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その14
しおりを挟むアヤカのメイドになって与えられた部屋は、小汚い屋根裏部屋だった。
それでも地下牢よりもずっといいと思っていたのだが、問題は、屋根裏に取り付けられたベルにある。
このベルはアヤカの部屋と繋がっており、用事がある時はアヤカはこのベルを即座に鳴らしてくる。
今日メイドになったばかりだと言うのに、既に数え切れぬほど鳴らされたそれは、今また再び音を立てていた。
サラは急いで青い花を手短にあったガラス瓶に入れ、水を注ぐ。
かろうじて陽の当たる窓辺に置き、アヤカの部屋へ駆けつけた。
「遅い!」
アヤカの部屋へ入るや否やそう言われ、頬に痛みが走った。
「ジュード様とのお茶会はとっくに済んだのよ! それなのにあなた、今まで何処に居たの!?」
「……裏庭の手入れをしておりました」
「はっ。まさか、本当にあの小汚い庭に言ってたの? 信じられない」
行けと言ったのはアヤカではないか。
しかしそれをこの場でいうほど、サラも馬鹿ではない。
これ以上何を言っても無駄だとわかっているので、サラは静かに頭を下げた。
アヤカに反抗しても自分が痛い目をみるだけだと、もう体が分かってしまったのだ。
反抗しようと意気込む度、右肩の傷が疼く。ハンコックの治療のお陰で激痛ではないが、やはり動かすと鈍い痛みを放つそこは、サラの反抗心を押さえ込むには十分だった。
「ほら、とっと靴磨きなさいよ」
「え……」
ドクン、と、サラの胸が嫌な音を立てた。
目を瞠るサラの反応がお気に召したのか、アヤカはニヤリと嘲笑するような笑みを浮かべ、ソファーで組んだ足をサラの前に差し出した。
「聞こえなかったの? とっとと磨けって言ってんのよ」
「……分かり、ました」
大丈夫。堪えろ、私。
どれだけ惨めでも、生きてさえいればなんとかなる。
今日の夜、またノアに会えるかもしれない。
それだけを胸に、サラはアヤカの前に跪いた。
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