五仕旗 3rd Generation

旋架

文字の大きさ
上 下
21 / 56
§1 六繋天邂逅編

#8 真に他人を思える人は Part1

しおりを挟む
「あー!」

両手でなぎ払った本は、ブックスタンドから床に飛び込み、綺麗に整えられた部屋の調和を乱した。

「(そう怒るものでもない)」

「うるせぇー!」

金貨は頭に聞こえてくるその声をかき消そうとした。

「俺があんなロクでもないザコに負けるなんてことはありえねぇんだよ!
あっちゃならねぇんだ! そんなことは!」

「(聞け! まだ層上充快を打ち負かす方法は残されている!)」

「!?」

「(冷静になれ。
なにも六繋天は、層上充快だけが所持しているものではない。
あの会場でお前自身が口にしていたことではないか)」

「…!」

「(気づいたか?)」

「(あぁ…俺としたことが、こんなつまんねぇことを見落とすとはな)」

「(しかし、念には念を入れろ。
万が一、貴様が奴らに敗北した場合…)」

「俺が二度も負けることはねぇ!」

「(進歩のない男だ。その傲慢ごうまんさやおごりから、見下していた層上やつに大敗を喫したのではないのか?)」

「ちっ…」

「(万が一!
奴らに敗北した場合、貴様がどうなるかは未知数だ。
六繋天同士が絡む争い。負けた者がどうなるかは想像がつかぬ。
貴様が再起不能の状態になった後、奴らに六繋天が渡るのはしゃくではないか?)」

「(確かになぁ、俺以外に六繋天を揃える奴が出てくるのは胸糞わりぃ!)」

「(ならば…)」

その声は金貨に何かを告げる。

「(そいつはいい…)」

テレビ会議用の電話が鳴る。

「なんだ!」

「翼様、頼まれていたカードが完成したと報告を受けました」

ニヤリと笑う金貨。

**********

<廃墟>

風増はいつも皆で集まっている廃墟に来ていた。

充快がいるかもしれないと思ったからである。

部屋のドアを開けると、充快が立っていた。

「層上…」

充快が振り返る。

「鞍端…
ごめんな。電話何回もくれたのに…
俺、全然出なくて…」

「いや、悪いのは俺だから…」

沈黙が訪れる。

「層上。本当にごめん」

風増が頭を下げる。

「俺、六繋天を集めることしか考えてなかった。
六繋天が集まりさえすれば、他人の気持ちは仕方のないことだと。
だけど、気づいたんだよ。
層上、お前は五仕旗が好きなんだろ?」

充快は微かに反応する。

「俺、ここに来る前にある人と五仕旗で勝負して、五仕旗を始めた頃のことを思い出したんだよな。
あの頃はパックからどんなカードが出てくるのか、相手のカードがどんな効果を持っているのか、窮地きゅうちをどうやったら乗り越えられるのか、全部楽しかった」

「…」

「それなのに俺は、【蒼穹の弓獅】だけじゃなく、そういうものもお前から取り上げようとしてた。
だから、お前が六繋天を集めることに協力してくれなくてもいい。俺のことなんか嫌いになってくれても構わない!
ただお前がそれでも五仕旗を好きでいてくれるなら、お前にはこれからも五仕旗を続けてほしいんだよ!」

「!」

「それから、これ…」

風増がカードを渡す。

「知り合いからもらったんだ。試作品のカードなんだけど、俺のデッキには使えないから」

「ありがとう」

充快はカードを受け取る。

「…」

「ちょっ、ちょっと、頭の整理がまだできてなくて…。
ごめん」

充快は部屋から出て行ってしまった。

**********

「そうか~、う~ん…」

「とりあえず、謝りたいことは全部言えた。
六繋天集めに協力してくれなくてもいいとも言った。
だから、後悔はないけど…」

「やっぱ、このまま居なくなっちゃうのは悲しいよな…」

「うん…」

片耳を画面で塞いだまま、時が流れる。

「よし!
充快にとっちゃ、ちょっとウゼェかもしれないけど、
ここは、お兄さんが一肌脱ぎますかな!」

「知介さん…」

「まぁ、ここは俺に任せろ。
やるだけのことをやってダメなら仕方ないよ!」

「ありがとう。心強いよ」

**********

<廃墟>

数日後。

「やっぱりここにいたか」

背後からのその声に少し驚く充快。

「知介さん」

「ここ、居心地いいか?」

充快がうなずく。

「この前も、みんなに会えるかなって思ってここに来たんだ。
そしたら鞍端と会って、少し話をして…」

知介は何も知らないフリをした。

「仲直り、できた?」

充快は首を横に振る。

「鞍端は謝ってくれたけど、俺はほとんど何も言わずに出て行っちゃった」

「充快は? 五仕旗、続けたい?」

「うん。五仕旗は楽しいから続けたいよ」

「そうか」

知介はそれ以上質問するのをやめた。

「風増は悪い奴じゃないよ」

「!」

「金貨は、六繋天を奪いとろうとしてたからって理由で、自分と風増が同じみたいな言い方してたけど、俺は違うと思う。
それはお前も感じてるんじゃないのか?」

「…」

「少なくとも俺は、いつでもウェルカムだからさ。
気が向いたらまたここで会おうよ」

それだけ言うと、知介は出て行った。

**********

<廃墟>

夜。

「アドレスはhttp://…」

番組ホームページのアドレスが告げられる。

「ここからはテーマメール。
今週のメールテーマは"うわっ! やられた!"。
リスナーの皆さんが"やられた!"と思った出来事を送ってもらっています。
RNラジオネーム:夏でもおでん
僕の"やられたー"という事件は、子どもの頃、近所の公園で友達とカードゲームをしていた時、カードを全部盗まれたことです。
自転車のカゴにカードを入れておいたのですが、少し目を離した隙に全部なくなっていました。
お年玉を使って買ったレアカードもあったので、すごくショックでした。
カードか…。これ誰がやるんだろうね? 大人?
でも大人がこんなことするか? 売ったら高いカードとかもあんのかもしれないけど、そんな詳しい人もいないよな。
子どもかな、多分、おんなじ年くらいの。
ん~、良くないよな、こういうの。
子どもだとしたら、強いカード欲しいとかレアカード欲しいとか、そういう感じだと思うけど。
あっ、でも、この前ニュースでカードショップからカード盗まれたっていってたな。
いるのか、大人でも。カード欲しい人は」

スタッフがパーソナリティーに何かを伝える。

「ん? なに? うん、被害総額…
えっ!? 数百万!? そんなすんの!? カードって!?
うん、うん。あー、大会商品とかは希少価値高いから…
価格が高騰する。
あー、そうなんだ。すげぇな。へー。
まぁ、なんにしても、ものをるってのはダメなことですから。みなさんもこういう事件には気をつけてもらって…」

その時、どこからかパタパタという音が聞こえてきた。
その音は次第に増し、遂に、ケータイからの話し声をかき消した。

「なんだ?」

知介が外を確認すると、向かいの建物の屋上にヘリコプターがとまっていた。
機体には見慣れた企業のロゴが描かれている。

「まさか…」

急いで屋上への階段を駆け上がる。
向かいの建物の屋上から声が聞こえてきた。

「よー! 久しぶりだな!」

「金貨!」

**********

<層上家宅>

一人考えごとをしている充快。
【蒼穹の弓獅】のカードを見つけた物置きにいた。

「(【蒼穹の弓獅】。
このカードはここで見つけたんだよな。
初めて五仕旗をやった時も、このカードで勝負が決まったんだっけ…ん?)」

物置きを見渡していると、物と物が作り出した影の中に五仕旗のカードが落ちているのが見えた。

「こんなところにもあったんだ」

カードを見てみると、色が薄くなっていた。
イラストは何が描かれているのかほとんど分からず、カード名やテキストも読めそうで読めない。

「なにこれ?」

部屋にそのカードを持ち帰る。

詳細は不明だったが、青い色をしていたので、先兵モンスターカードであることはかろうじて分かった。

モンスターデッキのカードと、そのカードを入れ替える。

**********

<廃墟>

屋上では、知介と金貨の勝負が始まろうとしていた。

「五仕旗…」

「3rd Generation!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五仕旗 Media=II Generation

旋架
ファンタジー
人とモンスターがともに生き、支え合うその時代。 人がモンスターをカード化し、力を借りるようになった時代から長い時が流れ、両者の関係はさらに強くなった。 五仕旗。 モンスターを召喚し競い合うそのカードゲームは、人とモンスターの生活の一部として当然のものになっていた。 流導類清は、とある目的のため、モンスター達とともにそれぞれの国を巡る旅をしていた。

五仕旗 Primal Generation

旋架
ファンタジー
人とモンスターがともに生きるその時代。 人はモンスターをカード化して力を借り、モンスターは人の知恵を借りて生きていた。 五仕旗。 モンスターを召喚し競い合うそのカードゲームは、人とモンスターの娯楽として親しまれていた。 その一方で、人間との協調を拒むモンスターが各地で人やモンスターを襲撃しはじめた。 果地繁風はそれらのモンスターを静めるため、弟の風瓜とともに旅に出る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】  『アルゴノート』  そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。  元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。  彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。  二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。  かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。  時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。  アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。 『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。  典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。  シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。  セスとシルキィに秘められた過去。  歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。  容赦なく襲いかかる戦火。  ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。  それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。  苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。  ○表紙イラスト:119 様  ※本作は他サイトにも投稿しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

超能力?ステータスブースト

タイラン
ファンタジー
人には何かしら特技がある、だが世界には超能力と言う強力な力がある 選ばれた人間が通う事が許される、超能力学園などがある世界 そんな中、普通の高校一年、赤薙彼方は何故かステータスを持っていた コレも超能力か、と思ったがまさかのゲームシステムだった、その上訳の分からない説明まである その上死ぬと、覚醒した日に戻る コレは本当に超能力なのか???

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...