上 下
2 / 195

退場したのは……

しおりを挟む
「フローラ。フローラ、聞いているのか?」

 エドガー様のひときわ大きな声がシンと静まり返ったホールに響き渡ります。

「聞いておりますわ」

 年に一度のダンスパーティーは生徒にとって一大イベントの大事な日。みんなこの日のために、ダンスの練習に励みドレスを仕立てて楽しみにしているのに、こんな私的なことでパーティーを台無しにしてはいけません。

「だったら、返事をしろ」

「申し訳ございません」

 私は前に進むと二人の正面に来ました。

 まぶしいですわ。
 ライトがリリア様のドレスを照らしてさらにきらびやかさが増しています。目がチカチカして直視できません。
 仕方なく幾分落ち着いているスーツ姿のエドガー様を見つめました。リリア様は視界に入れないようにしましょう。お隣にくっついていらっしゃるので難しいですけれど。
 二度見三度見なんてできません。あの方たちはとても目が丈夫なのね。私には一度で十分です。

 それにエドガー様も平然と横に並んでいらっしゃるのだもの。ド派手なドレスに耐えられないときらびやかさは手に入らないのね。とてもじゃないけど、私では無理だわ。

 私のドレスもピンクダイヤやブルーダイヤをちりばめてあって、キラキラ輝いていてとてもきれいだと思っていたけれど、リリア様の金箔を張りつけたかのようなギラギラしさと星を模したような水色のガラスの装飾には勝てません。完敗です。
 
「俺はリリアと結婚する。わかったな?」

「はい。婚約破棄の件、承知いたしました。私に異論はございません。お二人はとてもお似合いです。どうぞ、リリア様とお幸せに」

 私は最大の礼をとりながら返事をしました。

「ああ、ありがとう」

 エドガー様は満面の笑みで微笑みました。初めて私に向けたエドガー様の笑顔。笑えたのですね。私の前では眉間のしわを寄せ仏頂面しか見たことはありませんでした。

 私がほっとしていると周りから、おおっとどよめきが起こりました。ざわめきも聞こえます。拍手こそ起きませんでしたが、雰囲気はよさそうです。険悪なムードは感じません。ダンスパーティーが中断されたというのに、皆さん心が広い方たちばかりなのね。

「リリア。よかったな。君と結婚できるよ」

「はい。エドガー様、嬉しいです」

 二人はお互い微笑みあうと抱きしめ合いました。
 これが本当の恋人同士なのでしょう。完全に二人の世界です。素っ気ない態度であいさつを交わすだけだった私とエドガー様の仲とは全然違います。

「それじゃ、踊ろうか」

 エドガー様がリリア様に手を差し伸べると、リリア様ははにかんだように顔を赤らめながら手を重ねました。
 まぶしさに目を細めながらなんとか二人の様子をうかがい知ることができました。きっと、二人は幸せになられることでしょう。

 やはり、婚約解消してよかった。
 これ以上いてもお邪魔でしょうし、それでは退場いたしましょう。

「エドガー・テンネル、リリア・チェント。待ちなさい」

 踵を返そうとしたところで、学園長の声がしました。
 そういえば、ダンスパーティーは学園主催。先生方も当然出席していらっしゃいます。

 壇上を降りようとしていたエドガー様とリリア様が警備隊に捕まっていました。

「二人とも別室で話を聞かせてもらおう」

「なんでですか? これからダンスを……」

「何度も言わせるな」

 有無を言わせない学園長の声にびくりと肩を震わせたお二人ですが、結局抵抗することなくおとなしく連れていかれました。


 扉が閉まりシンと静まり返ったホールに再び音楽が流れ始めました。

「さあ、時間はまだあるから、これから大いに楽しもう」

 生徒会長の声が高らかに響きます。
 みんなはその声に促されるように中央に進み踊り始めました。
 
 退場の機会を失った私でしたが、このどさくさに紛れて帰りましょう。

 エドガー様とリリア様は大丈夫かしら? 
 馬車の中で学園長の怒った顔を思い出し二人のことが心配になりました。

 お父様に報告しなくては……

 一つだけ気がかりなことがあります。
 結婚がなくなればあの条件も白紙になるということ。
 どうしましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです

茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです シェリーは新しい恋をみつけたが……

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!

榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。 理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。 そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ? まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約者に見殺しにされた愚かな傀儡令嬢、時を逆行する

蓮恭
恋愛
 父親が自分を呼ぶ声が聞こえたその刹那、熱いものが全身を巡ったような、そんな感覚に陥った令嬢レティシアは、短く唸って冷たい石造りの床へと平伏した。  視界は徐々に赤く染まり、せっかく身を挺して庇った侯爵も、次の瞬間にはリュシアンによって屠られるのを見た。 「リュシ……アン……さ、ま」  せめて愛するリュシアンへと手を伸ばそうとするが、無情にも嘲笑を浮かべた女騎士イリナによって叩き落とされる。 「安心して死になさい。愚かな傀儡令嬢レティシア。これから殿下の事は私がお支えするから心配いらなくてよ」  お願い、最後に一目だけ、リュシアンの表情が見たいとレティシアは願った。  けれどそれは自分を見下ろすイリナによって阻まれる。しかし自分がこうなってもリュシアンが駆け寄ってくる気配すらない事から、本当に嫌われていたのだと実感し、痛みと悲しみで次々に涙を零した。    両親から「愚かであれ、傀儡として役立て」と育てられた侯爵令嬢レティシアは、徐々に最愛の婚約者、皇太子リュシアンの愛を失っていく。  民の信頼を失いつつある帝国の改革のため立ち上がった皇太子は、女騎士イリナと共に謀反を起こした。  その時レティシアはイリナによって刺殺される。  悲しみに包まれたレティシアは何らかの力によって時を越え、まだリュシアンと仲が良かった幼い頃に逆行し、やり直しの機会を与えられる。  二度目の人生では傀儡令嬢であったレティシアがどのように生きていくのか?  婚約者リュシアンとの仲は?  二度目の人生で出会う人物達との交流でレティシアが得たものとは……? ※逆行、回帰、婚約破棄、悪役令嬢、やり直し、愛人、暴力的な描写、死産、シリアス、の要素があります。  ヒーローについて……読者様からの感想を見ていただくと分かる通り、完璧なヒーローをお求めの方にはかなりヤキモキさせてしまうと思います。  どこか人間味があって、空回りしたり、過ちも犯す、そんなヒーローを支えていく不憫で健気なヒロインを応援していただければ、作者としては嬉しい限りです。  必ずヒロインにとってハッピーエンドになるよう書き切る予定ですので、宜しければどうか最後までお付き合いくださいませ。      

世間知らずの王女は公爵令息様から逃げる事は出来ません

Karamimi
恋愛
エレフセリア王国の小さな村で、母親と2人静かに暮らしていた9歳の少女、オリビア。彼女は恋愛小説、特にヒロインが病んだヒーローに囚われる話が大好きな女の子だ。 そんなある日、オリビア達の前に父親と名乗る男性が現れた。自分と同じ銀色の髪に赤い瞳をした男性は、オリビアを愛おしそうに抱きしめる。 どうやら彼は、ペリオリズモス王国の国王で、行方不明になっていたオリビアの母を10年もの間探し続けていたらしい。 国に帰る事を渋る母親を説得し、父親と3人で帰る事を決意するオリビア。ただ父親は、オリビアの大好きな小説のヒーロー同様非情に嫉妬深く、母親だけでなくオリビアまでも王宮から出る事を禁じてしまう。 それでもそれなりに楽しく生きていたオリビアの前に、1人の少年が現れ… 世間知らずな平民上がりの王女と、そんな彼女の虜になってしまった公爵令息の恋のお話です。 ご都合主義全開、ヤンデレ?系のお話です。 よろしくお願いしますm(__)m

転生した悪役令嬢は異世界でメイドカフェを開きます。あ、勇者様はスポンサーでお願いします!

高井うしお
ファンタジー
リリアンナは冷たい言葉と共に王子に婚約破棄された。しかしそれは彼女の目的の序章に過ぎなかったのだ。 「私、メイドカフェの妖精さん(運営する人)になれるなら鬼になります!」 「え?」  リリアンナは異世界転生したメイドフェチだったのである。  一方、高校生の時に異世界転移し、魔王討伐を終えた勇者ハルトは褒美に領地を与えられ、悠々自適の生活を送る予定だった。  だが、ついでに王からリリアンナを花嫁として押し付けられる。 こいつは、やばい!だが……。 「離婚? やだ、王の名前で鳴り物入りで結婚したのに出来るわけないじゃないですかー」 かくして、ハルトは魔王よりやっかいな嫁とともにメイドカフェを経営することに……? ━━━━━━━━━━━━━━━ お陰様でホットランキングにのれました。 ありがとうございます。 お気に入り登録をぜひお願いします!

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...