるように思う。
出会った頃の彼よりも今の方がずっと素敵だし好きだわ。
今は落ち葉のごとく枯れていますけども。
「フローラは……」
やっぱりね。
「今頃は、レイニー王子殿下とお会いしている頃ではないかしら?」
ずっしりと落ち込んでいるローレンツの肩がピクリと動く。
「どうしても、王子殿下でなければだめなのかね?」
「二度目はないでしょうね」
わたくしのとどめともいえる言葉にさらに小さく項垂れてしまったわ。
三年前に断った時は、わたくしたちの思いをくんでくださったけれど、王家からの婚姻の申し込みを何度も断れるはずはない。
「わかってはいるんだよ。しかしだな。もう少しの間、手元に置いておけるものだとばかり思っていたから」
「それはわかりますわ。フローラも結婚する気はなさそうでしたものね」
「そうだろう? だから、安心していたんだ」
わたくしが同意したからか、ローレンツが急に元気になりましたわね。
婚約破棄のあと、フローラの結婚願望は消えたと思っていた。エドガーから散々罵られていて嫌われていたんですものね。結婚に夢なんて見ることはできなかったでしょう。
そこに救いの神なのか、なんなのか新たな婚約者候補が現れるなんて……というより、仕組まれるとは思わなかったわ。
このことはローレンツには内緒にしときますけどね。
隣から大きなため息が聞こえた。
ローレンツが肩を落として小さくなっているわ。
仕事がひと段落着いた昼下がり。
リビングに繋がるテラスでわたくしと夫であるローレンツはお茶をしながら休憩をしているところだった。
「あなた、どうしたのですか? 元気がないようですけれど」
紅茶を手にローレンツに話しかけると「うーん」と気のない返事が返ってくる。しょんぼりとしている彼を横目にわたくしはケーキに意識を向けた。何を考えているのかなんとなく想像は出来るので敢えて黙ったまま、放っておいた。
今日のお菓子は苺のショートケーキ。
生クリームをたっぷりと使い、スライスした苺の断面が美しい。トッピングには大振りの苺とフランベしたダイス状の苺、いろどりには細かく刻んだピスタチオ。
見た目も完璧ね。おいしそうだわ。
出来上がりに満足したわたくしはフォークで一口大に切ったケーキを口に運ぶ。
「んー。美味しい。これなら何個でも食べれそうだわ」
わたくしの言葉が聞こえていたのか、ローレンツが目の前にそっとケーキを差し出した。
「まあ、ありがとう」
お茶の時間のいつもの光景。
ローレンツは甘いものが苦手だから食べずにわたくしに回してくれるのよね。
苦手だからと言って出すことを拒否することはないので、わたくしが代わりに食べている。
これは甘いものが大好きなわたくしへの愛情であり心遣いね。
何度か試行錯誤を繰り返し出来上がったケーキ。この出来ならお店に出せそうね。
最近はスィーツとカフェのお店用の商品開発に忙しい。
シェフやパティシエとの打ち合わせ。お店のレイアウトなどで時間がいくらあっても足りないくらい。
フローラも学業もあるのにわたくしの片腕になって働いてくれているわ。
トリッシュ医師との商談も控えているから、ますます忙しくなりそう。自分の時間も欲しいでしょうに不満に思うどころか、次々とアイディアを持ってくるんですもの。その努力と精神には脱帽してしまうわ。
オープンの日が待ち遠しい。わたくしもフローラに負けないように頑張らなきゃね。
「あなた、いつまで渋い顔をしていらっしゃいますの? せっかくの紅茶が冷めてしまいますわよ」
わたくしが新たな使命感に燃えているというのに、ローレンツはしおれた草のようになっているわ。
「ああ……」
言われるがまま、紅茶に口をつけるローレンツ。
濃紺の髪に琥珀の瞳。若い頃は美青年だと評判で令嬢たちの憧れの的だった。今でもそのかっこよさは変わらないけれど、年を経た分深みが増していてとても魅力があるように思う。
出会った頃の彼よりも今の方がずっと素敵だし好きだわ。
今は落ち葉のごとく枯れていますけども。
「フローラは……」
やっぱりね。
「今頃は、レイニー王子殿下とお会いしている頃ではないかしら?」
ずっしりと落ち込んでいるローレンツの肩がピクリと動く。
「どうしても、王子殿下でなければだめなのかね?」
「二度目はないでしょうね」
わたくしのとどめともいえる言葉にさらに小さく項垂れてしまったわ。
三年前に断った時は、わたくしたちの思いをくんでくださったけれど、王家からの婚姻の申し込みを何度も断れるはずはない。
「わかってはいるんだよ。しかしだな。もう少しの間、手元に置いておけるものだとばかり思っていたから」
「それはわかりますわ。フローラも結婚する気はなさそうでしたものね」
「そうだろう? だから、安心していたんだ」
わたくしが同意したからか、ローレンツが急に元気になりましたわね。
婚約破棄のあと、フローラの結婚願望は消えたと思っていた。エドガーから散々罵られていて嫌われていたんですものね。結婚に夢なんて見ることはできなかったでしょう。
そこに救いの神なのか、なんなのか新たな婚約者候補が現れるなんて……というより、仕組まれるとは思わなかったわ。
このことはローレンツには内緒にしときますけどね。
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