闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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店に入ると、今日のバイトの廣瀬君と渡辺君が掃除をしていた。

「お早う。」

「「店長、お早う御座います。」」

この店は今はもう俺が引き継いでいるので俺がオーナーであるが、昔からの常連客はじぃさんをマスターと未だに呼ぶのでいつの間にか俺の事は店長と呼ぶ様になっていた。

「今日も宜しく。」

「「宜しくお願いします。」」

店内は彼等に任せて厨房に向かう。
中に入ると駿二がケーキを作っていた。

最初は俺が作っていたが駿二が自分も作りたいと言い出した。  
バイトの頃は主にフロアーで接客がメインだったが、俺が厨房で料理を作りじぃさんが休憩に入ると珈琲も淹れてたりと、忙しそうに動き回る俺の手伝いがしたいと思ってくれたらしいがそんな事は言わずただ興味があるからと。それで、家で家事をしていたのでまずはスパゲティを頼む事にした。ミートソースはまとめて作ってあるし、カルボナーラ(うちは生クリームを使わない。)は分量を量り混ぜるだけだし、タラコも同じだからそれらを任せた。慣れて来たらサンドイッチ・ケーキとランクを上げて行って、今はケーキは何を作るかも任せている。

「今日は何を出すんだ?」

「今日は、ショートケーキ・ガトーショコラ・ベイクドチーズケーキとミルクレープ。今日は寒いから2個づつ作るよ。」

俺はミートソースとピッツァのソースを作る。煮込んでいる間にポテトサラダも作っていると開店時間になる、作り終わるとエプロンを着け直し店内へ。カウンターに入り豆の準備をする、ある程度はじぃさんがしているので続きをする。未だ未だじぃさんの領域に達していないので常連客はじぃさんの淹れたのを飲みたがる、50年以上のベテランと比べても仕方ないので精進するのみ。


今日は寒く天気も少し怪しいので花見客は少ないらしく来るのは常連ばかりだ。

「眞一何か良い事あった?」

幼馴染の滉一こういちが珈琲を飲みながら聞いて来る。

「可愛い家族が増えたから。」

「可愛い家族?」

そう、可愛くて可愛くて可愛くて閉じ込めて置きたい位可愛い。俺の家族だ。

「今度は何を拾ったんですか?犬?猫?見せてくださいよ!」

俺はよく動物を拾って来る、先日も猫を拾って里親に出したばかりだ。愛も里親に出したかったんだが、人好きなので店にもよく出て来て看板猫をしている位人懐っこいのに、いざ里親となると嫌がるのだ可愛がる人には近づくが飼いたいと思っている人には近づかない。何故判る!?それで仕方なくうちで飼っている、今では大事な家族だ。

「違うよ。もっと可愛い子♪ダメ会わせない、未だ休ませないと。」

「怪我した動物?」
「違う?ハムスターとか?」
「意外と梟とか拾って来そう!」

女の子達が勝手な事言っているが流石未だ梟はないぞ。
怪我した烏ならあるが。

「・・・・・違うな。」

「どうした?怖い顔して?」

「・・・・・解った!!駿二だ!!」

「僕ここに居ますよ。それに新しいくはないと思いますが?」

「いやすまん。そうじゃなくて、学生時代の駿二の時みたいだなあと思って。」

「なんじゃそりゃ?」

「お前、学生時代駿二を大事にし過ぎて心配になった時期があるんだよ。」

「あぁ、お前ずっと心配してたな。」

俺は昔駿二が可愛くて心配でな時期があった。それを周りの人間は心配したのだ、αである俺がΩの駿二を大事にしているので‟番”にしてしまうのではないかっと。俺はただ弟を大事にしてたつもりだがやり過ぎて見えたらしい、Ωだから過剰に心配してたのは確かにあるのは認める。これ以上誰にも家族を奪われない様にしてたのだろう・・・。

今では俺の愛情過多と理解してくれている。
例え駿二が女性でもαでもβでも同じ様にしていただろうと。

「つまり!‟番”出来ただろう!」

「未だ、番ってない。」

「「「「「未だ!?」」」」」

「けど、番う気はあると?」

「相手次第だけど・・・。」

「お前が逃す訳ないじゃん。」

「・・・。」

「「「「「ショック!!」」」」」

「店長さんは‟番”作らないで!」
Ω私達のαでいて!」

「お前とうとうハーレム作ったのか?」
「作ってないわ!!」

確かに当店ではΩを保護している。襲われた子や発情してしまった子とかを薬を飲まして奥で休ませたりしているが、ハーレムを作ったつもりはない!

「Ωにとって兄さんは特別だからね。」

「どうゆう意味?駿二にとっても兄として以外にも特別だったりする訳?」

「僕達は常に襲われる恐怖と戦っている。この辺の人達はわりかしΩに寛容だけど、中には人とも思ってない人も多くて、何をしても許されると思っている人は結構いるんだよね。」

「「「「「・・・・・」」」」」

「発情すれば所構わず誘ってしまうし、自分も相手も自分の意思ではどうにも出来ない。けど、兄さんは違う。僕達が発情しても襲って来ない。それがどんなに安心するか・・・。薬を打ってまで側に居てくれる、発情しているのに襲わない人がいる守ってくれる、薬を打っても兄さんにはキツイはずなのに・・・救急車を呼んだり薬をくれたりして対処してくれる。」

短時間なら薬を打たなくても耐えられる、辛いのは俺より彼等だろうし。
最悪の事態を避けたかった、目の前で襲われた人を何度も見て来たから。不本意な相手としたくないだろうし、万が一‟番”にされたり妊娠したりしたら大変だ。

同じαとして許せなかったし
同じαと思われたくなかった。

ただの自己中でしかない。


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